ゾマー帝国に無事着きました
「シャーロット、そろそろ起きられるかい?」
アイラン様の声が聞こえるけれど、まだ眠いわ。体もなんだか重いし。無意識に布団の中へと潜り込む。
「シャーロット、いい加減起きなさい」
アイラン様によって布団を剝がされてしまった。仕方ない、起きるか…
ゆっくり目を開けると、やっぱり目の前にはアイラン様の姿が。
「おはようございます、アイラン様」
眠い目をこすり、何とか挨拶をした。やっぱりまだ眠いわ。
「シャーロット、もうお昼だよ」
お昼?ヤバい、完全に寝坊してしまったわ。
「もう、アイラン様が昨日手加減して下さらなかったら私が寝坊してしまったのよ」
そうよ、アイラン様が悪いのよ。頬を膨らませ、アイラン様を睨む。
「ごめん、でも昨日はシャーロットが悪いよ。勝手に俺から離れたり、他の男を見つめたりしていたのだからね。あの程度で許してあげたんだから、感謝してもらいたいくらいだよ」
あの程度ですって!アイラン様は何を言っているのかしら?とにかく、急いで準備をしないと。まずは自分に治癒魔法を掛け、体力を復活させる。普通は寝れば体力が復活するのだが、なぜかアイラン様に可愛がられた時は、中々復活しないのはなぜだろう…
「アイラン様、とにかく急ぎましょう。とりあえず、お腹が空いていますので、お昼ご飯を食べたいのですが」
腹が減っては戦は出来ぬって言うものね。ご飯は大事よ。
「そうだね。さっきスタッフに食事を運ばせるように伝えておいたから、もうすぐ来るよ」
ニコニコ笑いながら、なぜか私を腕の中に閉じ込めるアイラン様。
「アイラン様、今からはダメですからね。とにかく、急いで着替えましょう」
スルリとアイラン様の腕から抜け出ると、急いで着替えを済ます。これくらいの着替えなら、もう自分でも余裕で出来るわ。なんだか不満げな顔のアイラン様が目に入ったが、今は気にしないようにしよう。
しばらくすると、料理が部屋にやって来たので、2人で急いで食べた。荷物をまとめ、チェックアウトをし、外に出た。
もうすっかりお日様が昇ってしまったわね。お父様やお兄様、きっと首を長くして待っているわ。
「シャーロット、早くゾマー帝国に行こう。きっと皆待っているよ」
アイラン様も同じことを思ったのだろう。私の手を取り、転移魔法を掛ける様催促してきた。
「そうですわね。では、ゾマー帝国に参りましょう」
私は一気に魔力を込め、転移魔法を使う。
次の瞬間、目の前には懐かしい我が家、公爵家が目に入った。
「お嬢様!お久しぶりです。お元気そうで何よりだ」
声を掛けてきたのは、門番のケルトだ。
「ケルト、久しぶりね。あなたも元気そうでよかったわ」
「すぐに旦那様達を呼んでまいりますから、しばらくお待ちください」
そう言うと、急いで屋敷に入ってくケルト。
「さあ、私たちも中に入りましょう」
アイラン様の手を取り、敷地内に入っていく。
「シャーロット、勝手に入っていいのかい?さっきの門番があそこで待っていろと言っていたけれど」
「大丈夫ですわ。ここは私の家でもありますから」
ちょうど私たちが玄関の入り口付近まで来た頃、お父様とお兄様、使用人一同が出て来た。
「シャーロット、アイラン君。よく来てくれたね。君たちが来るのを、皆待っていたんだよ」
「こちらこそ、お招きいただきありがとうございます」
お父様とアイラン様が挨拶をする。奥を見ると、懐かしい顔ぶれが並んでいる。エミリー様の魅了魔法に掛かったお父様とお兄様から虐待を受けていた私に、隠れて食事を運んでくれたり、ドレスを手配してくれたメイドたちだ。
彼女たちのおかげで、私は生き延びることが出来たのだ。私は彼女たちの元に駆け寄った。
「皆、元気そうでよかったわ。ずっとお礼が言いたかったの。あなた達のおかげで、私はあの時生き延びることが出来たのよ。あの時は本当にありがとう」
深々と頭を下げた。
「お嬢様、頭をお上げください。私たちは使用人として当たり前の事をしただけですから」
「そうです、お嬢様がこうやって元気な姿を見せてくれたのが、私たちにとっては何より嬉しいのです」
「皆…ありがとう…」
気が付くと、目から涙が溢れていた。
「あなた達の様な心の優しい人たちが、公爵家を支えてくれているという事を、私は誇りに思います。どうかこれからも、父や兄を支えてやってください」
再び使用人たちに頭を下げた。彼女たちが居れば、きっと公爵家も大丈夫だろう。そんな気がする。
「もちろんです。お嬢様。これからも、公爵家を全力で支えさせていただきます」
胸を叩いて言い切ってくれた皆に、改めて感謝した。
「さあ、そろそろ家に入ろうか。遠くから来てくれたんだ。疲れただろう?中でゆっくり話をしよう」
お父様に促され、公爵家の中に入る。懐かしい我が家。辛い記憶もあるけれど、やっぱり我が家は落ち着くわ。
「シャーロット、あの女性は君かい?」
アイラン様がある肖像画の前で立ち止まった。ちなみに我が家には、家族の肖像画があちこちに飾ってある。
「あれは亡くなったお母様の肖像画ですわ。私にそっくりでしょう?」
亡くなったお母様は私に瓜二つなのだ。
「君の母君か。それにしても、そっくりだね。あっちの小さな子供は、もしかして君かい?」
「はい、そうですわ」
「小さなシャーロットも可愛いな。もちろん、今のシャーロットも美しいが」
なぜか腰に手を回しながら、頬ずりをしているアイラン様。使用人が見ております。どうかお止めください。そんな思いを込め、アイラン様から無理やり離れたのだが、すぐに引き寄せられた。
「アイラン君は本当にシャーロットを大切に思ってくれているんだね」
なぜか生暖かい目でこっちを見つめるお父様とお兄様。止めて、恥ずかしいわ!
