昨今の現代社会を愚痴りたい人のカレーなる異世界転生スローライフ
スライム道
第1話
転生して早10年、ここの生活にもだいぶ慣れてきた。
「ふう誰にも邪魔されない趣味一色の生活は楽しいな。」
独身貴族になりきれない独身者はこうして独り言を喋ることで孤独を紛らわす。
「今日は今朝撮ったスパイスやハーブでインド料理を作ってみるか。」
ここは異世界、もちろんレシピをググるなんてことはできない。
だから実験を行うように日々の実験から料理を試行錯誤していく。
「最初の頃は酷かったからな。超激辛カレーになったりナツメグの量を間違ったりしちまったしな。」
転生知識チートのようなことは一切していない。
この10年間試行錯誤の毎日だった。
野山にある食物の生息域を調べ上げては栽培方法を確立しつつ保存方法を一個一個複数の方法を用いて飢えないよう料理をしていく日々。
忙しいと言えば忙しかったし失敗もたくさんしたけれど一度死んだ身であるせいか生きること自体が趣味のように感じる。
現代社会のようにネットも電気もガスも水道もインフラが全くない生活ができるかどうか心配だったが童心に帰ったような失敗の数々から楽しくも思えた。
1年1年が覚えていったかと思ったら新たな発見も多く見つかる。
現代社会なら当たり前だった常識のような教育がここでは全てが未知であり全てを実験しなければわからない事象だらけだった。
まるで自分が天才と言われた科学者にでもなったようでとても楽しい。
異世界転生=チートというようなことが描かれているが実際はそんなことは無く神から貰ったものは20年ほど子ども同じような知的好奇心と適応能力を得るという何でもないものだった。
しかし一見地味なこの恩恵でも異世界初期にはかなり役に立った。
日本に住んでいた時はあまり気が付かなかったのだがこの辺の川の水を沸騰させて飲んだところ見事にお腹を壊した。
もちろんろ過もしたし魚がきちんと泳いでいた川の水だ。
しかし1週間ほどでそれも収まったことから水の合う合わないという現象が起きたようにも感じた。
「実際に会ったことは無いけどミネラルウォーターを飲んだ時もお腹は壊したしな。」
食べ物だけでなく衣服も無く。
山で毛皮になる動物を狩ろうとしてみたり、蚕のような生物はいないか探してみたりといろいろしていたのだが……繭玉を作るような生物はいなかった。
「しかしチートを使って転生する人が多いって聞いたけどそんなんでいい人生が送れるのかね?」
そもそもこの異世界は魔力が存在しているらしくその存在は広く周知されている。
しかしそもそも知覚すらしていない世界から来た住民がいきなりそれを扱えるようになるというのは今までの人生を否定されているようなものではとも思う。
というかその時点で今までの自分とは違う自分となるわけでその場合はサイボーグと同じような状況ではないかと思う。
自分の価値観を人知れず大事にしたい人からすれば異世界転生なんてものは破滅への道にしか感じられない。
俺のように元山猿のような生活をしていればまた違った人生が歩めたかもしれないが基本的に最近の若者のように法に守られた生活をしていれば精神を弄らなければ異世界なんてものには適応できないと考えられる。
なんというか自分で何かを成し遂げるというよりかは自分を変えたい欲求が見えている気がする。
自分を帰るために異世界転生を望むなんてそんなの整形手術を望むようなものだ。
「……と愚痴ってみたわ良いものの、誰も共感してくれないだろうな。」
当然だ。今までベストセラーを叩き出してきた小説たちは主人公の多大なる変化を加えていくことでヒットしているのだから。
「っつうか俺が小説書き始めたのって愚痴をツイートするのは不味いから異世界転生風にしたんだっけ……。」
