第13話 突然俺の前に女神が現れた~アイラン視点~

俺の名前は、アイラン・ロス・ファミニア。フェミニア王国の第一王子として産まれた。厳格だが誰からも好かれる父、体は弱いが優しい母、3つ下のお転婆な妹が俺の家族だ。



第一王子ということで、いずれ国王になる為、毎日勉強や剣の練習など、休む暇がないほど色々やらされたが、それでもあの頃はとても幸せだった。



幼馴染のアルテミルやファビオとよく王宮を抜け出しては、教育係に怒られたのはいい思い出だ。



そんな平和な日々は長くは続かなかった。俺が11歳の時、隣国の最弱国、ガリレゴ王国が大陸一力のあったカリゴレス王国に攻め入ったとの情報が入ったのだ。



「あり得ない。あの最弱国がカリゴレス王国に攻め入るなど、一体何が起こっているのだ!」


父上も困惑した様で、至急調査を開始した。



その結果、ガリレゴ王国に突如現れた聖女が、今回の戦いに参戦しているとのこと。雷や炎、氷などを自由自在に操る聖女によって、あっという間にカリゴレス王国は壊滅させられたそうだ。



「全ての国よ。聞くが良い!我がガリレゴ王国は、これから世界征服を始める。王族は皆殺し、民は奴隷として働いてもらう。たとえ降伏しても、これは絶対条件だ!せいぜい余生を楽しんでおくんだな!」



カリゴレス王国を滅ぼした直後、ガリレゴ王国の国王が言い放った言葉だ。父上は、すぐに俺と妹のオルビアを呼び出した。



「お前たち、この国もいつ攻められるかわからない!私達王族はきっと殺される。いいか!少しでも犠牲者を減らすため、お前たちの婚約と結婚は禁止する!」



当時俺が11歳、オルビアは9歳。幸い俺たちにはまだ婚約者はいなかったから、ある意味好都合だったのかもしれない。



ガリレゴ王国は言葉通り、次々と周りの国を滅ぼしていった。もちろん、最初から降伏する国もあったが、やはり王族は皆殺し、民は奴隷という運命は変わらなかった。



そして16歳の時、ついにフェミニア王国が攻め込まれた。ありがたいことに、なぜか聖女はその時不在だった。父上自ら剣を振るい、必死に抵抗した結果何とか追い返すことが出来た。ただこの戦いで国王である父上は、致命的な傷を負い命を落とした。



アルテミルやファビオの父親たちも、ひどい傷を負い、戦いの一線から退いた。父上の死にショックを受けた母上も、父上の死から2ヶ月後、後を追う様に息を引き取った。



そして俺は16歳で国王になった。真珠を気にいったガリレゴ王国の国王に、毎年真珠を納めると言うことで、一旦我が国は生き延びた。



でも、何時攻められるかわからない。そんな中、アルテミルと妹のオルビアが恋人同士であることが分かった。



せめて妹だけでも生き延びて幸せになって欲しい。そう思い、海の向こうのバーディ王国に、何とか妹だけでもかくまってもらえないか手紙を書いた。



しかし、それは出来ないとの返事が来た。もし我が国の人間をかくまったことがガリレゴ王国にバレれば、一番に攻め込まれてしまう。それが理由だった。



他の国に手紙を出すが、どの国もみんな同じだ。俺は両親だけでなく、妹すら守れないのか、絶望が襲う。



何時攻めこまれるかわからないと言う恐怖を隠しながら、必死に国王の仕事をこなす。いつしか、笑う事、泣く事、怒る事、そんな感情を抱かなくなっていた。


そう、俺の頭にはいつも絶望や悲しみが支配していたのだ。



そんな俺も21歳になった。周りの国は、ほぼガリレゴ王国に滅ぼされ、大陸内で残るは我がフェミニア王国だけになった。そろそろ覚悟を決める時だ。


「もう残っている国は、我が国だけになったな。なあ、アイラン。俺、ダメ元でガリレゴ王国に行って、和平交渉をしてくるよ」


そう言ったのは、親友の1人、ファビオだ。


「ファビオ、あの国の冷酷さは知っているだろう?行っても殺されるだけだ、止めておけ」


俺は必死に止めた。


「たとえ殺されても、やらないよりやった方がいい。とりあえず、うまく潜伏してしばらくあの国の状況を把握してから交渉に入る。戻るまでに3ヶ月くらいかかるかもしれないが、行ってくる」



「わかった。すまないが頼む」


俺はそれ以上言えなかった。もし、和平交渉が上手くいけば、国民も俺たちも助かる。ここはファビオに賭けることしかできなかった。


「それじゃあ、行ってくる。妹を頼んだ」


そう言って、笑顔で手を振るファビオ。きっとファビオも恐怖でいっぱいだろう。それでも、俺たちの為に自ら志願して交渉に行ってくれた。どうか、無事でいてくれ。



その日は、久しぶりに酒を飲んだ。飲まずにはいられなった。その時だった。


「陛下、王宮の庭に見知らぬ女性が倒れています」


見知らぬ女性だと?どうやって入ったんだ?


