第16話 戦い前夜のダンスパーティー

翌朝、オルビア様との約束通り、朝食を食べる為に食堂へと向かう。一晩しっかり寝たから、顔色も戻っている。これなら、アイラン様に心配されることもないわね。


食堂に着くと、すぐにアイラン様が飛んできた。


「シャーロット、久しぶりだね。2週間もずっと何をしていたんだい?でも元気そうでよかった」


「ご心配をおかけして申し訳ございません。戦争が始まる前に色々と準備したいことがございまして」


「そうか、でも、無理はいけないよ。さあ、食事にしよう」


アイラン様にエスコートされ、席に着いた。久しぶりに見るアイラン様。元気そうでよかったわ。


食事も終わり、自室へ戻る為席を立つ。私には時間が無い、出来るだけたくさんの珊瑚に魔力を込めないと。多ければ多いほど戦いを有利に進められるはず!


「シャーロット、待って」


アイラン様に呼び止められた。


「シャーロット、あの、もし時間があれば、ゆっくりと街を散歩でもしないかい?そうだ、海を見に行くのもいいし!」



これは、もしかしてデートのお誘い?いけないわ。また自分の都合のいい風に考えてしまった。それに今はのんびり遊んでいる暇はない!



「申し訳ございませんアイラン様。私はまだやらなければいけない事が残っておりますので、これで失礼いたします」



せっかくアイラン様と2人でゆっくり過ごせるチャンスだったのに!でも、今は我慢よ!アイラン様やオルビア様の命を守る為、この国の人の為に出来ることをやらなきゃね。



さあ、早速珊瑚に魔力を込めて行かないとね。




コンコン


「シャーロット、今日も手伝いに来たわよ」


部屋に入ってきたのはオルビア様とフェアラ様だ。


「ありがとうございます。助かります」


二人が手伝いに来てくれたおかげで、どんどんネックレスが出来ていく。本当に助かるわ。



「ねえ、シャーロット、この作業は後一週間続くって言っていたわよね。ということは、残りの1週間は時間が空くと言う事よね?」



急にオルビア様が話しかけてきた。オルビア様、そんなことを聞いてどうするのかしら?




「確かにこの作業は後1週間で終わらせる予定ですが、その後は、勝つ為に色々と調べたいことがあるので、申し訳ございませんが多分暇になる事は無いです」



戦争に参加するのは初めてだ。当日混乱しないように、戦争についてしっかり調べる必要がある。それに、ガリレゴ王国がどういった戦い方をするのかも、事前に頭に叩き込んでおきたい。



相手を知ることは、戦いに勝つ上で絶対条件だと、昔お父様が言っていた。とにかく、やらなければいけない事は山積みなのだ。



「そうなの…シャーロットは本当に私たちを救おうと必死なのね!ありがとう。シャーロット」



オルビア様はそう言うと、私を強く抱きしめた。隣でフェアラ様も涙ぐんでいる。オルビア様はずっと死への恐怖と戦ってたはず。心優しいオルビア様には、絶対にアルテミル様と幸せになって欲しい。



さあ、気合を入れて作らなきゃね。


こうして2人に手伝ってもらい、最終的に11,260個の魔力入り珊瑚と、10個の魔力入り水晶が完成した。



残りの1週間はとにかく図書館で、ガリレゴ王国が他国を攻めた時の戦術や、その後の様子などを調べた。


調べれば調べるほど、ガリレゴ王国に対する怒りがこみ上げる。



女、子供であろうと王族は容赦なく殺し、国民に見せしめの様にさらす。さらに小さな子供たちまで朝から晩まで容赦なく働かされているようだ。



何なのこの国!戦術もめちゃくちゃね。夜寝込みを襲ったり、戦いの最中、食事の準備などをしている女性たちを襲ったりと本当に最低だ!



やっぱり、あらかじめ情報を先に仕入れておいてよかったわ。これで対策が練れる。最初は1人で図書館で調べていたのだが、いつの間にかアイラン様が隣で本を読むようになっていた。



特に話しかけられる訳でもなく、ただずっと隣にいる。そんな日々が何日も続いた。




「シャーロット、ついに明後日、ガリレゴ王国と戦う為出発する。それで、明日の夜は、王宮でダンスパーティーが行われることになった」



3人で夕食を食べている時、アイラン様からダンスパーティーの話を聞かされた。ダンスパーティー?晩餐じゃなくて?



「この国はね。戦いに行く前の日は、ダンスパーティーを行うの。これはお父様の代からの決まりなのよ。ダンスパーティーは基本的に平時の時しか行わないでしょう。だから、戦い前は心穏やかにってことで、お父様が決めたの」



なるほど!ほとんどの貴族や国民が負け戦と思っている。尚更最後にいい思い出を、という事なのね。まあ、負けるつもりはないけれどね。



「コホン、それでだな、シャーロット。君さえよければ、俺のパートナーになってくれないか?」


アイラン様のパートナーに?私が?