もちろんヒットするなんてことはなくただただ批判の感想文を頂いた小説にしかならなかったが…まあ一部暗号を交えてかなり遠回しに愚痴っていたのが共感してくれる読者もごく僅かだが居てくれた。
「まあネット小説を社会人で読む人は中々居ないしクソ上司なんて読者は遊び心が無い趣味とか言いやがるしな(本当に言う人は居る)」
大人に成ればなるほど社会は複雑化していくのに実際の大人はそれを守ろうとしないがためにどんどん社会は腐っていく。
正義感の強い奴は馬鹿を見る運命にあるかは知らないが下手正義感を持っても何も良いことが無いというのはどんな国でも変わらないらしい。
「しかし、昔は良く独り言の多い奴って言われたな。」
実際多いのだが……。
「しかしな。科学的に証明されているとは言うけれどそれもどうなのかね。」
実験という形で証明したわけでもないしどちらかというと予想に近いものが多い。
「この世界には人間以外の理性型知的生命体もいるって聞くし人間がそれだけなのか理性型知的生命体がそれに該当するのか調べてみるのもありだよな。」
理性型知的生命体とは俺の勝手な造語だが知的生命体が未来を見据える力を持った生物に対して本能、もしくは遺伝子を通した本能を抑え込むことをする生物のことだ。
なぜこのような造語を作ったかとすると、それは前世でしていた仕事に関係していた。
「サバンナに行ったこともあったな……まあそれで妻に逃げられたけどその前の仕事は辞めて正解だと思ったし。」
前世の仕事はフリーのカメラマン兼ライターで様々な地球上の現象を見て観察するような仕事をしていた。
世界各国を飛び回り撮影と共にそれまでの感動をどうにか伝えようと執筆をして言った。
その過程でアフリカのサバンナ(雨季乾季があり少数の木なども生える熱帯草原地帯の総称)でアフリカゾウの生態を観察したことだった。
彼らは人間と同じく死者を弔うことをする。
そして遺伝ではなく経験で未来を見据えて旅をする。
モノを作ることをしないだけで人間の一歩手前と呼べるような存在では無いかと俺は感じた。
しかし本能を押さえつけることができるかどうかは調べようようが無かった。
だから人間を上位の存在としたうえで理性型知的生命体と称した。
「神様と話したときは面白い考え方をしていたって言われたっけ?」
俺にとって神とはシステムのようなものでなければ存在できないと感じている。
「ペアノの公理(数学でやる1+1の証明とかする時に必要な自然数の考え方)を真っ向から証明できていないって言ったら人間らしいって言われたな……。」
ありとあらゆる論文もあくまでも人間が探した範疇での証明でしかないからという理由でそんなことをぼやいていた。
「ペアノの証明に穴がある理由としてはそもそも1の存在を証明できていないからとか神様と一緒に愚痴談義していたしあの柱(人)上司の悪口のとか俺とほぼ一緒だったし会社で同輩になれたら仲良くなれたのかな……それに妻とも離婚せずに済んだのかな…………。」
いつも通り海外から家に帰ると書置きと共に離婚届が置かれていた。
「そういえば妻はなんて書置きをして行ってしまったんだっけ?」
何故かそれが思い出せなかった。
別れ際のショックで忘れてしまったのだろうか……
「まあ人間の生物寿命は生きれたし満足かな。」
人間の遺伝子的な意味での寿命は約39歳と短い。
さまざまな要因が積み重なり今の100歳寿命のようになっていると考えられるがその実態はわかっていない。
「でも子どもは欲しかったな……いやもっと妻を愛したかったが正しいか…」
結婚して自分の時間は減ったし妻にも逃げられてしまったことから幸せな生活とはお世辞にも言えなかったとは思うけれどもそれ以上に妻のことが愛おしく思っていたことを覚えていた。
