第31話 招かれざる客がやって来ました

「シャーロット、結婚式の準備はどう?進んでいる?」



「はい、ほとんど準備は終わりました。ただ、招待客も多いので、アイラン様の方は大変みたいですが」



結婚式まで1ヶ月を切った。今日は久しぶりにオルビア様が王宮に遊びに来てくれているのだ。オルビア様と2人、中庭でゆっくりとお茶を飲みながら話す。



「ガリレゴ王国に滅ぼされた国の、新しい王族たちも皆参加するんでしょう?そりゃ大変よね」



ガリレゴ王国を滅ぼし、各国々を再建させたフェミニア王国は、今では大陸の中でも一目置かれる存在。その為、各国の新王族たちがこぞって今回の結婚式の参加を決めたのだ。



もちろん、フェミニア王国の貴族や、私の祖国でもあるゾマー帝国からも参加するとあって、ものすごい人数になるんだとか。



「シャーロットのご家族も参加するんでしょう?会うのが楽しみだわ。私ね。ゾマー帝国からの使者が来たってアルテミルに聞いたとき、シャーロットが国に帰ってしまうんじゃないかって、本当に心配したのよ。でも、残ってくれてよかったわ。ありがとう、シャーロット!」



私に向かって頭を下げるオルビア様。



「私はアイラン様を心から愛しております。ですから、国に帰ることは絶対ありません。安心してください」


私の言葉に、嬉しそうに笑うオルビア様。



その時、1人の護衛騎士が私たちの方に向かって走ってきた。



「シャーロット様。お取込みのところ失礼します。至急、客間にお越しください」


一体何があったのかしら?



「オルビア様、せっかく来ていただいたのにごめんなさい。私、ちょっと客間に行ってきます」



私はオルビア様に頭を下げ、騎士に付いていこうとしたのだが…


「待って、シャーロット。私も行くわ」


なぜか、オルビア様まで付いてきた。一緒に連れて行っても良いのかしら?一抹の不安を覚えつつ、2人で客間へと向かう。



護衛騎士に案内され、客間に入る私とオルビア様。



「シャーロット、本当に無事だったんだね。良かった!」


急に誰かに抱き着かれた。


ん?この声、聞き覚えがあるぞ!


「ゾマー帝国の王太子殿下、申し訳ないが、シャーロットは私の婚約者です。気軽に触れるのは止めてもらいたい!」



アイラン様によって、引き離された。そして、私の目に映ったのは、間違いない。ゾマー帝国の王太子、リアム殿下だ。どうして彼がここに居るんだろう。



「殿下、なぜここに居らっしゃるのですか?」



「シャーロット、本当にすまなかった。あの女の魅了魔法にかかっていたとは言え、最愛の君に酷いことをしてしまった。ずっと探していたんだ。さあ、ゾマー帝国に帰ろう」



そう言うと、私の手を取ろうとしたが、すかさずアイラン様に阻止された。



「おい、さっきから君は一体何なんだ!僕たちの邪魔をしないで欲しい!」


アイラン様に向かって怒鳴るリアム殿下。リアム殿下は私とアイラン様の事を聞いていないのかしら?



「リアム殿下、彼は私の婚約者でこの国の国王、アイラン様です。私は1ヶ月後、アイラン様と結婚いたします。ですので、ゾマー帝国には戻るつもりはございません。どうかお引き取りください」


私はリアム殿下に深々と頭を下げた。


「シャーロット、話は聞いたよ。君はこの男に命を助けられたそうだね。あの時のシャーロットは全てを失い、きっと寂しかったんだろう。だから、こんな男の魔の手に引っかかってしまったんだね。でも、もう僕が来たから大丈夫だよ!

僕たちは小さい頃からずっと一緒だ。こんなぽっと出の男よりも、僕の方がシャーロットの事を知っているし、愛している。間違いで君と婚約破棄をしてしまったが、君さえ戻れば、父上も母上も君と僕の婚約を認めてくれるよ」



何を言っているんだこの男は!リアム殿下ってこんなに聞き分けのない人だったかしら?



「リアム殿下、私はアイラン様を心から愛しています。そして、ゾマー帝国の王妃様や私の父、兄も祝福してくれています。ですから、どうかリアム殿下も新しい人を見つけて、幸せになってください」



これで諦めてくれるかしら?



