第10話 『銅』の魔王


――魔王戦争 2時間前


 

 『原初の魔王』から呼び出され、俺は今よくわからんところにいる。

 真っ白な空間に玉座に座る爺さんと俺の隣に『銅の魔王』がいる。

  

 予想だが事前説明会みたいなもんだろう。 

 『銅の魔王』は堂々と、そして俺を見下すような視線をぶつけてきながら姿勢よく立っている。



『諸君ら世代初めての戦争じゃ。他の魔王も多数観戦予定じゃ楽しませてみよ』


「Gランクしか呼べない出来損ない魔王は『銅の魔王パカル』が処分してみせます」



 さすがに随分な自信だ。

 身に纏っている銅の鎧は少し眩しいが立派なもんだ。

 赤茶色というような髪色した自信満々な顔した人間型の魔王のようだ。



『この戦争に負ければどちらかは死ぬ。白熱する死闘を期待しておるぞ』


「ちなみに褒美というのは忘れていませんか?」


『もちろんじゃ、楽しみにしておると良い」



 『銅の魔王』さんは勝った時のことをもう考えているらしい。

 きっと俺よりだいぶ上の戦力を誇っているんだろうが、さすがに余裕すぎないか?



「『大罪の魔王』、貴様に勝ち目なんてものは無い! どれだけチケットで良い魔物を召喚していようと僕の『銅の騎士団コッパ―パラディオン』には敵うまい!」


「精々足掻かせてもらうよ」



 わざわざ自軍の情報を教えるなんて余裕な奴だな。

 それほど自信のある魔物軍なんだろう、目の前で身に着けているように銅の武器や防具を纏っているだけで単体戦力はかなり上がるだろう。

 予想だけど騎士団ってことは地上を歩いて進軍してくる鎧みたい軍団なんだろうな。










 ただの激励会だった呼び出しを終えてダンジョンに戻ってくる。

 ガラクシアとポラールは昨日くらいから緊張していたが、時間が迫ったことにより逆に落ち着けたようだ。

 できる準備は全部やったつもりだ。

 ダンジョンレベルは7でギリギリ配合可能までは届かなかったが仕方ないこと。


 今は食事をとって戦争に備えているところだ。



――ジューッ!



「このお肉美味しい!」


「本当ですね」


「ステーキは美味しいな~」



 戦争前に満腹になるまで食べることが良いかどうかは置いといて自分の士気をあげるためにも「ステーキ」を食べている。

 なんとなく肉を食べておけば力が漲るんじゃないかっていう考えだ。

 ガラクシアとポラールも気に入ってくれたようでガンガン食べているし、ブリザードイーグルや虎蜘蛛もスゴイ勢いで食べている。


 ダンジョンに冒険者が来るようになってDEは着実に増やすことができている。

 ガラクシアの力で洗脳した冒険者に広めてもらっているのも大きい。

 さすがにサキュバスの存在がバレてしまったのもあるが抜群の宣伝効果だった。



「さぁ、作戦通りに頑張ろうか」


「は~い!」


「はっ!」



 ギリギリの戦いになるだろう『銅の魔王』との戦争。

 俺は俺で描けるだけの作戦を考えて準備した。

 後は判断力と対応力の戦い。

 魔物の戦力は確実に向こうのほうが上手だろうからそこを覆すくらいの戦術と勢いでやるしかない。



 時間になる前に指定された荒野へと俺たちは移動した。








――『銅の魔王パカル』のダンジョン  『銅の塔』



「さぁて! 我が軍の力を見せつけてやろう!」



 後数分で開始のアナウンスがあるらしく、それを待てということだ。

 早くあの出来損ないを処分してやりたい。

 ダンジョン入口に並ぶ我が魔物軍を眺める。


 「霊銅鎧」を先頭に「オーク」「ハイゴブリン」「リザードマン」といったような人型の魔物に僕の力である『銅』の力で鎧と武具を作ったのだ。

 平均でDランクはあろう軍団に銅の装備で戦力をあげる。

 Gランクの軍団しか作れぬ出来損ないでは突破は不可能であろう。



「パカル様、間もなくお時間です」


「よし! 塔の頂上から戦局を見るとしよう!」



 僕の力で真名を与えた「狂乱のハイオーガ」のバークスだ。

 先輩風を吹かしてきた『狂気』の魔王の力で生まれたAランクのこいつに真名を与えてやったのだ。

 正直バークスを1匹で出来損ないを壊滅させるのも良かったが、それでは観戦している他の魔王に実力を証明できないのでやめた。


 僕にはバークスの他にも最前線で騎士団の指揮をとる「死霊銅鎧王」のブロングスというAランクのリビングアーマーがいるので問題はない。バークスには少し劣るが僕の魔名を配合した騎士団長に相応しい魔物だ。



 煌びやかで美しい我が軍を見ていると空からデカい声が木霊する。



『もう間もなく‼ 『銅の魔王パカル』vs『大罪の魔王ソウイチ』の試合が開戦です! コアのモニターで見ている他の魔王の皆様お元気でしょうか!?』



 噂では全体の90%ほどの魔王が観戦するとの話を聞いており、僕の勝利予想が圧倒的に上という噂だ。

 まぁ見た感じ出来損ないのダンジョンは洞窟型でダンジョン前に並んでいるのは偵察したときに確認できたのは「スケルトン」「ゴブリン」「一角ウサギ」と本当にGランクだけで笑ってしまうよ!