告白は妻からだった。
当時写真部に所属していた僕に被写体をものすごい眼光で見つめる僕が好きという告白を受けた。
「だから仕事にフリーになってからは仕事に打ち込んでいた方が良いとは思ったけど妻は真近でみたかったのかな?まあでもこの世界に来てしまったし地球ではどうせ死んでいるか存在そのものが抹消、もしくは世界そのものがなかったことになっと考えるのが妥当かな」
なにぶん異世界に来たせいか童心に帰ったような雰囲気になってしまう。
今住んでいる山の中でさえ地球とは異なる未知の進化を遂げた植生、動物に心躍らせられている。
奇しくもそれが妻と別れてしまった傷を癒しているように感じる。
大人に成ればなるほどどんどん人は新たな感動を忘れていく。
だから新たな刺激を求めて若さに興味を持ったりする。
逆に刺激を求めず平穏のみを求めていくのもアリだろうが。
「それじゃあ面白みが無さすぎるしね。」
好奇心は子どもの本文であるが特権ではない。
「好奇心無くして知恵は在らず。知恵求めるは人間の本文に成りけり。……ふむ少々西洋の詩に寄せ過ぎたか……。」
我ながら変人である。
高校時代からこんなに変人だったのだから妻は魅力に感じたのかもしれないが長くは続かなかった。
しかしよくもまあ一人でここまで喋れるものだなと思いつつ人里が恋しくなっているかもしれないと思い始めたころふとあることを思い出した。
「あ、今日は行商の人が近くを通る日じゃないか。チャツネ(南インドの複数のスパイスと豆を用いたカレー調味料)を用意して狩りに出かけないとな。」
ここ十年で生活基盤を整えるために農業とは別に狩りに頻繁に出ていたのだがその際行く気も無かった街道の方に来てしまい。
その際昼食がてら肉を焼き偶々作っていたチャツネをつけて食べていたら件の行商の人に会い、この世界の言葉と文字を教えてくれる代わりに御馳走することで取引をした。
「とりあえずこのクミンみたいな味がする奴とシナモンっぽいけど香りは全く違う奴と唐辛子っぽい奴で作るか。後は定番スパイスで充分だろ。」
調合の分量?
「勘と気合で何とかなるしな。」
スパイスを石挽きでゴリゴリと潰していく。
挽き立てのスパイスはとても香りも味も濃く普通のカレーと同じ分量を入れたのでは日本人である俺にはとてもではないが食べられないのでかなり少なめに入れていく。
「そういえや10年前に居たクソガキは元気にしてかっな。」
行商人と共に街道を訪れていた子どもを思い出す。
「騎士団長になるとか息巻いていたけどこんなおっさんに向かってくるなんてなあ。」
木の棒を持ってこちらに良く攻撃を仕掛けてきたものだ。
まあ髭などを一切剃っていないためモジャモジャの怪物に見えたのかもしれないが……。
「まあ行商人のおっさん曰く俺の成りは蛮族そのものだって言ってたしな……しゃ―ねえか。」
カメラマン時代も大自然にガイドなしで行く場合はこんな感じになっていることが多かったしその時も髭をモジャモジャにしていたせいかこの姿に慣れきってしまっていた。
「そろそろ時間だな。」
10年かけて作り上げた石小屋と畑を後にして街道に足を向ける。
「最近は若いクマっぽい奴が居なくなってきたな。」
小動物の生息域を荒らすクマに似た生物は基本的には群れで行動しているのだが偶に街道近くの森のはずれにまで行くやつらが居る。
そういったやつらは群れのやつらと違ってその近辺の生物を食い尽くす威勢で食べ始めるもだからこのままでは生態系が乱れると思い積極的に狩りに行くようにしていた。
だがここ最近になってからかそういったはぐれモノが居なくなったように感じていた。
「まあ多分匂いとかを覚えたんだろうな。」
良く野生動物は排泄物や木に触れた時の後から縄張りを認識するというが俺の匂いを覚えたのだろうか?
