第14話 大切だからこそ答えられない気持ち~アイラン視点~
シャーロットが来てから、王宮は一気に明るくなった。どうやら、シャーロットは本当に遠くの国から来たようで、この国の事を何も知らない。
魚料理や米を見ては嬉しそうに食べ、海を見ては子供の様にはしゃぐ。オルビアもシャーロットの事を随分可愛がっている様で、「妹が出来たみたい」と喜んでいる。
そんなシャーロットは、なんと動物と話せるようだ。そう、あれは初めて4人でピクニックに行った日の事。
その日は馬で出かけたのだが、急に俺の愛馬、マックスと話し出したのだ。それだけではない。助けを求めて来た鹿と話し、森の奥にいる子鹿を助けたのだ。そう、俺はその時初めて彼女の魔力を目の当たりにした。
ぐったりしている子鹿を、物の数秒で治したのだ。正直かなり驚いた。この子は本当は神の子で、何らかの理由で人間の世界に降りてきているのではないかとすら思ったくらいだ。
その後、シャーロットと2人でアルテミルたちの元に戻ろとしたとき、クマが現れた。ここはカッコいいところを見せなければと、一撃で倒した。まあ、クマなんて朝飯前なんだが。
そんな俺に「助けていただき、ありがとうございました」と頭を下げたシャーロット。顔をあげた時、俺に向かって微笑んでくれたその顔が、可愛いのなんのって。
もう我慢できずに、彼女を抱きかかえてしまった。困惑する彼女に、「クマやオオカミが出たら大変だから」と、最もらしい理由を並べて。
本当は、俺が彼女を抱きしめたかっただけなのかもしれない。それにしても、シャーロットの体はとても柔らかいし、いい匂いがする。ずっとこうして居たいくらいだ。
でも、それがいけなかった。つい勢いでシャーロットを抱いたまま、アルテミルとオルビアの元に戻ってしまった。
案の定、2人にからかわれてしまった。くそ、もっと手前で降ろしておけばよかった。
俺の思いは、日に日に強くなっていくばかり。好きになっても決して結ばれることがない。分かっていても、止めることが出来ない気持ちに、正直どうしていいのかわからない自分も居た。
もう少しだけ一緒に居たい。死ぬ前にいい思い出を作りたい。そう思って誘った収穫祭。
俺は国王であることを隠すため、黒い服にマント、帽子に仮面も準備した。シャーロットの方はというと、それはそれは可愛らしいピンクの妖精の恰好でやって来た。なんて可愛いんだ!
こんなに可愛いと、他の男に攫われてしまうかもしれない。俺はシャーロットと離れないように、指と指を絡ませて手を繋いだ。本当は抱きかかえたかったのだが、さすがにそれはダメだろうと思い諦めた。
シャーロットは屋台や花火も初めてなのか、それはそれは嬉しそうにしている。こんなに喜んでもらえるなら、来年も連れて来てあげたい。
て、俺は何を考えているのだろう…きっと、来年の今頃には、俺はこの世にいない。それなのに来年の事を考えるなんて…
父上が亡くなってから、未来の事は考えないようにしていたのに…
そんな中、シャーロットが今日のお礼だとネックレスを渡してきた。
話を聞くと、対になっているネックレスという。その話、オルビアから嫌というほど聞かされてきたから知っている。これは、もしかして…
でも、シャーロットは知らずに買ったのかもしれない。
「シャーロット。このネックレスの意味は分かっているのかい?このネックレスは…」
そう言いかけた時、
「存じております。オルビア様から教えていただきましたので。だからこそ、アイラン様に受け取っていただきたいのです」
俺の目を見てはっきりそう口にした、シャーロット。正直めちゃくちゃ嬉しい。でも、俺はシャーロットの気持ちには応えられない。応えてはいけないのだ。
「シャーロット、君の気持は嬉しいが…悪いがこれは受け取れない…」
そう言って、俺はシャーロットにネックレスを返した。一瞬物凄く悲しそうな顔をしたが
