第3章 角ウサギ
第8話 準備(ショウ視点)
朝の眼覚め。気持ちのいい朝だった。サーラの夢、しかもちょっとエッチな夢を見たことは秘密にしておこう。
起きて外に出ると、ただの白湯なのに良い匂いがした。朝食は今日も白湯だけだが、元気が出る。サーラが蔦で編んだ胸当てと兜を装備してくれた。でも魔物と戦うのは明日。今日は午前中訓練で午後から魚捕りだ。
前の世界では、俺が寝てから、お姉ちゃんがゲームのレベル上げをしてくれた。
俺はもう大人だから、レベル上くらい自分でできる。俺もゲームにのめりこんでいたから、レベル上げしないと魔物と戦えないのは分かっている。高ぶる気持ちを抑えて今日はレベル上げに頑張る。
「御主人様、まずランニングからですか」
「ストレッチ、ランニング、ラジオ体操やりながらクールダウンして、まず雷撃練習。MPが尽きるまでやって、そこまでやったらまた体力づくり。雷撃練習の時は昨日みたく動く的やってくれないかな。午後からは魚捕りでいいのかな」
「魚捕りの準備は午前中にします。ランニング、私もやっていいですか」
「一緒にいてくれるとテンション上がる。大歓迎」
その後サーラが魔法で的を動かしてくれたので、昨日と同じ雷撃訓練。少しずつ的にあたるようになってきた。
お昼はまた白湯だけだけど、この白湯には体力回復の効果のある薬草と魔力回復の効果の薬草が使われているそうだ。たしかに力がみなぎってくる。
午後からは魚獲り。お日様を右に歩いている。つまり東へ向かっている。この木の周り以外で行ったことのあるのは、最初この世界に投げ出された場所と、おばあさんだったサーラと出会った蓮の池くらいなもので、あとはまったく知らない。
「サーラ、地図を表示して、現在地と目的地とルートを表示して」
「えーと、了解しました」
ナビに表示されたのはどう見てもサーラの手書きの地図。距離関係が怪しい。そういえば俺はこの世界にどんな国家があるとかは良く知らない。
「サーラ、この世界の全体の地図表示して。国名と領土。領土は色分けして、首都は赤丸。現在地は赤丸の点滅で」
「はい。ちょっと待ってください」
10分くらいかかってナビに表示されたのは、おおざっぱな三角おにぎりに近い地図で、中央に大山脈があり、山脈の北にクロエッシェル教皇国。南部の東にセバートン王国。南部の西にン・ガイラ帝国。
ン・ガイラ帝国の首都は海のそば。それ以外の2国の首都はそれぞれの国の中央にある。色分けされているがどこの国にも属していない色のぬられていない地域も多かった。
特に大陸の中央、大山脈の南に広大な砂漠がある。俺の現在地はセバートン王国とン・ガイラ帝国の中間でどちらの国にも属していない。最も近い都市はセバートン王国の西の端、カナス。その都市はセバートン王国の西の辺境を守る要塞都市なのだろう。
「サーラ、この世界って世界の真ん中に砂漠があって、もしかしたら砂漠、この世界の半分くらいあるんじゃないのかな」
「その砂漠を緑にできたら、もっと豊かな生活できるんですけれど。ご主人様の前の世界ではどうでしたか」
「オアシスという湧水が出てきているところがあって、そこでは農業できるらしい。でも砂漠の緑化はまだ難しかったと思う。サーラ、前の地図に戻ってルートを現実世界に薄い赤で表示して」
「わかりました」
現実世界にルートが薄赤で表示されるから、その上を歩けば良い。
すぐ川に行き当たる。地図で見るとこの川はサーラと出会った池から出てきていた。池から出た川は東に向かい、今、俺の住んでいる木の家の先で南下を始めて、最後は海に注ぐ。
目的地は家の真東地点らしい。直接そこへ行けないのは、森が深くて歩きにくいかららしい。
川を渡らずに、少し北へ入った小さな池のような場所へ行く。そこにはたくさんの大型の魚が群れていた。ちょうど鮭のような大きさで、この季節産卵のために川へ登るという。
枝を削った短槍で素早く動く魚を突いて、うまくあたったら、サーラの待つ河原に静かに置いてやる。サーラはそこで頭を落とし血抜きをして、内蔵と卵を取り出す。塩まですり込んで手際がいい。
ここで産卵を終えた魚は死んで、その死骸を鳥や獣たちが餌にするのだという。彼らが死んでその死骸はまた次の者達の栄養になり、最後は木に吸収され、落ち葉となって土となり、その栄養は川を通ってまた海に注ぐのだ。
俺の引きこもりは、そんな形がいいなと思う。自然の中にお邪魔して、出来るだけ迷惑をかけない。関わりを持たない。サーラとだけ一緒に育っていく人生。
いろいろな薬草や香草、川エビなどをとって家に向かう。サーラのマジックバッグは、濡れたものも気にせずそのままの状態で保存されるし、何より重くないのが素晴らしい。これは魔法ではなくて錬金術だという。
「サーラ、写真撮りたい」
景色とサーラがきれいすぎるので、この瞬間を写真に撮りたくなった。この世界にカメラなんかないのは分かっていたが、錬金術で何とかなるかもしれない。サーラに写真とは何かを説明してみた。
「ちょっと待ってください。ナビ太郎君と打ち合わせます」
最初出てきたおっさん。ナビ太郎と名前を付けた。今はサーラの助手になっているようだ。
「大丈夫です。翔さんの視点でも、私の視点でもどちらでも写真撮れます。ただ合言葉というか、スタートの合図が必要ですが何ににしますか。口に出さなくても心の中で唱えるだけで大丈夫です」
「じょあ、チーズで」
「試してみますか」
「うんサーラ、この風景を背景にして、こっち向いて自然に笑って」
「これでいいですか」
可愛い。俺はサーラの写真を撮りまくった。
「サーラ、動画も撮れる?」
「できますよ」
夕食は魚のすり身団子。塩味のスープだった。とろみがついた優しい味で、胃に負担がなく食べられた。明日からはがっつり食べてもいいと言われた。たしかに長い間固形物は食べていなかった。
魚の卵は茹でられて、山菜と一緒にサラダのようにして出てきた。サーラの料理は旨い。
寝る前に二人で今日の写真を鑑賞した。気に入らない写真は消去して、適宜トリミングをして、色の調整をしたら、なかなかいい写真集ができた。
もっときわどい下着写真も見たいが、それを言い出す勇気はない。動画も編集してみた。すべてサーラだが、俺にはサーラがいればそれでいい。
快い疲労が残った。あとは寝るだけだ。今日は膝枕から添い寝をしてもらった。半分眠りながらサーラと話すのは気持ちが良い。
「そういえば、途中で出してもらった地図、サーラの手書きかな。前の世界ではもっと正確な地図があって、世界全体から近所まで見たいところが見えたんだ。錬金術でできる?」
「ええできますとも。ただ長さの単位ってこの世界ではっきりしていなくて、距離はおおざっぱに徒歩何日とか言っているんです」
「それじゃ正確な地図はできない。僕の身長は178センチ。僕の身長を178等分すれば、1センチ。その100倍が、1メートル。そういう地図作って」
そう言ったのは覚えている。そしてどうしてしてそういう流れになったのかわからないが、小学生の時ソロバン塾に通った話をしたような気がする。そのまま眠りに引き込まれた。今日も充実した1日だった。
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