「手にスパイスの匂いがびっしりい付ているのは知っていたことだしな。」
スパイスの香りというものは野生動物にとっては劇薬に成ったりするものも多いため草食動物に限らず警戒心を高める動物も多い。
それでもここ数十年と来ていたのはクマのような生物は純粋な肉食動物もしくは薬物耐性のある生物だと考えるのが妥当だと思っていた。
「薬物耐性があった場合は要注意だな。あの畑にはたばこのような煙を纏わせているとはいえ近隣の動物も薬物耐性を持っている可能性が高いしそれを身を守るために好んで食べる生物もいるかもしれない。」
本来タバコや麻といった植物は防虫作用の目的で使われてきた。
特に麻は繊維にもなるし実は調味料になり薬にもなる万能な作物だった。
「まあ万能ってのは使い方次第では兵器成りやすいってことだな。」
核兵器だってそうだ。
あれは地球温暖化の原因とされる温室効果ガスこそ出さないが放射能という恐ろしい物質を出す。
人間はそのリスクを背負いながら文明というものを発展させていった。
リスクは付き物とはいえ発展させてしまったが故に彼らは先進国と呼ばれ先進国の真似をしようとする発展途上国に規制をかける。
自分たちの失敗をしてほしくないと言えば聞こえはいいが発展に時間をかけろとの言い方をしているようにも思える。
しかし発展途上国も発展途上国でいつまでたっても発展途上国で居るつもりの国も多い。
「先人の知恵っていうけど親からの子どもへの当てつけにしか見えないんだよなあ。まあもう異世界に来ているから関係ないと思うけれどな。」
そろそろ街道が見えてきた。
「…………ん……?」
人の声が聞こえた。
このような街道間近のところで寝るのは珍しい。
しかも今は昼を過ぎたばかりで旅人はまだまだ歩いていく時間のはずだ。
この近辺は水場も無く休むには不向きな地点らしいので件の行商人かそれの関係者以外は通り過ぎるのが通説なのだが……
「きゃあああああああああああ!!!!!!!」
なんか面倒ごとの声が聴こえた。
上を見ると鳥の巣らしきものから子どもの叫び声が聴こえた。
「これもまた自然の掟だ。」
「いや助けましょうよ目黒さん。」
「よ、行商人のあんちゃん。」
童顔で中性的な顔立ちの彼はカレーの匂いを嗅ぎつけた行商人だ。
「よ、じゃないですよ。巣にいる子は多分馬車から顔を出してしまって攫われたかも知れませんし早いとこ助けてあげないと食べられちゃいますから。」
「でもよおう俺は森住みだし他の野生動物に恨みは飼われたく無いんだが……。」
「いやいや、いくら森住まいだからって人を助けたいと思う心ぐらいあるでしょうに。」
「じゃあお前の分の料理は無しなら良いぞ。」
「ええそれで構いませんお願いします。」
行商人は一切迷うことなく即答で子どもの命を助けることを頼む。
商人だから後々のことを考えてお礼とかをもらうのかもしれないが……
俺はとりあえず上の巣を見やる。
あの巣は木の枝や石といったゴッタがえった巣だ。
よく見れば人が使う道具のようなものが見えることから俺の畑を荒らしにくる鷲の大きさをしたカラスみたいな鳥の巣と判断した。
ちょっと前に作物と洗濯物を取られそうになったので石をぶん投げたらあまり来なくはなったがこのようなところにいたのかと学習した。
「そういえやあの鳥はなんつーんだろな。」
異世界に来たからには独自の進化を遂げた生態系を図鑑にするのも良いだろう。
「カメラは欲しいな……でも絵にするのも良いかもしれないな。」
そんなことを考えながら巣のそばまで登っていくとピキピキという何かが割れる音がした。
「「「kyoeeee」」」
「きゃあああああああああああ!!!!!!!こっち来ないでええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
巣に囚われた少女と思わしき声がより一層強まった。
「あらら雛が変えちゃったかね。」
