第18話 さあ、戦いの始まりです

私はアイラン様と一緒にマックスに乗って、広場の一番真ん中を陣取った。どうやらまだガリレゴ王国の軍は来ていないようだ。そうだわ。


私はマックスの首にも珊瑚をぶら下げた。


「これを付けていれば、あなたもしばらくは大丈夫よ」


“ありがとう、シャーロット”


マックスもこれで安心ね。



ガシャンガシャン。


向こうの方から鎧を身にまとった、沢山の兵士たちがやってくるのが目に入った。それにしても凄い数ね。まあ、うちの20倍もの兵士がいるのだから、そりゃそうよね。


「よく来たな、ファミニア王国の国王」


話しかけてきたのは、どうやらガリレゴ王国の国王の様だ。年は40歳半ばってところかしら。隣には、30歳後半くらいの女性も一緒にいる。きっとあの人が聖女ね。



「なんだ、随分奇麗な姉ちゃん連れているな。その姉ちゃんを俺に差し出して、命乞いでもするつもりか?」


何て下品な男なの!それでも国王なの!私は怒りが込み上げてきた。いけないわ、このままでは魔力が暴走してしまう。落ち着くのよシャーロット。



「ふざけるな!誰が貴様なんかに大切なシャーロットを渡すものか!」


アイラン様も怒りで震えている。



「ちょっと、アレク、私早く国に戻りたいんだけれど。それにしても、フェミニア王国って随分兵士が少ないのね。ものの数分で終わらせてあげるわ」



相手国の聖女は、そう言うと手をかざした。空には雷雲が広がる。どうやら雷の攻撃魔法を使うつもりね。やっぱり私と同じ魔力持ちのようだ!



「おい、ミーア。王族は殺すなよ!」


「はいはい、わかっているわよ!これでおしまいよ、イナズマ!!」



聖女の掛け声と共に、ものすごいイナズマが、我がフェミニア軍に向かって降りそそぐ!



「「「「うわ~~~」」」」


驚いて頭を押さえる兵士たち。


そんな事させる訳がないでしょう!


私も手を空に向かってかざすと“バリア”からの“リターン”



イナズマはフェミニア軍を襲うことなく、そのまま ガリレゴ軍の頭上へと降り注いだ。



「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」」」」」


かなりのガリレゴ軍が、今回のイナズマでやられたようだ。それでもまだうちより断然多いけれどね。



「シャーロット…君は…」


呆然とするアイラン様。


「だから聖女は私に任せてくださいと申したでしょう」


私はアイラン様に向かってにっこり微笑んだ。


「ちょっとあんた、よくも私のイナズマを!」



むこうで聖女がギャーギャー怒っている。


その隣では、口をポカンと開けたガリレゴ王国の国王の姿もある。


私はマックスから降りた。


「ちょっと、今のあなたの仕業でしょう?一体何者なの?」


聖女が怒鳴る。うるさいわね、そんなに大きな声を出さなくても聞こえるわ。



「あなたこそ一体何者なのですか?見たところ、聖女というより、魔女に見えますが?」



私は逆に聞き返した。



「誰が魔女よ!ふん、あなたも私と同じ魔力持ちってところね。いいわ、教えてあげる。私はドドリア王国で昔魔術師をやっていたミーアよ。ちょっと悪さをして、国を追い出されちゃったけれどね」



ドドリア王国と言えば、ゾマー帝国と肩を並べるほどの、魔力大国。そこで魔術師をやっていたのか。そうすると、かなりの魔力持ちね。



「私はゾマー帝国から参りました、シャーロットと申します。私も訳あって処刑されそうなところを逃げて来ましたの」



「ゾマー帝国か。ん?シャーロット?どこかで聞いたことあるような…なんだったかしら?まあいいわ!でも、あなたの魔力で私を倒せるかしら?」



聖女はそう言うと、魔力で火の鳥を出した。ずいぶん大きいわね。


「さあ、火の鳥ちゃん。あの女を丸焦げにしちゃって」



誰が丸焦げになるものですか。出でよ、サンダードラゴン!