俺は護衛騎士に案内されて、女性の元に向かう。既にオルビアも駆け付けていた。


恐る恐る近づき、女性を抱き起し彼女の顔を見る。俺はその瞬間、一気に自分の鼓動が早くなるのを感じた。


この世の人物とは思えないほど美しい顔をしていたのだ。確かに髪はススで汚れているが、それでも女神と見間違えるほど美しい。胸がドキドキする。こんな気持ち、生まれて初めてだ。


簡単に言えば一目惚れと言うやつだ。とにかく、このままではいけない。俺は彼女を抱き上げ、すぐに客間へと連れて行った。



「とにかく今すぐ医者を呼べ。それから、体中汚れていて可哀そうだ。すぐに湯あみを」


俺は近くのメイドに指示を出す。


彼女が心配で、メイドの作業を監視していると


「お兄様、女性の湯あみを覗く気ですか」


部屋を出て行かない俺をジト目で睨むオルビア。


「違う、そんなつもりでは…」


俺は慌てて部屋の外に出た。その後、しばらくして医者も入っていった。俺は心配で、部屋をウロウロしている



「お兄様、特に異常はないようですわ。ただ、意識が戻らないので、意識が戻るまではしっかり様子を見てやれとのことでした」



部屋から出てきたオルビアから報告を受ける。特に異常はないのか、それは良かった!



「そうか。オルビア、ありがとう。後は私が彼女の様子を見ているから、オルビアは部屋に戻ると良い」



俺が部屋に入ろうとすると


「お兄様。年頃の女性の部屋に入るなんて、何を考えているの!それも相手は意識をなくしているのよ。私が面倒みるから、お兄様は部屋に戻って」



そう言うと、オルビアは部屋に入り、ドアを「バン」と閉めてしまった。



それから1週間後、彼女は目を覚ました。オルビアの話では、名前はシャーロット、魔力のある国から来たとのことで、魔法が使えるらしい。



すぐに会いに行きたい気持ちを抑え、彼女が元気になるまで待つ。そして、いよいよ彼女との対面だ。すでに胸がドキドキしている。


隣のアルテミルには

「何ドキドキしているんだよ!」

とからかわれたが、今はこいつに構っていられるほどの余裕がない。


そして、ついにオルビアに連れられて、シャーロット嬢が入ってきた。



美しい銀髪をハーフアップに結んだ彼女は、もう控えめに言っても女神だ。隣のアルテミルも固まっている。そりゃそうだ。こんな美しい女性、今まで見たことが無いから。



自己紹介をしてくれたシャーロット嬢。声も物凄く可愛い。それに、動きや言葉遣いが洗練されている。オルビアが言っていた通り、どこかの貴族なのかもしれない。



そんな美しい彼女が、俺にお願いがあるとのこと。何だろう、何でも聞くぞ。



「あの、出来ればしばらくこの国に滞在したいのですが、よろしいでしょうか?もちろん、王宮においてほしいなんて図々しいことは言いません。後、どこか仕事を紹介してもらえると助かります」


仕事だと。こんな美しい女性に仕事なんてさせられない。俺はすぐ仕事はしなくてもいいと言ったが、彼女もそれは申し訳ないと食い下がる。



そうだ!


「そんなことは気にしなくてもいい!そうだ、オルビアの話し相手になってやってくれないか?あいつはああ見えて寂しがり屋なんだ」



オルビアは別に寂しがり屋ではないが、今はそんなことを言っていられない。オルビアもシャーロット嬢に、ぜひ側に居てほしいと言ってくれたので、何とかこのまま何もせず留まってくれることが決まった。


とりあえず、これでひとまず安心だ。


「お兄様、誰が寂しがり屋よ。そもそも、シャーロットと一緒に居たいのはお兄様の方でしょう」


面会の後、オルビアに怒られてしまった。


「俺は…別に、シャーロット嬢の事は!」


思いっきり動揺してしまった。

「まあいいわ。お兄様にも、ついに好きな人が出来たのね」


嬉しそうに笑う、オルビア。


「おい、俺は別にシャーロット嬢の事は!」


「はいはい」


軽くあしらわれてしまった。そもそも、俺はいつ殺されるかわからない身。そんな俺が、彼女を好きになっていいわけがない。彼女まで不幸にしてしまう。


そうだ、こんな気持ちは持ってはいけないんだ!この気持ちは封印しよう。シャーロット嬢の為にも…

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