「何のんきなこと言ってるんですか!早いとこ助けてあげてください。」
行商人のあんちゃんは早いとこ助け出すように促してきたのでとっと石をぶん投げる。
「「「Gyopyeeeeeeeee!!!!」」」
雛たちはいきなり攻撃され生まれたばかりで体力も使い果たしていたのかすぐに死んだ。
「うわあああん。」
「これ泣くな。」
親が来るだろうに……
そう言わんとしていたら案の定
「Caaaaaaaaaaaaaaaa」
親が来た。
しかも警戒の声を発して……
「うわぁワシカラス大群があんなにもこんなのスタンピードどころより厄介だなぁ……でもあの人なら何とかしそうなんだよね。本当に人間なのか疑わしいよね。」
なんか失礼なことを言っているが固有名詞は上手く聞き取れなかった。
そもそもこの世界の言葉を練習して多用するようにはなったがまだまだこの世界の動物や植物についての固有名詞は学びきれていない。
行商人からしか学ぶことができないのだから時間も何もかも足りないのもあるが知識不足というのもある意味これから楽しみにはなるかもしれない。
「とりあえずアレを片付けるのはめんどいな。」
というわけで火を起こすことにした。
「防鳥剤を炊いとけば大丈夫だろ。」
俺が作った防虫、防鳥剤だ。
この薬は人体には目に沁みたりしばらくの間鼻が一切聞かなくなると言った副作用こそあれど虫や鳥、はたまた獣までもがが一切つかなくなることから俺の畑で重宝している優れモノだった。
カラスの大群と言えどもこの煙には堪えたらしく別の森に帰って行った。
「おーい大丈夫か?」
少女の方を見ると震えていた。
「大丈夫そうじゃねえな。でもかなり上等な服を着てるな。」
まあ商人も馬車でこの辺りを通ったとアタリをつけていたし、この感じだと豪商か貴族の娘説が濃厚だな。
「まあいいわとりあえずお前持って下降りるから叫ぶなよ。気が散る。」
少女は言葉を飲み込んだのかガクガク震えながらもコクリと頷いた。
「ほらよっと…………。」
片手で少女を抱えるとぴょんぴょんと木の枝をクッションにしながら手早く降りていく。
「ほれあんちゃん助けてきたぞ。」
「ありがとうございますね。ふむふむこの子はもう少ししたところにある町の領主に見えますね。」
「そういえばこの場所はどこの国の誰の領土になるんだ?」
「あれ?教えませんでしたっけ?」
この行商人は何故か土地のことを聞こうとすると話したがらない。
いつもその話題を振ると別の話に切り替えてくるためなるべく話さないようにはしているがこの少女を助けたからには迫って聞いても違和感が無いので言及しにいく。
「なあこの子はとりあえず近場の街にでも送り届けるんだろ?流石にあんちゃん1人で子ども1人連れてこの近辺を行くのは危険だし俺も行くのが筋ってもんじゃないのか?」
「それは…………そうですが……………………。」
「ならきちんと誠意を見せないといかんだだろうに頼まれたとはいえ助けた命そのくらいの情はある。」
「はいわかりました……。」
少女も何故かブンブン頷いていた。
「このおにいちゃん私のパパが独りで何しに行ってるんだって怒ってた。きっと危ないことしてる人。」
「あんちゃん何したんだ。正直に吐け。」
「何もして無いですよ。この子親父さんとは遠い親戚で私に早く身を固めてくれって言われてるんですよ。」
そらあ童顔ではあるが端正な顔立ちだ。
身を固めろと言われるだろう。
この男装をしている女性なら尚のこと。
「なんかとてつもないことを見透かされてしまった気がするのですが……」
「気にするな。おい嬢ちゃんこのあんちゃんに見える人はな実は女の人なんだ。だから誤ってもおじさんとは言ってしまってはまた嬢ちゃんの親父さんに怒られちまうから気をつけるんだぞ。」
「なに普通に女だって気づいていてしかもバラしているんですか!」
「隠したがっているから隠しただけだけど親戚の子だし大丈夫かなって思って………。」
「親戚にもこの子のおじさん以外にはバラしてなかったのに……。」
