第5話 エルフのメイド(ショウ視点)

 次の朝、優しい声で起こされた。


「白湯が入りました。起きませんか。ご主人様」


 木の洞から外へ出た。


 イスとテーブルがあった。どれも森の倒木をただ持ってきただけだが生活の匂いがする。カップから温かな湯気が立っている。メイド服を着て、小さな花柄のエプロンをかけた可憐な少女がいた。12歳にしては幼く見える。


 髪は肩まである青みがかった銀髪。肌は透き通るように白い。眼は青緑で、エルフらしく耳は横につき出している。唇は可愛く、化粧していなくても赤い。胸はまだ膨らんでいない。足は細くてミニスカートからひょろりと伸びている。なんか金色のオーラにくるまれているような少女だ


「おはようサーラ。あのぉ、ぐるりとまわってみてくれる」


 可愛く微笑みながら、背中を見せる少女。お尻もまだ小さく、少し反り腰。この子が僕のものになったんだ。そう思うとこの世界に来て初めての幸福感を味わった。


 ただ問題は少女が、俺が小学生だったときの姉に似すぎているということ。姉は小さな俺にとって世界だった。両親の離婚によって失われたのは、父の姿というより、自分の身近から姉がいなくなったことだった。おれはまだ準備できていないうちに無理やり姉と引き離されたのだ。


「御主人様、本当は朝ごはん作りたかったんですが、私も無から有を作り出すことはできなくて、お茶もないので白湯だけになりました。明日からはもうちょっと何とかしたいと思うんですが」


「いや白湯だけでも十分ごちそう。温かいというだけで癒される」


 あまりにも昔の姉に似ている。胸が痛くなる。姉は18歳でも微乳のままだが、サーラは今後どんな成長を遂げるのだろうか。毎年大人びていくのを観察していくのはきっと楽しいだろう。


「12歳のエルフのメイドがご主人様の趣味なんですね。私嬉しいです」


「今日は一緒に散歩しよう」


「徒歩30分くらいの森に、お茶にできる草が生えていました。そう遠くはないです。そこへ行くのはどうですか」


「僕も行ってみたい。ただ最初に言っておくけど、僕はひきこもりだから、町へは行かないし、サーラ以外の人間とは話ししたくない。食べるものも森でとれたものだけでやってほしい」


「かしこまりました。ご主人様。このお茶採りに行くのはいいですよね。でもそこは魔物も出るので、私怖くって、お茶の葉をとれませんでした。そこへ行くなら準備がいります。戦いもしなければなりませんが、魔物を倒す覚悟はありますか」


「戦うことはできると思う。でも魔物を倒せるか自信がない」


「武器も必要ですし、回復薬のポーションも必要です」


 真面目に雷撃魔法を練習してみた。攻撃魔法は初めて使った。イメージしたあたりに小さな雷が落ちる。これで命を奪えるとは思えない。サーラが木の枝を拾ってきてくれて、これを杖の代わりにして魔法を使えという。随分お粗末な武器だが、使ってみると魔力の減り具合が少なくなった。さすがは錬金術師。


 しかし2時間もやると魔力が尽きて、気持ちが悪くなった。サッカー部時代にやっていた筋トレに切り替えた。異世界ではこういうトレーニング法は珍しいらしく、サーラもメイド服で真似をしている。メイド服はミニスカートなので、きれいな足がスカートの中でちらちら見えている。


 小学生の時、北海道のおばあちゃんの家にいた時は、良くお姉ちゃんとチャンバラごっこや相撲をして遊んだ。お姉ちゃんとそっくりな小さい子とこんなことするとは思ってもみなかった。俺とサーラは、遊びのような本気のようなチャンバラごっこを15分くらいした。


 次は相撲。最初は女の子と抱き合うのを楽しんでいた。良い匂いがした。気を抜くと負けそうになったので、本気になる。そういえば小学生の頃のお姉ちゃんも強くて、一回も勝てなかった。今はクールビューティで神秘的な美少女と言われているお姉ちゃんだが、昔は相撲の強いお転婆だった。


 サーラとの勝負はかろうじて、おれが全勝。面目を保ったが、息が上がった。しかし爽快だ。俺はもともと体を動かすことが好きなのだ。ひきこもりと言っても、別に木の洞にじっとしていなければならないわけでもない。サーラと遊んだり、散歩に行って魔物と戦ったりすることには何も問題はない。


 夕食も白湯だけで、栄養はヒールでとる。二人とも着替えなどないからおれは異世界に来た時のままのジーパンとTシャツ。クリーンを使えば、身体だけでなく服もきれいになる。サーラもメイド服のままだ。サーラには下着の替えやパジャマくらい買ってやりたいものだ。


「サーラ、膝枕してもいいかな」


「どうぞご主人様。服は脱ぎますか。誰もいないので私に何をしてもいいんですよ」


「それはいいから、何か音楽聞きたい」


「楽器はないです。錬金術師も無から有を作り出すことはできないんですよ。ごめんなさい」


「じゃあ何か歌って」


「わかりました」


 サーラが歌い始めたのは少し悲し気な歌だった。おれは疲れていたせいか、すぐ寝入ったようだ。

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