第7話 皆でピクニックに行きます~後編~
「珍しいわね、野生の鹿が人間に寄ってくるなんて。どうしたのかしら?」
オルビア様も首を傾げている。
“助けて!お願い、子供が病気なの。お願い、助けて!”
「子供が病気?子供はどこにいるの?」
“こっちよ”
「シャーロット?」
「この子の子供が病気らしいんです。私ちょっと行ってきます。皆さんはここで待っていてください」
私は急いで鹿が向かった方へ走り出す。
「シャーロット、俺も行くよ!」
私の後を追って来た、アイラン様。
「ありがとうございます」
正直初めて来た森で1人鹿に付いていくのはちょっと不安だった。アイラン様が居れば安心ね。
どんどん奥へと進んでいく鹿。一体どこまで行くのかしら?
しばらく進むと小さな洞穴のところで鹿が止まった
“ここよ、お願い!この子を助けて!”
私は洞穴を覗く。そこにはぐったりした子鹿が居た。
“苦しいよ、お母さん、早く助けて!”
「可哀そうに、何かの病気に掛かったのね。今治してあげるわ」
子鹿を抱きかかえると、魔力を込め“治れ”と念じる。これで治ると思うんだけれど。
すると、子鹿は見る見る元気になり、私の腕からすり抜け母鹿の方にすり寄っていった。
良かった、治ったのね。
隣ではアイラン様が口をポカンと開けて固まっている。
「もう大丈夫ね。良かったわ」
“本当に何とお礼を言っていいか。この子を助けていただき、ありがとうございました。ほら、あなたもお礼を言いなさい”
“助けてくれてありがとう”
「どういたしまして」
子鹿が私の方にすり寄ってきた。元気になってよかったわ。それにしても本当に可愛いわ。
しばらく子鹿と遊んだ後、私たちは元居た場所に戻ることにした。
“本当にありがとうございます。この道をまっすぐ進めば元居た場所に戻れます”
“お姉ちゃん、また遊ぼうね”
「ええ、また遊びましょう」
鹿の親子に別れを告げると、私たちは来た道を歩き始めた。
「シャーロット、君は本当に魔法が使えるんだね。ぐったりしていた子鹿を簡単に治してしまうなんて!」
「そんな、大したことはありませんわ。それよりもアイラン様。付いて来てくださり、どうもありがとうございます。私1人だったら、きっと心細かったと思うんです」
私がお礼を言うと、頬を赤くするアイラン様。照れているのかしら?
「そんな当たり前のことでお礼を言わないでくれ。君を1人に出来る訳ないだろう?」
“1人に出来る訳ない”ですか!それは私が大切という意味かしら?それだったら嬉しいな。て、何自分に都合良いことを考えているのかしら。そもそも、私とアイラン様では釣り合わないわ。
もう、また心臓がうるさくなってきたわ。いい加減にして欲しいわね。きっと私顔真っ赤ね。恥ずかしいわ。つい俯きながら歩いてしまう。
次の瞬間、前を歩いていたアイラン様とぶつかる。
痛い…アイラン様、急に止まるからぶつかってしまったわ。一体どうしたのかしら?
「アイラン様?」
「静かに!」
真剣な顔をしているアイラン様。一体どうしたのかしら。
しばらく固まっていると、茂みの奥から一匹の大きなクマが目の前に現れた。
”うまそうな人間だな。食ってやるか”
どうやら私たちを食べるつもりらしい。そして、次の瞬間。私たちに襲い掛かってきた。攻撃魔法をかけようとした瞬間、アイラン様が剣を抜き、クマに切りかかった。
「グァァァァァ」
悲鳴を上げて倒れこむクマ…
まさか、一撃で仕留めたの?
「シャーロット、大丈夫かい?怪我は?怖い思いをさせてすまなかった」
アイラン様が私の方に駆け寄ってきた。その姿はとても凛々しく、まるで騎士様のようだ。
「はい、私は大丈夫です。助けていただき、ありがとうございました」
私は深々と頭を下げた。すると何を思ったのか、アイラン様が私を抱きかかえ歩きはじめた。一体何が起こったのかわからず、固まる私。
「あ…あの、アイラン様?」
「すまない、よく考えたら森の奥はクマやオオカミも住んでいる。万が一俺の目を盗んで君がクマやオオカミに襲われでもしたら大変だからね。ちょっと窮屈かもしれないが、オルビアやアルテミルのいる場所に戻るまで、我慢してくれ」
私の安全のために、抱きかかえて運んでくれているの?私の我が儘で鹿のところに行ったのに?なんて優しい人なのかしら。
それに前にも思ったけれど随分鍛えられているのね。胸板が凄く分厚いわ。こんな素敵な人、好きになるなという方がおかしいわ。
分かっている、私は祖国で死刑囚。今はただのシャーロット。でも、初めて知ったこの気持ちを抑えることは出来ない。私、アイラン様が好きなんだ。どんなにごまかそうとしても、これは紛れもない事実。
私はアイラン様の腕の中で、そう確信してしまった。このまま目的地なんて着かなければいいのに…
でも、現実はそうはいかない。アイラン様に抱きかかえられ戻ってきた私を見て、オルビア様とアルテミル様が飛んできた。
「シャーロット、どうしたの?怪我でもしたの?」
心配そうに私を見つめるオルビア様。
「おい、アイラン。お前が付いていながら何していたんだよ」
アルテミル様がアイラン様に怒っている。
「違うんです。私別に怪我をしている訳でなくって…帰ってくる途中にクマが出て、それでアイラン様が心配だからって私を運んでくれたんです」
私の話を聞いたとたん、ニヤニヤしだした2人。
「シャーロット、いつからお兄様の事名前で呼ぶようになったの?」
「アイラン、怪我もしていないシャーロットちゃんを抱きしめて来たのか?いやらしいな」
二人の尋問に合い、アタフタする私達。
それを見てさらにニヤニヤする2人。この2人、一体何なんだろう。
「とにかく、そろそろ帰ろう!早く帰らないと日が暮れるだろう」
真っ赤な顔のアイラン様は私の手を掴むと、馬が待つ方まで歩いていく。
そして、私を馬に乗せると、オルビア様とアルテミル様を置いて、さっさと王宮へ戻ってきてしまった。
「あの、アイラン様、今日は色々とありがとうございました。とても楽しかったです。もしよろしければ、また一緒にピクニックに行きたいです」
私の言葉に、一瞬目を丸くしたアイラン様だったが、いつもの優しい笑顔にすぐに戻った。
「ああ、また行こう。あそこはいつでも行けるからね」
いつでもか!そうね、私がここに居る限り、ずっとアイラン様と一緒に居られる。たとえ自分の気持ちが伝わらなくてもいい、アイラン様の側に居られたら!その時の私はそう考えていたのだった。
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