第32話 アイラン様を傷つける人は誰であろうと許しません
リアム殿下を客間に押し込んだ後、私はすぐに自室に戻り、お父様に通信を繋いだ。そして、リアム殿下がフェミニア王国に乗り込んできて困っていることを伝える。
“シャーロット、すまない!私や陛下、王妃様もリアム殿下を何とか説得しようとしたのだが、全く聞かなくてね。どうやら見張りを振り切ってフェミニア王国に乗り込んでいってしまったようだ。すぐに陛下に伝えて迎えに行くようにするから、すまないがそれまで預かっていてもらえるだろうか”
申し訳なさそうに話すお父様。
「わかったわ。でも、出来るだけ早く迎えに来てくださいね」
私はお父様にお願いする。とにかく、迎えが来るまでの辛抱ね。その日の夕食は、アイラン様とリアム殿下と私の3人で食べた。
「シャーロット、初めて見る料理ばかりだが、とても美味しいね」
嬉しそうに食べるリアム殿下。
「はい、この国ではお米とお魚料理がメインなんですよ。私もフェミニア王国のお料理が大好きなのです」
もちろん、ゾマー帝国の料理も美味しいのだが、私はやっぱりフェミニア王国の方が好きだわ。
「そうか、シャーロットがそんなに気にいっているのなら、ゾマー帝国に帰った後も、フェミニア王国の食材を取り寄せよう。そうすれば、いつでも食べられるだろう」
やはりリアム殿下は、私を連れて帰る気の様だ。怒りで震えるアイラン様。ダメよ、耐えて!
食事の前、アイラン様にはお父様と話した内容を伝えてある。ゾマー帝国からの迎えが来るまでは、とにかくリアム殿下を刺激しないように過ごそうと二人で相談して決めたのだ。
気まずい食事も終え、自室に戻ると、すぐにベッドへと倒れこんだ。今日はものすごく疲れた。お父様、お願い、早くリアム殿下を迎えに来て。
そう願いながら、その日は眠りについた。
そして翌日、朝食が終わるとリアム殿下が私の元へとやって来た。
「さあ、シャーロット。早くゾマー帝国に帰ろう。君の家族も、僕の父上や母上も待っているよ」
そう言うと、私の腕を掴んだ。
「リアム殿下。昨日も申し上げましたが、私はゾマー帝国に帰るつもりはございません。どうか、ご理解いただけないでしょうか?」
私はリアム殿下に頭を下げる。
「シャーロット、聞き分けのないことを言わないでおくれ。僕もあまり長い時間国を離れることは出来ないんだよ」
リアム殿下は再び私の腕を掴み、強く引っ張る。これはちょっとヤバいかも…
「とにかく私はゾマー帝国へは帰りません」
私はリアム殿下の腕を振り払い、急いで自室へと戻った。
もう、何なのよ!あの人は!とにかく、無理やり連れて帰らされないように、自室に避難することにしよう。ここなら、リアム殿下もきっと来ないだろう。
午前中はオルビア様おすすめの恋愛小説を読んで過ごした。昼食は少し体調がすぐれないということにして、自室で食事を摂る。
それにしてもいい天気ね。本当なら、中庭で花々を眺めながら、ティータイムと行きたいところなのに。そう思いながら窓の外をぼんやりと眺めた。
午後もお茶を飲みながら、本を読んで時間を潰す。それにしても暇ね。
その時だった。
「シャーロットちゃん、大変だ。すぐに一緒に来てくれ」
息を切らしたアルテミル様が、物凄い勢いで部屋に入って来た。
「どうしたのですか?アルテミル様!」
私はびっくりして立ち上がる。
「とにかく一緒に来てくれ」
そう言うと、アルテミル様は私の手を掴み走り出した。一体何があったのだろう。こんなに慌てているアルテミル様、初めて見たわ。
アルテミル様に連れて来たのは中庭だ。
「いい加減にシャーロットの事は諦めろ。このままだとお前死ぬぞ!」
この声はリアム殿下だわ。
「うるさい!絶対にシャーロットは渡さない」
リアム殿下の前には、攻撃魔法を受けたのか、ボロボロのアイラン様がいる。
「ならば死ね!」
リアム殿下がアイラン様に向かって、攻撃魔法を放とうとしている。
「止めて!!!」
私はとっさに防御魔法をかけた。リアム殿下の攻撃魔法は私の防御魔法によって、跳ね返される。
「アイラン様!大丈夫ですか?一体何があったのですか?」
私はすぐに治癒魔法をアイラン様にかける。
「シャーロットちゃん。急にゾマー帝国の王太子殿下が、シャーロットちゃんを賭けて決闘しようと言い出したんだ」
アルテミル様が横から状況を説明してくれた。
「それで、決闘を受けたのですか?相手は魔力持ちですよ。いくらアイラン様の剣の腕が凄くても、敵う相手ではございません」
なぜそんな無理をしたの?