「グァァ」


「こちらはサンダードラゴンで対抗いたしますわ」



火の鳥に向かってイナズマを吐くドラゴン。


「ちょっと、なんでドラゴンがイナズマを吐くのよ!普通炎でしょう!」



「ですから、サンダードラゴンと申し上げたでしょう?」


この聖女、あまり人の話を聞いていないのね。



「おい、ミーア。もっと向こうでやれ。こっちに火の粉が飛ぶ!」


そう言って怒っているのはガリレゴ王国の国王だ。そう言えばさっきからちょこちょこガリレゴ軍の兵士たちが、炎やイナズマの巻き添えを食らっているわね。



フェミニア軍の兵士たちは珊瑚のおかげで無事みたい。どうやら聖女の魔力も無効にしてくれるようだわ。これはラッキーね。



「うるさいわね!あなたがあっちに行きなさいよ。大体何でフェミニア軍は無傷なのよ!!」



怒り狂う聖女。この人どうやら気がとても短いようだ。



「それは内緒ですよ。そうそう、ガリレゴ王国の国王陛下。1ヶ月も猶予を頂きどうもありがとうございました。おかげでしっかりと準備を行うことが出来ましたわ」



私は嫌味も込めて、満面の笑みで敵国の国王に頭を下げた。悔しそうに睨む国王。いい気味ね!


「クソ、おい、何をしている。俺たちも戦うぞ。一気にフェミニア軍を壊滅させるんだ!」


敵国の国王の言葉で、ついに戦いの幕が上がった。



ドラゴンと火の鳥の戦いを見ていても暇だし、聖女の力がどれほどなのかも確認したい。



私は聖女目掛けて、攻撃を仕掛ける。難なく躱す聖女。でも聖女さん、あなたがよけたせいで、あなたの国の兵士たちがずいぶんやられたみたいよ。



「ちょっと、急に仕掛けてくるなんて卑怯じゃない。まあいいわ。さあ、こちらからも攻撃させてもらうわ」



そう言うと、聖女が物凄い勢いで炎魔法を放出する。私も同じく炎魔法で受け止めた。お互いの魔力がぶつかり合い、周りは炎の竜巻が巻き起こる。



「おい、周りを考えろ。お前達のせいで、わが国の兵士たちがどんどんやられている。このままではこっちが全滅してしまう!」



私達の戦いに水を差したのは、相手国の国王だ。もう、せっかくいいところだったのに!結局少し早いが、一旦退散ということになった。



「シャーロット、大丈夫か!それにしても、君は本当にすごいんだね。まさかあの聖女と互角に戦うなんて!」


アイラン様にきつく抱きしめられた。


「とにかく一度本陣に戻りましょう」


明日は朝から決戦だ。そうだわ、本陣にかけたバリアも解除しておかないとね。



本陣に戻る途中、1人の兵士が凄い勢いで走ってきた。



「陛下、報告いたします。どうやら私たちが留守の間に、ガリレゴ軍が我が本陣を襲おうとしたようで」


「何!それで、オルビアたちは無事なのか!」


話に割って入ってきたのは、アルテミル様だ!



「それが…とにかく急いで本陣へお戻りください!」


皆で急いで本陣に戻る。


「皆、おかえり~」


オルビア様とフェアラ様が迎えてくれた。


「オルビア、ガリレゴ軍が来たそうだが、大丈夫だったのか?」


オルビア様を強く抱きしめながら、アルテミル様がオルビア様に聞く。



「それが…あれ見て」


オルビア様が指さした方を見ると、丸焦げの人の山が。


「なんだあれは…」



「私たちもよくわからないの。急にガリレゴ軍が攻めて来たかと思うと、次々に丸焦げになっちゃって…。そうだわ、シャーロット、あなたバリアを張るって言っていたわよね?この丸焦げと何か関係があるの?」



どうやらオルビア様は気づいたようだ。


「はい、私の張ったバリアに触れたのでしょう。私のバリア魔法は大変危険で、触れるとあんな感じになります」


「やっぱりね。そう言えば、あなたが出してくれた動物たちも消えたけれど…」


「あの子たちは、私がバリアを解除したのと同時に消えるようになっていたので」


「そうだったの。それにしても、シャーロットのおかげで助かったわ。ありがとう」


私に抱き着くオルビア様。


「シャーロット。君には驚かされてばかりだ!オルビアたちを守ってくれて、ありがとう」


アイラン様にもお礼を言われた。



「いいえ、大したことではありません。そうだわ、今日の夜もバリアを張ろうと思っています。そうすれば、兵士たちの見張りもいらなくなるので、皆ゆっくり休めますから。ネックレスを付けているから大丈夫だと思うのですが、出来れば兵士たちには部屋からあまり出ないように、伝えていただいてもよろしいでしょうか?」



きっと今夜も寝首を掻こうと、ガリレゴ軍は必ずやってくる。そんな卑怯な事、させるものですか!


「それは助かる。とにかく今日は疲れただろう。ゆっくり休んでくれ」


アイラン様の言葉で、今日は皆早めに休むことになった。

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