第8話 終幕

 妻と別れたモツの外側の海岸で目を覚ました。体の自由が利くことを確認してから、水上コテージまでの板張りの通路をひた走る。


”今、戻るから。今すぐ戻るから。そこで待っていて。自暴自棄にならないで!”と心の中で叫びながら、、、


モツからの通路は終わり、両側に水上コテージへの分かれ道が連なる桟橋が現れた、次の分かれ道の先が俺達のコテージだ。


息を切らしながら扉を開ける。そこには泣きはらしてベッドに突っ伏した彼女の姿があった。


 こちらを向いて、信じられないといった風情の表情で叫ぶ。彼女の双眸から溢れだした涙は止まらない。


「雄也君? 本当に雄也君! バカ、バカ!バカ!バカバカバカ!! 死ぬほど心配したんだから」


「ごめん、本当にごめんなさい。泣かないで、もう泣かないで」


そう言い続けながら彼女の体を抱きしめた。


  ***


 3日後、私たちは水上コテージの窓から朝日を眺めている。

太陽は肉眼でもハッキリと判る白く輝くこぶをはやしていた。


『アマテラス』と欧州・アフリカ共同の太陽観測衛星『ラー』の昨日の観測画像から、スーパーフレアの噴出方向が北側にずれて地球を直撃しないことが昨日の夕刻には明らかになっていた。

 人類は7日ぶりに安らかな眠りを享受した。


「あれはなにかしら?写真で見たオーロラみたいだけれど」


低緯度地方には珍しいエメラルドグリーンの極光が南の空を覆っている。


”ガイアが仕掛けた、太陽にフレアが地球を直撃したように錯覚させるためのメッセージとはこれだったのか”


楽園のエメラルドグリーンのサンゴ礁の海、朝焼けの紅に染まる空、白く輝く太陽のこぶ、そして季節と場所をわきまえない派手な極光!


「信じられないくらい綺麗!」


一生に一度の楽園の天体ショー、世界の終わりを救ったのだから、これくらいのご褒美があってもよいかな。彼女を抱きしめながらそう呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

太陽風に吹かれて 柊 悠里 @dica_onima

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る