この子はどうにも結婚したくない理由があるらしいが転移者である俺からするとボーイッシュな女の子に普通に見えていた。
詰めが甘いというかこの行商人は俺と遭遇した時に男性にはないものを押してつけていたのだ。
「だってお前さん初めて遭遇した時抱きしめてきたやん。」
しまった!とでも言うかのように頭を抱える行商人のあんちゃんこと姉ちゃんは頭を抱えていた。
「ううぅいつまでも男の子の気分で居たいから目黒さんの前では隠していたのに……最初からバレていただなんて…………。」
「まあ儚い子どもの願望に過ぎなかったな。」
「じゃあ目黒さん責任取ってください!」
その程度で責任取れって……
ショックだったのは解らないでもないけれどそもそも行商人のあんちゃんのことを良く知らないし、
なにより
「すまんな俺には忘れられない人が居るから無理だ。」
「その方は一体?」
「妻だった人だよ。」
「もしかしてお亡くなりに?」
「いや当時仕事ばかりにかまけていた俺に愛想つかされて離婚しちゃったんだ。」
今でも妻のことが忘れられないのは余程ショックだったからだろうか。
それとも妻以外の女性が好きになれなかったからなのかはわからない。
行商人のあんちゃんも決まずくなったのか押し黙った。
「ねえおじさんは何でこのお姉ちゃんと結婚したくないの?パパはたくさんのママを連れているよ。」
流石異世界、いやこの場合はこの国という表現の方が正しいのかはわからないが一夫多妻制も受け入れられて言うように見えた。
「あ、すみません。この子は貴族の家系でして少々目黒さんの常識に疎いんです。」
「別に構わないが俺はこの国の事情については疎くてな。俺の常識と照らし合わせるために確認の方を取っても大丈夫か?」
「もちろんです!」
「まず、一夫多妻制はこの国では普通か?」
よくある異世界転生物語だと一夫多妻制が何故か普通に認知されているがそれはあくまでも男が減少しやすい環境にあって起こることで戦いや狩りに出る者が女性であれば必然とそれは少なくなる。
寿命が長い生物であればあるほど男女比は1:1に近くなる。
人間だと105:100の割合で男性が優勢だ。
「はい普通ですね。高ランクの冒険者や成功をした商人、貴族などでは一夫多妻制が推奨されています。」
「貴族もか?貴族は戦場にそこそこ赴くのか?」
「いいえ戦場には基本赴きません。しかし貴族間では女性の出生率がどこの国でもなぜか高く各国の研究によれば魔力因子が関係しているのではというのが見解です。」
そういえばこの世界は魔法なんてものがあるんだっけ?
確かここに来る前にあった神様の話だとオド(体内理力)を使えるのが基本才能に依存されていて努力でも使えるがそれは才能のあるものからすれば微々たるものらしく逆にマナ(外部理力)を使えるのは才能に関係なく弛まぬ修行をしたものだけとは聞いたが……
楽しみが減るからとあまり詳しく聞くのを断ったのが少々仇になってしまったようにも感じるがそこは国のそれぞれの違いというところで何とかごまかせるだろう。
しかし出生の男女比にまでかかわってくるとは思っても居なかったが…………
「まあ一夫多妻制がこの国じゃあ普通だってことだろ。」
「はい。」
「俺の国じゃあ法律で一夫一妻制で決まっていてな独身も多かったが子どもをあえて作らない家庭も多かったせいか一人の女性に執着してしまっていてな。」
「でも私なら……」
俺はそっと行商人の彼女に人差し指を当てる。
「離婚しないなんて言いきってはいけないよ。恋と愛は別物なんだから……」
燃えるような恋をすれども愛はほんの一瞬で冷めてしまう。
それが離婚された理由だと俺は考えていた。
「ねえねえおじさんはなんでこの人と結婚したくないの?」
少女は話についてこれず聞き飽きてしまったようだ。
子どもは時に大人でも答えられないような疑問を持つときがある。
愛と恋、それについての説明はこの少女にはまだ早すぎるし幼さすぎるように思えた。