「アイラン様、気を遣わせてしまい、申し訳ございません」
そう言って頭を下げた。いや、謝るのは俺の方だ。一方的に好意をぶつけておいて、結局シャーロットの気持ちには応えられないと突き放した。
彼女を深く傷つけた。俺は本当に最低な男だ…
翌日、朝食にも昼食にも顔を出さないシャーロットを不審に思ったオルビアに問い詰められた。
俺は昨日の出来事を正直に話す。
「お兄様、最低!どうしてそんな酷いことを言ったの?お兄様だってシャーロットの事好きなくせに!」
「お前の言う通り、俺は最低だ!でも、お前も分かっているだろう?俺たちはもうすぐ死ぬ運命。これは変えられない。もし今俺とシャーロットが恋人同士にでもなったらどうなる?シャーロットの事だ、きっとここに残って一緒に死ぬと言い出すだろう。俺は、シャーロットに生きて欲しいんだ」
シャーロットには生きて欲しい。彼女は転移魔法という瞬間移動が出来ると聞いた。それさえあれば、簡単にこの国を出られるだろう。
「だからって…」
オルビアは何か言いたげだったが、それ以上は言わなかった。
食事後、アルテミルと会議をしていた時だった。
「陛下、大変です。ファビオ様が!とにかく正門に来てください」
護衛騎士が血相を変えて部屋に入ってきた。ファビオに何かあったのか?俺たちは急いで正門へと向かう。そこには、血だらけのファビオが倒れていた。
その傍らでは、ファビオの妹のフェアラが泣きじゃくっていた。
「しっかりしろ、ファビオ」
声をかけるが返事はない。なんてことだ…やっぱり、行かせるんじゃなかった。後悔が一気に押し寄せる。
その時、オルビアとシャーロットがやって来た。できればこの現場をシャーロットに見せたくない。そう思ったのだが、シャーロットはファビオを見ると、すぐに泣きじゃくるフェアラをオルビアに託し、そして手をかざした。
すると、見る見るファビオの怪我が治っていく。この光景、以前子鹿の時に見た。それにしても、こんな瀕死の状態でも治せるのか!
俺はもちろん、周りもかなり驚いている。
目を覚ましたファビオから、手紙らしきものを受け取る。
“フェミニア王国の国王へ 1ヶ月後貴様の首を取りに行く”
そう書かれていた。そうか、1ヶ月後か…
とにかく、緊急会議を開く必要がある為、至急関係者をかき集める。
「知っている者もいると思うが、1ヶ月後、ガリレゴ王国との戦争が始まる。これは避けられない」
周りが騒めく…
「降伏しても戦っても、殺されるか奴隷としてこき使われる運命だ。どうせなら、最後まで抵抗しよう!」
アルテミルの言葉で、皆が頷く。
俺は至急必要な物資、兵士たちの招集などを行うよう指示をだす。ある程度の話がまとまったところで、アルテミルとオルビアのみを残し、一旦会議は終了させた。
「2人には残ってもらってすまない。シャーロットの事なんだが、明日、事実を話して早急に国から逃げるように伝えるつもりだ」
俺の言葉に反論したのは、アルテミルだ。
「アイラン、今日のシャーロットちゃん見ただろ?あんな大怪我でも簡単に治しちゃったんだぜ。シャーロットちゃんが居れば、少しは…」
「ダメだ!シャーロットは絶対に巻き込ませない!」
俺はアルテミルの言葉を遮り、はっきりそう伝えた。
「とにかく、明日シャーロットには国を出るように話すから」
俺はそう言うと、会議室を後にした。
そして翌日、シャーロットに国から出るように伝えた。彼女は少し考えさせてほしいと言って、会議室を出ていった。
「ねえ、シャーロットちゃん大分ショックを受けていたよな?大丈夫か?」
「そうね、心配だから、後で見に行ってくるわ」
シャーロットの様子に、アルテミルもオルビアも心配しているようだ。確かに、シャーロットにとってはショックだっただろう。でも、これでいいんだ!これで…
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