「あの、私の様な者がアイラン様のパートナーでよろしいのでしょうか?」


不安になって、つい聞き返してしまった。



「何を言っているんだ!俺はシャーロットと一緒にダンスパーティーに出席したいんだ!だから、私のような者なんて言い方はしないでくれ!」


凄い勢いで言い切られた。隣でオルビア様が苦笑いをしている。



「わかりました。では、明日よろしくお願いいたします」



アイラン様とダンスパーティー。楽しみね。





そしてダンスパーティー当日、別のメイドに着替えさせてもらい準備を行う。いつも準備はフェアラ様に手伝ってもらっているのだが、そもそもフェアラ様は伯爵令嬢だ。今回のダンスパーティーに出席する為、自分の準備をしなければいけない。そのため、今日は別のメイドがお世話をしてくれたのだ。



今日着るドレスは、アイラン様が私の為に準備してくれたものらしい。真っ青なドレスは、まるでアイラン様の髪の色みたい。



コンコン


「シャーロット、準備は…」


アイラン様が迎えに来てくれたのだが、なぜか固まっている。


「アイラン様、お迎えに来ていただきありがとうございます」


私は固まるアイラン様を気にすることなく挨拶をした。


「あ、ああ、それじゃあ行こうか」


アイラン様にエスコートされ、王宮内の会場へと向かう。すでに沢山の貴族が来ていた。もちろん、そこにはオルビア様とアルテミル様の姿もある。なぜか、私を2人に預けると、一旦席を外したアイラン様。



どうされたのかしら?


「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。まずは国王陛下から一言」


するとアイラン様が出て来た。そうか、挨拶をする為に席を外したのね。


「皆の者、ついに明日、ガリレゴ王国と戦争をすることになった。厳しい戦いになるだろう!それでも私は1人の女性のおかげで、少しだけ生き長らえる未来を夢見ることが出来た。どうか、皆も諦めずに戦ってほしい。今日は戦い前の最後の夜だ。存分に楽しんでほしい」



アイラン様の挨拶が終わると、皆から大きな拍手が沸き起こった。きっと、アイラン様は皆から慕われているのだろう。そんな気がした。



「シャーロット、待たせてしまってすまない。さあ、踊ろう」


アイラン様は私の手を取ると、ホールの真ん中に向かう。周りからは



「あの女性は誰?」という声が聞こえる。


私、本当にここに居てもいいのかしら?そんな不安に駆られたが、音楽が流れ出したのでとりあえず踊りだす。



アイラン様はとてもダンスが上手で、とっても踊りやすいわ。


「シャーロット、ダンスが上手いんだね」


「それはアイラン様の方でしょう?」


それにしてもこんな風に踊ったのはいつぶりだろう。ゾマー帝国で貴族学院に入学してからは、ほとんど壁にもたれてボーっと過ごしていたものね。



なんだか物凄く幸せだわ。この幸せが、ずっと続くと良いのに…。


そんな訳もなく、ダンスはあっという間に終わってしまった。残念ね!そう思った時、周りからは溢れんばかりの拍手が沸き起こった。



その後は、アイラン様に連れられ、片っ端から貴族に挨拶をして回った。アイラン様は「ゾマー帝国から来たシャーロットだ」と、1人1人に紹介していく。



なぜか、ずっと腰に手を回されているが、これではまるで恋人同士のように見える。



周りも


「まあ、ついに陛下にも素敵な人ができたのね」


なんて言っているし。とにかく私は愛想笑いを浮かべ、何とかその場を乗り切っていく。



やっと挨拶も一通り終わった。さすがに疲れたわ。



「シャーロット、疲れただろう?せっかくだからホールの外の庭に出ないかい?夜風が気持ちいいよ」



アイラン様に誘われて庭に出た。そして2人並んでベンチに座る。



「いよいよ明日、ガリレゴ王国との戦争が始まるな!シャーロット、国を出るなら今だぞ」


アイラン様ったら、まだそんな事を言っているのね。



「アイラン様、何と言われようと私は国から出ませんし、戦争にも参加します。その為に今まで必死に準備をしてきたのですから!」



「そうか…」


そう言ったアイラン様は、なぜか嬉しそうだ。


するとアイラン様は急に立ち上がった。そして私の腕を掴み、私も立ち上がる。



「シャーロット、俺は今まで誰かを愛することはないと思っていた。どうせ俺はいつか殺されるという絶望や、悲しみの中で生きて来たんだ。でも、シャーロット、君に出会ってから、楽しいと言う気持ち、嬉しいと言う気持ち、そして何より未来を夢見る気持ちを抱くようになった」



跪くアイラン様。


「シャーロット、今更こんなことを言うのは都合がよすぎるかもしれない。でも、言わせてほしい。私、アイラン・ロス・ファミニアは、シャーロットを心より愛しております。どうか、私と結婚して下さいませんか!」



そう言うと、アイラン様は私に向け手を差し出した。



結婚!!


結婚すると言う事は、万が一今回の戦いに敗れた時、私もアイラン様と運命を共にするという事だ!アイラン様は、私と運命を共にすることを選んでくれたのね!これは夢かしら?夢なら覚めないで欲しい。私の目から止め処なく涙が溢れる。



不安そうに顔を上げるアイラン様。そうだわ、返事をしないとね。


「アイラン様、ありがとうございます。私でよろしいのであれば、喜んで」


私はそう言うと、差し出されたアイラン様の手の上に、自分の手を重ねた。


「ありがとう、シャーロット、もう二度と離さないよ」


「私も、何があってもアイラン様から離れません」


アイラン様に強く強く抱きしめられる。その腕の中が物凄く気持ちいいし落ち着く。



しばらく抱き合った後、アイラン様の顔が近づいてきて、唇に温かい感触が!


その感触も、なんと心地いいものなのだろう。


今という幸せを、存分に噛みしめるシャーロットであった。

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