「ああ、ごめんなきっと大人になればわかるようになることだよ。」
「なんかパパとママたちがはぐらかす時に似てる。」
「こりゃあ一本取られたな。まあでも本当に大人になってこの人とどうしても結ばれたいって思う時、そうだな家族や自分が持っている好きなもの全てを投げうってでもその人と結ばれたいと思うときが来れば、君にもわかるときが来ると思うよ」
「ぶーぶー」
少女は頬を膨らませフグのようにかわいく怒っていた。
こういった子どもを見ている分には可愛いとは思うが甘やかし過ぎるのもどうかとは思うがね。
「まあカレーでも食べて元気を出しなさい。」
「カレー?」
「このあんちゃんが要らないって言った分を上げるから怒るのを辞めるんだな。」
「もしかしていつも帰ってくると美味しそうな匂いしてくのって?」
「え、本当に私の分は無いんですか!?」
幼女の乱入に黙っていた行商人は幼女の助ける前の会話を冗談だと思ったらしい。
もちろん俺は冗談にする気は無い。
というかチャツネは2人分しかない。
「じゅあ今作ってやるよ。」
行商人の言葉を無視して調理の手順を考えていく。
追加の食材はさっきの子カラスで十分だろう。
先ず火を焚いて
子カラスの頭を持つと丁寧かつ素早く羽毛をはがして軽く表面を焼いていく。
「チャツネは温めない方が良いだろう。」
「あれいつもはカレーを温めているのに今日は温めないんですか?」
「お前が食うわけじゃないからな。」
「本当に食べさせてくれないんですね。」
そりゃあそうだ。
行商人は自分の好物とこの子の命を賭けたんだから。
きちんと我慢してもらわないと困る。
カラスが焼き上がるとバナナっぽい葉っぱに乗せて今日作ったチャツネを添える。
「穀物が無いのが悔やまれるがカレーの完成だ。」
「カレー?」
「そうカレー。まあスパイス料理の総称かな。」
「スパイスって何?」
この子はまだまだ幼いし知らないこともたくさんありそうだった。
「うーんここで俺が喋っても良いがそれじゃあ面白くない。」
「面白くない?」
「そうだね嬢ちゃんと今度会った時の宿題にしておくよ。」
「宿題?えっといつもお父さんがこの人に起こるときにやってなかったって言ってること?」
すっと行商人の方に目をやる。
「だって家庭教師からの宿題やりたくなかったんですもん。」
「ボーイッシュ系女子はどこへいった?」
「ボ、ボーイッシュ?」
あ、やべ転生者だとかバレるとめんどくさそうだからごまかしておこう。
「女が男らしく見せようとしているってことだな。」
「へえそんな言葉があるんですね。どこの国の言葉なんですか?」
「知らん。」
「知らないのに使っているんですか!?」
「偶に俺のところに来る旅人から聞いただけだ。」
偶に俺の住んでいるところに転移してきた奴らカレーの作り方を押してくれとせがみに来るので間違いではない。
実際作れたものは誰一人いないが……
「まあとりあえず食えよ。」
「おじさん、フォークとナイフは?」
「今はそんなもの無いからなこうやって手でつかんで食べるんだ。」
少女は恐る恐ると言った感じで手でチキンを持つ。
「少し熱いかもしれないがこんな風にちぎってな。」
繊維にそってちぎることで生まれたばかりの烏なら子どもで裂ける強度だった。
「チャツネをつけて食うんだ。」
香ばしい香りとスパイスの独特な香りが相まったタンドリーチキンのようでまるで違う料理。
チャツネの豆類独特の風味が旨味を倍増させていく。
少女の顔はどんどん笑顔になっていく。
このチャツネに入っているクミンもどきはクミンだったのならまさに花言葉と同じことをしてくれたのだろう。
クミンの花言葉は「憂鬱を祓う」
昨今の現代社会を愚痴りたい人のカレーなる異世界転生スローライフ スライム道 @pemupemus
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます