第9話 『王虎』の魔王


 『王虎』ミルドレッドが『原初の魔王』からの依頼で初戦争をする新米魔王にアドバイスをしにきてくれた。

 戦争3日前に戦場が用意され一部地域を戦前に訪れることができて罠を仕掛けたり準備をすることが可能らしい。

 戦争前に相手ダンジョンを襲撃するのは禁止されているが、相手が街を作っていた場合は入ることは許可されている。

 戦争は互いのコアを破壊するまで続き、ダンジョンの入り口に戦場と繋げられるので自分ダンジョンの防備もしっかりしなければいけない。



「見せてもらったけど防備に関してはよくできていると思うよ」


「罠メインだからな。新米同士の戦いの中では有効なはずだ」


「Gランクしかコアから召喚できないのは、さすがに笑っちゃうけどね」



 やはり他の魔王は基本この時期には配合ができるようになっていて、Aランクの魔物1体は戦力にいる感じらしい。

 

 今回の戦争は他の魔王たちも多く観戦する予定らしく、今後のダンジョン繁栄に繋がるようなので魅せる戦いをしたほうがいいとのことだが、そんな余裕はない。



「まだ配合できるLvではないけど先輩魔王の援助として私の『魔名』を特別扱いで配合させてあげるよ」


「なるほど……じゃぁ『銅の魔王』にも確実に強い魔物がいるってことになるな」


「向こうも援助されてるだろうからね」



 『王虎』を配合させてくれるらしい。

 Sランクの魔名なので変な配合でなければ大幅な戦闘力アップになるらしいので誰に配合するか悩ましい。

 配合は基本的に1度が好ましく、同じ魔物を何度も配合するのは悪い方向に進む可能性が大きいらしいので難しい。



「鬼蜘蛛かブリザードイーグルになるのかな」


「私の『王虎』は俊敏性のある地上戦が得意な獣の力を与えることができて、『指揮官』系統のアビリティを覚えやすいよ」


「よし、鬼蜘蛛にするよ」



 ミルドレッドに決めたことを言い、コアの前まで一緒に来てもらう。

 先輩魔王の権限でLvが足りなくてもやらせてもらえる1度の配合だから、今のうちの一番の戦術となっている鬼蜘蛛に決めた。

 一番心配なのは配合で強くなるのは良いけど爆弾を作れなくなってしまうと致命的なので爆弾製作がさらに伸びる方向に賭けた。


 コアをタッチして配合を選択する。



『確認:『王虎の魔王ミルドレッド』の権限で1度だけ配合が可能です』


 鬼蜘蛛に『王虎』の力は配合する。

 鬼蜘蛛は特に動揺も無く大人しく俺の後ろに待機してくれている。


 再度画面をタッチするとミルドレッドから現れた『王虎』のカードが鬼蜘蛛に吸い込まれていく。

 鬼蜘蛛の体が輝き始めていく。

 少しずつ光が形を変えていき、どんどん大きくなり4mほどの大きさにまで光の形は膨れ上がっていく。



「随分大きな蜘蛛になりそうだね」



 現れたのは白い縞々模様が追加された巨大な鬼蜘蛛だった。

 全身黒だった頃よりは隠れるの大変そうだし、放っている威圧感がなかなかで存在感がある。


 さっそくステータスを確認してみることにする。



 【鬼ノ虎蜘蛛】 昆虫族 ランクA 真名 無し 使用DE2000

 ステータス 体力 B  物理攻 B  物理防 B

       魔力 S  敏捷 B  幸運 A

アビリティ ・爆破の達人 S

      ・魔力喰らい A

      ・王者の威圧 B

      ・戦場の指揮者 B

スキル  ・爆卵産み S

     ・鋼の蜘蛛糸 S

     ・自己再生 A

     ・毒の牙 B

・ランクB以上の蜘蛛系魔物+ランクA以上の獣系魔名

 

 ・通常の鬼蜘蛛よりも巨大だが、そのぶん、身を隠す術は無くなってしまった。更に威力の増した爆卵に相手のステータス低下を起こすアビリティや鋼のように硬く粘着性もある蜘蛛糸を使って獲物を仕留めるようになった。



 単純に大幅強化された鬼蜘蛛。

 隠密系のアビリティやスキルが無くなってるのが痛いな。

 少し戦術を弄らなくちゃいけないけど強化された分やれることが多いはずだ。



「王者の威圧は自分より2ランク以上下の魔物のステータスを1段階下げられる良いアビリティだね」


「でも威圧感の届く前線に置くつもりは今のところないんだ」


「まぁ戦術の要だそうだからね。前線で注意を引けるような魔物がいればいいんだけどね」


「そこらへんは罠と数を利用して戦っていくさ」


「良い心がけさね」



 配合してかなり強くなった虎蜘蛛の強さを確認することも含めて、ミルドレッドに手伝ってもらって戦い方をさらに詰めないとな。

 『銅の魔王』についても少し調べていきたいが、俺には情報網も無ければ知り合いの魔王もいないのだから集めるのが難しい。


 だから今は自分の戦い方を極めていくのが最優先ってことだな。








――魔王戦争 3日前



「メイン戦場は10㎞ほどの広さがある荒野か」


「入り組んではないけど、岩が多くてゴチャゴチャした戦いになりそうだね」


「何もない平面じゃなければ考えていた策はやれそうだ」


「『大罪』じゃなくて『爆弾』の魔王に変えてもらったほうがいいよ!」



 豪快に笑うミルドレッド。

 自身のダンジョンも運営しながら俺の様子を見に来てくれている。

 スキルやアビリティの性能実験に付き合ってくれたり、戦術について話し合うことができるので本当に助かっている。


 確かに虎蜘蛛の爆卵を使うのがメイン戦術なので『爆弾』と言われても仕方ないけど、『大罪』の力は見せてないだけで戦術の肝となる力だ。


 世話になってるしミルドレッドにだけは説明してみるか、何かアドバイスを貰えるかもしれないしな。



「まだ見せてないけど、俺の『大罪』の力は戦争でも役に立つ」


「ほう…教えてくれるのかい?」


「信用してる証拠だ。もし気付いたことがあれば教えてほしい」


「面白いじゃないか」


「俺の魔力を一定以上取り込んだ魔物に『大罪』を背負わせるのが俺の力なんだ。今考えているのが虎蜘蛛の卵に俺の魔力を注いで爆発で仕留められなかった奴に『憤怒』を付与する」


「するとどうなるんだい?」


「その名の通り『憤怒』を付与された奴は我を忘れて暴れまわる。敵味方関係なしに襲いまくる奴を増やして敵の統制を乱すのが第一の作戦だ」



 戦争開始と同時ブリザードイーグルに俺の魔力を注ぎ込んだ爆卵を持たせて、できれば大群で来るだろう敵の中心に空爆を行いたい。

 俺の力が通じるならばそこから軍は乱れていくはずだし、敵同士で争ってくれる分にはこちらの被害無しで相手の戦力を削ることができる。



「相手が数でゴリ押ししてくる前提なのかい?」


「俺がGランクしか呼べないのは知られてるからな。ある程度の質のある魔物の数で押すのが定石だろう」


「まぁ大群で来るかランクの高い魔物数体で突破するかだね」


「どっちにしても俺の力が通じるならば相手に大きな乱れを与えてやれる」


「さすがSランクの魔名だね」



 中央が乱れればそこからは『怠惰』の魔力を付与した子蜘蛛に最前線を襲わせて戦意を削いでいく。

 自分の魔物にも爆卵を持たせて特攻する作戦もあるが、それは最終手段だ。

『憤怒』と『怠惰』の力を使った作戦が攻めの中心になると思う。

 虎蜘蛛がすべての作戦の中心であり、ブリザードイーグルの活躍が勝敗を大きく左右してくるだろう。

 守りはガラクシアとポラールという信頼できる2人が気にしながらやってくれるから安心できる。



「後は相手の策略にどう対応できるかだね」


「相手のダンジョンコアを守っている魔物も含めてできれば全部前線に出していきたいな。俺にはダンジョンを攻略するのに適した魔物が少ない」


「自分の土俵に相手の全戦力を誘うってことだね」


「そういうことだ」



 相手の勢いを削いで軍を乱して流れを持ってくる戦い方がメインになる。力押しもできなければ鉄壁の守りなんてものもないからな。

 相手のAランクの魔物にどう対応するか、そして『銅』の力に対応できるのか否かが鍵になるはずだ。



「いや~若いね~! 昔を思い出すよ」


「ミルドレッドは戦争していないのか?」


「最近はまったくだね。誰も私に襲い掛かってこなくなったよ」



 ミルドレッドは150年ほど魔王をやっていて、中堅を越した感じの立ち位置らしくSランク魔王の中でもかなりの実力者らしい。

 『王虎』『天風』『水』『空』の4人が同世代で盛り上げていたらしいが、全員がSランクになったころには自分たちに挑む者もいなくなり安定した魔王生活を送ることになっていたらしい。



「上の世代も同じ感じさ。ここまで来て死ぬのは嫌なんだろうね、裏では皆コソコソやってたり人間を従えて巨大な国を作ったりで戦争はしてないね」


「そういうもんか」


「私の同期も8人くらいになってるしね」



 最初のうちは強さを求めて戦いまくるけども気付けば命が惜しくなってリスクある戦争はしなくなるってのはなんとなく分かる。

 魔王のメインの役割は人間に対してだから悪いことじゃない。



「今年は冒険者になった人間もとんでもなく多いって話だからね」


「死なないように頑張らないとな」


「その通り!」



 名のある冒険者や勇者はかなりの力を持ち、短時間で1つのダンジョンを攻略するような猛者らしいので気を付けなければいけない。


 俺を笑った奴らを叩き落としてやるためにも、しっかり準備をしないとな!

 

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