第15話 君のおかげで少しだけ未来に希望が持てるようになった~アイラン視点~

シャーロットに国を出るように言った翌日、オルビアから呼び出された。どうやら、シャーロットから話があるようだ。



もしかしたら、今日にでも国を出ると言う話かもしれない。そう考えると、胸が締め付けられた。これでいいんだ、シャーロットだけでも生き延びてほしい、そう思う反面、離れたくない、出来る事なら一緒に居たいと言う気持ちも芽生える。


ダメだ!こんな気持ちを持っては!俺は自分の気持ちに蓋をし、会議室へと向かう。



「なあ、本当にシャーロットちゃんを国の外に出す気か?そもそもあの子、最近やっと服を自分で着られるようになったってオルビアが言っていたぞ。そんなんで、生きて行けるのか?」



「確かにお前の言う通り、シャーロットは何もできない。だからと言って、ここに残っても死ぬか奴隷になるかのどちらかだ。それならまだ、他国に出た方が良い」



そうだ!そうに決まっている!俺は自分に何度も言い聞かす。しばらくすると、シャーロットが入ってきた。



彼女は本題に入る前に、自分の過去を話させてほしいと言って来た。そう言えば、シャーロットは自ら命を絶とうとしたと、オルビアが言っていた。一体どんな過去があったのだろうか。


シャーロットは、大きく深呼吸をすると、ゆっくり話し始めた。


「私のかつての名前は、シャーロット・ウィルソン。元公爵令嬢で、ゾマー帝国の王太子の元婚約者です。そして…死刑囚でもあります」



「死刑囚…」


どういうことだ?動物ですら助ける心優しいシャーロットが死刑囚だと?一体彼女の過去に何があったんだ!


その後、彼女に起こった過去を1つ1つ丁寧に話していくシャーロット。その内容は、想像を絶するものだった。



俺はその話を聞き、怒りが込み上げてきた。シャーロットはどんな気持ちで、父親や兄、婚約者に殴られていたのだろう。どんな気持ちで、暴言を受け止めていたのだろう。


それでも必死に生きようとしたシャーロットに、死刑を突き付けるなんて…


生きることを諦めた時のシャーロットは、どんな気持ちだったのだろう…



俺が抱えている絶望や悲しみなど、シャーロットの身に起きたことに比べれば、大したことないようにすら思える内容だった。



過去を話し終えたシャーロットも涙を流している。きっと、相当辛かったのだろう。でも、次の瞬間、涙を拭いまっすぐ俺の方を向いたシャーロット。



「一度は失った命を、あなた達が助けてくれました。私はこの命を、アイラン様とオルビア様の為に捧げたいと思っています。だから、私はこの国を出るつもりはありません!たとえなんと言われようと、恩人を捨てて逃げるなんて恥ずかしいマネは私には出来ない!」



あんなに辛い思いをしたのに、俺たちの為に命を捧げるだって、そんなことはさせたくない。過去の話を聞き、なおさらシャーロットには生きて幸せになって欲しいと思ったのだ。



そんな俺の気持ちに対し、シャーロットも引く気はないようだ。それどころか、俺に果物ナイフを手渡した。



「アイラン様とオルビア様に助けられたこの命、アイラン様の手で幕を下ろしてくださいませ。私はこの国を離れて一人のうのうと生きるつもりはございません。さあ、選んでくださいませ。今ここで私の人生の幕を下ろすか、共に戦うか!」




そう言ったシャーロットの目は真剣で、とてもじゃないが彼女を止められない。そう確信した俺は、彼女がこの国に残ることを許した。


でも…心のどこかで喜んでいる自分も居る。俺は、なんて最低な人間なんだろう。


さらにシャーロットは、聖女は自分と同じ魔力持ちだから、聖女は自分が倒すと言い出した。



彼女は何を言っているんだ、そんな事させられる訳がない。俺は必死に反対するが、アルテミルやオルビアがシャーロット側に付いた為、仕方なく認めた。


その後、シャーロットは準備があると言って、早々に会議室から出て行ったのであった。


「イヤ~、それにしてもシャーロットちゃん、かっこよかったね」


アルテミルがニヤニヤしながら、俺に話しかけてきた。



「本当にね。でも、シャーロットの過去は衝撃だったわ!あんなにひどい目に遭っていたなんてね。私、シャーロットの元家族と婚約者、絶対に許せない。一言文句を言ってやりたいぐらいだわ!!」


オルビアが鼻息荒くして怒っている。


「確かにね。それにしても、シャーロットちゃん。本当にこの戦いに勝つ気みたいだね」



「そうね。昨日も真剣に図書館で調べ物をしていたし!よくわからないけれど、なんだか私も、勝てるような気がしてきたわ」



「オルビアは単純だね。でも、あそこまで言うって事は、何か秘策があるのかもしれない。そもそも、地下牢からこの国まで飛んできたくらいだろう?俺たちの想像を絶する力を、シャーロットちゃんは持っているのかもしれない!」



俺の隣で、盛り上がる2人。確かに、シャーロットには底知れぬ力があるのかもしれない。


そんなシャーロットに、かけてみるのも悪くないな…


それからというもの、シャーロットは部屋から一切出てこなくなった。



俺は心配で心配で、ついシャーロットの部屋の周りをウロウロしてしまう。シャーロットの専属メイドをしている、フェアラが迷惑そうな目でこちらを見ているが、そんなことは気にしていられない。



いっその事、部屋を訪ねてみようか?でも、自分が出てくるまで部屋には入らないで欲しいと言われている。それなら、入る訳にはいかないよな。


「なあ、オルビア、今日もまだシャーロットは部屋から出てこないのか?大丈夫なのか?シャーロットは一体何をしているんだ?」



俺は居ても立っても居られず、オルビアにシャーロットの事を聞くが。


「もう、毎回毎回煩わしいわね。シャーロットが部屋に入るなって言っているんだから、大人しく待っていなさいよ。女々しいわね!」



こうやって毎回怒られてしまう。それでも聞かずにはいられないのだ。


「シャーロットが閉じこもってから、もう二週間も経っているんだぞ。お前心配じゃないのか?」



そうだ、もう2週間もシャーロットの顔を見ていない。ただでさえ、俺たちにはタイムリミットがあるんだ。少しでも一緒にシャーロットと過ごしたい!


「もう、うるさいわね。わかったわ。食事の後にシャーロットの部屋を訪ねてみるわ」


「オルビア、すぐに俺に報告するんだぞ!いいな?」


「うるさいわね!分かっているわよ」


怒りながら食事をするオルビア。


そしてついにオルビアがシャーロットの部屋を訪ねた。


それにしても中々出てこないぞ。一体何をしているんだ!


「おい、アイラン。盗み見は良くないぞ」


後ろから声をかけてきたのは、アルテミルだ。


「うるさい。俺は忙しいんだ。あっちに行ってろ」


「何が忙しいんだよ。毎日毎日暇さえあればシャーロットちゃんの部屋に張り付いて、気持ち悪い!」


あきれた様に言い放つアルテミル。


「うるさい!お前邪魔だ!あっちに行っていろ」


「はいはい、わかりましたよ。本当に気持ち悪い男だな」


そう言うと、アルテミルは去って行った。なんとでも言いやがれ。俺はとにかくシャーロットが心配なんだ!


その時だった。


ガチャ


扉のドアが開き、オルビアが出てきた。


「おい、シャーロットはどうだった?」


俺は急いでオルビアに駆け寄る


「びっくりした!お兄様、まさかずっと待っていたの?」


明らかに引いているオルビア。でも今はそんな事気にしていられない。


「そうだ、それよりシャーロットは?」


「元気にしていたわ。でも、後1週間程度は部屋から出られないって」



「なんだって!後1週間もか?おい、本当にシャーロットは無事なのか。何で後1週間も部屋から出られないんだ?中では何をやっているんだ?」


俺はオルビアの肩を掴むと、無意識に揺らしていたようだ。



「ちょっと、止めてよ!とにかく元気だから大丈夫。私今からシャーロットの手伝いをするから、邪魔しないで!」



オルビアは俺を振り払い走っていってしまった。しばらく待っていると、フェアラを連れて戻ってきた。



「お兄様、まだ居たの?とにかく大丈夫だから、仕事に戻って!」


そう言うと、「バタン」と勢いよくドアを閉めるオルビア。



やっぱりシャーロットが心配で離れられない。しばらくウロウロしていると、またドアが開いて、呆れ顔のオルビアが出てきた。


「お兄様がしつこいから、明日からシャーロットも食堂に来るって。良かったわね」



良かった。明日からシャーロットと一緒に食事が出来る。ん?明日から?



「オルビア、なぜ今日からじゃないんだ!」


俺の質問を無視し、再びドアは閉められた。



クソ、無視しやがって!まあ、とりあえず明日にはシャーロットに会えるんだな。明日が楽しみすぎる。



そういえば、こんな風に未来を楽しみに思ったのは、いつぶりだろう。シャーロットが来てから、少しだけ未来を夢見るようになった。少しだけ、未来が楽しみになった。こんな気持ちにしてくれたシャーロット、君には感謝しかないよ。



たとえ未来に死しか待っていなくても、君とならそれも受け入れられそうだ。そんな気がする。


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