「シャーロット、僕は君以外を愛することなんて出来ない。僕にとって君は全てなんだ。確かに僕はあの忌まわしい女のせいで、君との婚約を破棄してしまった。でも、それは僕の意志ではない。意地を張らず、僕とゾマー帝国に戻ろう。僕のお嫁さんは、君しかいないんだ!」



ダメだ。全く話が通用しない。どうしよう…



「ちょっと、黙って聞いていれば、あなた一体どういうつもり!さんざんシャーロットを傷つけておいて、よくも抜け抜けと一緒に帰ろうなんて言えるわね。シャーロットとお兄様は愛し合っているのよ。その二人を引き裂くなんてこと、許さないわよ」



さっきまで黙って聞いていたオルビア様が、怒りに震え叫んだ。



「リアム殿下、私とシャーロットは心から愛し合っている。どうか、このままお引き取り頂けないだろうか」


アイラン様がリアム殿下に頭を下げた。



「うるさい!僕は絶対シャーロットを連れて帰る。僕たちはずっと愛し合っていたんだ!お前なんかに絶対渡さないからな!」



怒り狂うリアム殿下。いけない、魔力を暴走させようとしているわ。リアム殿下はゾマー帝国でも魔力量の多い方。そんな彼が、魔力を暴走させれば、きっとこのお城は吹っ飛ぶ。



「リアム殿下、とにかく長旅で疲れているのではなくって?今日は王宮でゆっくり休んでください」



本当は今すぐゾマー帝国に送り返したいところだが、今はとにかくリアム殿下を落ち着かせることが大切だ。



「シャーロットがそう言うなら、そうさせてもらうよ。シャーロットも帰る準備とかいろいろあるだろうしね」



私は近くにいたメイドに、リアム殿下をお部屋に案内するように指示を出す。リアム殿下は、メイドに連れられて部屋から出て行った。



「何なのあの男。あんなにシャーロットを傷つけておいて、自分の事しか考えていないのね!あーイライラする!!」


オルビア様が地団駄を踏んで怒っている。



「それにシャーロット、何であんな男を今日泊まらせるのよ。さっさと追い返せばよかったのに」



オルビア様の怒りの矛先が、どうやら私に向いてしまったようだ。鬼の形相で詰め寄ってきた。



「申し訳ございません。でも、あれでも王太子。魔力量はゾマー帝国内でも高い方です。あのまま怒らせてしまっては、魔力が暴走し城が吹き飛ぶと思い、とっさにあのような提案をいたしました」



そう、私たちは魔力持ち。実はとても危険なのだ。



「そうだったのか。俺たちはあまり魔力に馴染みがないが、ガリレゴ王国との戦いで、シャーロットの魔力の凄さは知っている。そんなシャーロットが言うのだから、きっとあの男も凄いのだろう。オルビア、お前はちょっと口を挟みすぎだ。それに、もうすぐ日が暮れるぞ。公爵家に戻った方がいいんじゃないのか?」




アイラン様に言われ、ハッとしたオルビア様。



「いけない、もう帰らないと!シャーロット、あの王太子には気を付けてね。お兄様、しっかりシャーロットを守るのよ。それじゃあね」


慌てて帰っていくオルビア様。



それにしても、リアム殿下、どうやって追い返そうかしら!


頭が痛い問題が出来てしまい、ついため息を漏らすシャーロットであった。






~あとがき~

ーゾマー帝国でビーディズッヒ侯爵から報告を受けた後の王族たちの会話ー


リアム「ふざけるな!シャーロットが別の男と結婚するだなんて、僕は絶対認めない!今すぐ連れもどす!」


国王「止めろリアム。私たちがシャーロット嬢にどれほどひどい仕打ちをしたのか忘れたのか!」


王妃「そうよ、リアム。シャーロットちゃんの幸せを願ってあげましょう。あの子には幸せになる権利があるのよ」


リアム「うるさい。とにかく今すぐビーディズッヒ侯爵に会って、フェミニア王国の場所を聞きだしてくる」


国王「いい加減にしないか!あの日、お前はシャーロット嬢と婚約破棄をしたことを忘れたのか。もう、彼女の事は諦めなさい!」


リアム「あの婚約破棄は、僕の意志じゃない!とにかく、シャーロットは連れもどすから」


国王「ならば仕方ない!リアムを部屋に閉じ込めておけ。見張りを付けて外に出られないようにするんだ」


国王の指示で護衛騎士によって部屋に閉じ込められたリアム殿下。


しかし、執念でフェミニア王国の場所を突き止め、こうやってやって来たのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る