『実況解説は『音霊の魔王シャープ』が務めさせていただきます!』



 僕たち以外はそれぞれのダンジョンコアに表示されるモニターから実況を聞きながら観れる仕組みらしい。

 戦争が始まれば実況の声は僕らには聞こえなくなる。



『最北に見えるは統制された騎士団! 鉄壁に見える銅の武装を身に纏った軍団を率いるのは同期1万の魔王の中から選ばれた『銅の魔王パカル』だぁぁ!』



 なかなか粋なことを言う実況者じゃないか、間もなく開戦される戦争前に昂らせてくれる。

 さぁ出来損ないはどんな紹介をされるのだろうな?



『最南に構えるは『大罪の魔王ソウイチ』だ! Gランクの魔物しかコアから召喚できない驚くべき縛りがある中、ダンジョンレベルが7で戦争をする歴史上初の魔王だ! サキュバスに真名を与えたことでも有名な魔王は戦場で何を見せてくれるのか!?』



 まだダンジョンレベルが7だと!?

 笑わせてくれる。

 ダンジョンレベルが7ということは先輩魔王からの援助の1度を除けば配合をしたことがないということだ。

 さすが出来損ないだ、とことん笑わしてくれる! 時間をかけずに一瞬で我が軍の力で踏みつぶしてやる。



『さぁ! ルーキー世代の初戦争! 今年はどのような戦いを見せてくれるのか! いざ開戦です!!』



 空に何発もの花火があがる。

 それと同時に僕は塔の上から騎士団に指令を出す。



「さぁ! 目の前の雑魚をなぎ倒してくるのだ!」



「「「「「「「「オォォォォォッ!!!」」」」」」」」



 総勢400はいるであろう銅の武装をした魔物が勢いよく進んでいく。

 確かに武装をしている分速さは無いが、出来損ないには関係ないだろう。


 もし第1陣がやられても戦争中2万DEは使用可能なので魔物を呼んで僕の『銅』のスキルでもある魔力を消費して銅の武具を作って再び攻めてやればいい。


 出来損ないのダンジョンはさすがにここからでは見にくいが、すぐにここまで到達できるような魔物はGランクではいないので来れてもチケットで当てた魔物だろう。



「パカル様、上空から凄まじい速さで近づく魔物がおります」


「なんだと?」



 バークスに言われるがまま少し上を見ると青色の鳥が足に大きな袋を掴んで飛んできている。

 まさかチケットで鳥系の魔物を引き当てていたとはな! 

 僕も塔の上で待機させていた弓部隊で狙いうちにしてくれる!



「さぁ! あの小鳥に狙いを定めるのだ! どんどん放っていけ!」


 

 青い鳥は我が軍の真上に近づいてきている。

 すると持っていた袋を落としたいのか下を確認している。

 今が狙い時だ!



「放てぇぇぇ!」



――ヒュンッ! ヒュン! ヒュン!



 20体用意した「アーチャーオーク」が巨大な弓から矢を放っていく。

 オークのパワーから放たれる矢に当たれば鳥の魔物なぞ恐れるに足りない!



――パリンッ! パリンッ! パキンッ!



「なんだと!?」



 「アーチャーオーク」の矢が鳥に近づいた瞬間凍り付いて砕け散ってしまった。

 いったいどんなランクの魔物だ?


 矢は1つも当たることなく凍り付いて散っていく。


 そして青い鳥は我が軍の真ん中目掛けて袋を落とした。



「何をするつもりだ? 警戒せよ!」



 落ちてきた袋に反応した銅の武装をした「リザードマン」が地面に落ちる前に剣で切り裂く。

 良い反応をしている! さすがだ!


 「リザードマン」の剣が当たった瞬間。



――ドドドドドドゴゴッ!!



「なにぃ!?」



 袋を「リザードマン」が攻撃した瞬間爆発が起こった。

 爆発するような罠は簡易地雷しかダンジョンレベルが7では製作できなかったはずだ!

 くそ! なんの魔物の力か知らんが小賢しいことをしてくれる。


 だがその程度の爆発で崩せるとでも思っているのか!?



 爆風で巻き起こった砂埃が晴れると、さすがに直撃を受けた20体ほどはやられているが、爆風や何かの破片に当たった者は鎧に少しのダメージを負っただけで済んでいる。



「どうせ鳥は一匹しかおらんだろう! 怯まず進むのだ!」



 僕が指令を出したその瞬間、爆風を受けた魔物数体が仲間に武器を振るっているのが見えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る