「リアム殿下から、もし決闘を受けないならシャーロットを無理やり連れて帰ると言われて。俺は、シャーロットを諦める事なんて出来ない。たとえ、この命が奪われたとしても」
「アイラン様…」
私、バカだった。よく考えれば、こうなることは想像できたのに!大切なアイラン様を傷つけてしまうなんて…
私は自ら放った攻撃魔法を食らって座り込んでいるリアム殿下に向き合う。
「リアム殿下、よくも私の大切なアイラン様を傷つけましたわね。たとえ殿下でも、絶対に許さない!さあ、次は私が相手です。かかって来なさい!」
私は手に魔力を込める。でも、リアム殿下は私の方を見つめているだけで、攻撃してこない。
「リアム殿下?」
不審に思い、名前を呼んでみた。
「シャーロット、そこまでその男を愛しているというのかい?」
悲しそうな顔で見つめるリアム殿下。
「はい、誰よりも愛しておりますわ!」
「もう、僕の事は好きではないのかい?僕との思い出は、もう過去のものなのかい?」
「申し訳ございません。リアム殿下。殿下の知っているシャーロットは、あの日、地下牢で息絶えたのです」
私の言葉に、うつむくリアム殿下。
「それでも、僕はシャーロットを愛している。君のいない人生なんて考えられない。ねえ、シャーロット。君の手で、僕の人生の幕を下ろしてくれないかな」
リアム殿下は一体何を言っているのだろう。そんな事、出来る訳がない。
「殿下、そのような事は私にはできません。どうか私の事は忘れて、幸せに暮らしてください」
私は、リアム殿下に頭を下げた。
と、その時。
「シャーロット!!」
「「リアム!!」」
この声は!
「お父様、陛下、王妃様!」
お父様は私を見つけると、思いっきり抱きしめた。私もお父様に抱き着く。
「リアム、あなたは一体何をしているの?シャーロットちゃんの事は諦めなさいと言ったでしょう!」
王妃様がリアム殿下に向かって怒っている。
「リアム、他国に迷惑までかけて!お前は一体何を考えているんだ」
国王陛下もご立腹だ。
「皆様、バカ息子が大変ご迷惑をおかけいたしました」
陛下が私たちに向かって、頭を下げた。その横で、王妃様も頭を下げる。
「いいえ、お気になされないでください。こんな遠くの国までわざわざお越しいただき、感謝いたします。私は、フェミニア王国の国王、アイランと申します」
「あなたがアイラン国王なのね。想像していたよりずっとイケメンね」
王妃様がアイラン様を見つめて呟いた。王妃様、一体どんな想像をしていたのかしら?
「アイラン君、実際会うのは初めてだね。娘を支えてくれて、ありがとう。こうやって元気な娘に会えたのも、君のおかげだ。本当にありがとう」
お父様がアイラン様に頭を下げた。
「いいえ、お父さん。シャーロットに助けられているのは、俺の方なので。頭を上げてください」
お父様に頭を下げられて、慌てるアイラン様。
「とにかく、すぐにリアムは連れて帰ります。本当にご迷惑をおかけいたしました。お二人の結婚式には、ぜひ参加させていただきますので、私たちはこれで失礼します」
そう言うと、陛下と王妃様は、リアム殿下の腕を掴んだ。
「離してくれ!僕は帰らない。シャーロット。愛しているんだ!頼むシャーロット!」
私に向かって叫ぶリアム殿下を、無理やり連れて陛下が転移魔法を使った。その後を追う様に、王妃様も転移魔法を使ったようで、3人は姿を消した。リアム殿下、どうか私の事は早く忘れて、幸せになってください。私は心の中でそう願った。
そしてお父様はと言うと、アイラン様のご厚意で1泊してから帰ることになった。久しぶりの親子の会話に、花を咲かせることとなったのであった。
気になるリアム殿下だが、余程シャーロットの事を愛していたのだろう。自ら王太子の座をまだ3歳の弟に譲ると、その後はずっと部屋に閉じこもってしまった。
世話係のメイドの話によると、いつも空を見上げ、「シャーロット」と嬉しそうに呟いているとのこと。どうやら、シャーロットと過ごした、幸せだったころを思い浮かべているのだろう。
そんなリアム殿下は、その後も一切部屋から出てこず、29歳の若さで自ら命を絶ったとの事。もしも、エミリーの魅了魔法にさえかからなければ、きっとシャーロットと幸せな未来を歩んでいた事だろう。そう考えると、彼が一番の被害者なのかもしれない。
~あとがき~
次回最終話です!
リアム殿下は、余程シャーロットを愛していたのでしょう。実際彼は、シャーロット以外を愛することはありませんでした。
なんだか気の毒だなっと思ったので、リアム殿下視点のIFストーリーを書いてみました。
本編が完結したら、「今度は絶対に君を離さないよ」というタイトルで投稿していきます。全6話の短い話です。
※やっぱりシャーロットにはアイランがいい、リアム殿下は好きではない、そんな方は読まない事をお勧めします。ちなみに、リアム殿下、ヤンデレ化しておりますので、苦手な方もスルーでお願いします。
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