第6話 恋敵との再会

 棚橋の枕もとに半幽体の状態で立ち尽くしている。体に触れて起こすことがどうしてもできない。

棚橋が寝返りを打ちこちらを向いた。両目を見開いてこちらを見つめている。目を開けたまま眠る不思議な人と彼女から聞いていなければ、驚いて腰を抜かすところだ。


「ゆ、ゆう、裕子、どうして、」


 寝言で妻の名前を呼んでいる。やはり好きだったんだな。不憫だけれどどうしようもない。

横向きに寝て下になった棚橋の右目から涙が一筋頬を伝って流れた。

思い切って声をかける。


「棚橋、起きてくれないか」


中々目を覚まさないので何度も声をかける。


「誰? その声は……」


棚橋がいきなりばっと体を起こした。俺の半幽体を凝視している。

しばらく凝視しているうちに目が覚めてきたらしい。少しづつ言葉を選ぶように話し始めた。


「伊藤君、何でここに? 行方不明になったと聞いたけど。体が透き通っている、もしかして死んでしまったの?」


「俺にもよくわからない。棚橋、どうしてもやりたいことがある。地球シミュレータのお前のIDを貸してくれ」


「太陽フレアの影響予測のこと? あれから毎日やっている。駄目だよ精度はまったくぶれていない。地球を直撃するよ。世界の終わりまであと5日しかない」


「棚橋、知っているよ。でもどうしてもこの世界を救いたいんだ。騙されたと思って俺にIDを貸してくれ」


俺の半幽体を見つめながらしばらく沈黙していた棚橋が口を開いた。


「いいよ。伊藤君がどうしてもしたいことならきっと裕子の救いになることだろう?」

「そうだ」


IDカードとパスワードが書かれたメモ用紙をこちらに放ると、棚橋は背中を向けた格好でつぶやいた。


「裕子を泣かせたら……殺すからね!」


「判っている。絶対に泣かせない」

そう応えて棚橋の部屋を後にした。

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