「もちろんです、俺はシャーロットを世界中誰よりも愛していますから!」
自信満々で言い切るアイラン様。もう好きにして…
居間に案内されると、すぐにメイドがお茶を入れてくれた。久しぶりに味わうゾマー帝国の紅茶。懐かしいわ。しばらく4人で他愛もない話をしていたのだが、急にお父様が話題を変えた。
「そうそう、王妃様が“シャーロットが来たら、すぐに王宮にも顔を出すように”との事だが、あそこにはリアム殿下もいる。嫌なら行かなくてもいいのだが、どうする?」
リアム殿下か。色々と問題を起してくれたあの人ね。でも、王妃様には会いたいわ。
「シャーロット、王妃様に会いたいんだろう。会いに行けばいいよ。俺も一緒に行くし」
「アイラン様がそう言ってくれるなら、私会いに行くわ」
「ならば私も一緒に行こう。そうと決まれば、早速行くか」
お父様はそう言うと、あっという間に消えてしまった。
「もう、せっかちなんだから。アイラン様、私たちも参りましょう」
2人で慌ててお父様の後を追う。あっという間に王宮の門へと来た。
「シャーロット、遅いぞ。既に門番には話しを付けた。さあ、行くぞ」
私が遅いのではなくて、お父様がせっかちなのよ!ほら、アイラン様も苦笑いしているじゃない!
使用人に連れられ、客間へと案内された。王宮は毎日の様に来ていたから、使用人や護衛騎士たちも皆知り合いだ。私を見て、皆嬉しそうに頭を下げてくれる。本当に懐かしいわ。
「シャーロットは、ゾマー帝国の皆に好かれていたんだね。皆シャーロットを見て、嬉しそうに頭を下げていたよ。でも、君はもう俺の妻だ。ここに残りたいと言っても、それは出来ないからね」
アイラン様が耳元でささやく。
「アイラン様、大丈夫ですわ。私はアイラン様から離れるつもりはありませんから」
アイラン様の耳元で、はっきりそう告げた。いくらゾマー帝国が私の祖国で大切な人たちが居ようが、私はアイラン様の妻だ。私の居場所はアイラン様の隣だけ。それだけは変わらない。
「君たちは本当に仲がいいな」
私達のやり取りを見ていたお父様が苦笑いしている。さすがに親に夫とイチャ付いているところを見られるのは恥ずかしいわね。
私が真っ赤な顔で俯いている時、陛下と王妃様がやって来た。なんて間の悪いタイミングでいらっしゃるのかしら。
「アイラン国王陛下、シャーロット王妃、よくぞゾマー帝国においでくださいました。心より歓迎いたします」
「こちらこそ、お招きいただき感謝いたします」
陛下の挨拶にすかさず答えるアイラン様。私も頭を下げた。ここは王宮、王族としてのおもてなしってやつね。
「シャーロットちゃん、アイラン国王、いらっしゃい。堅苦しい話は無しにしましょう」
緊張感ある空気をぶった切ったのは王妃様だ。ちょっとお茶目な王妃様、私は好きだけれどね。
早速イスに座り5人で座って話をしていると、1人の男の子が入ってきた。金髪の髪に緑色の瞳をしている。
「ははうえ、どこ?」
「こら、アラム。勝手に入ってきたらダメでしょう?」
あれは、リアム殿下の弟で、第二王子のアラム殿下ね。私が最後に見たのは、1歳半くらいだったかしら。
もうこんなに大きくなったのね。今は3歳くらいかしら。
「アラム殿下、お久しぶりです。と言っても、殿下は覚えていませんよね。私はシャーロットです。どうぞよろしくお願いします」
「しゃーろっと?かわいい」
ギューっと抱き付いてきたアラム殿下。なんて可愛いの!!私もアラム殿下をギュッと抱きしめた。すると、スリスリすり寄って来る。本当に可愛いわ!連れて帰りたいくらい。
「リアム殿下の弟君ですね。よく似ているね」
アイラン様はそう言うと、私からアラム殿下を奪い取った。
「おい、はなせ!ぼくはしゃーろっとにぎゅーしてほしいんだ」
暴れるアラム殿下を抱きかかえると、あっという間に後ろに控えていた教育係に渡してしまった。
ギャーギャー騒ぐアラム殿下を連れて行く教育係。あぁ、もう行ってしまわれるのね。もうちょっと抱きしめたかったわ。
アラム殿下の乱入があったものの、その後は穏やかな雰囲気で話をした後、王宮を後にした。
そして夜、公爵家では私たちの為に宴を開いてくれた。お兄様の婚約者でもあるアリーアを始め、学院の時の友達もたくさん来てくれた。久しぶりに会う懐かしい顔ぶれに、話も大いに弾んだ。
この日の宴は、夜遅くまで行われたのであった。
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