第6話 皆でピクニックに行きます~前編~

海を見に行って数日が経過した。ありがたいことに、陛下もオルビア様も本当に親切で、毎日平穏な日々を過ごしている。思い返せば半年以上、波乱万丈な生活を送っていた。



生きる意味を見失い、自ら命を絶とうとした私に、もう一度生きる力を与えてくれた2人には本当に感謝しかない。



「ねえ、シャーロット、明日4人で王宮の裏手にある山にピクニックに行かない?あそこには奇麗な湖もあるし、お花畑もあるのよ。沢山の動物だっているんだから」


「まあ、素敵ですわ。ぜひ行きたいです。でも4人って?」


「もう、4人って言ったら決まっているじゃない。私とあなた、お兄様とアルテミルよ」


なるほど、あの4人か。


「フェリア様は行かないのですか?」


「フェリアは家の都合で明日は出かける予定だからいないのよ」


なるほど。フェリア様は伯爵令嬢。家の用事があっても普通よね。


「明日は馬で行く予定だから、ズボンを履いて来てね」


馬ですと!


「あの、オルビア様。私乗馬は…」


「大丈夫よ。お兄様が乗せて行くから心配しないで」


「え、陛下がですか。それは申し訳ないですわ」


さすがに陛下に乗せてもらうのは気が引ける。


「大丈夫大丈夫。それじゃあ、明日ね」



言う事だけ言って、オルビア様は去って行った。陛下はお優しいから、きっと大丈夫よね。ピクニックか。ゾマー帝国でもよく殿下の馬に乗せてもらって行っていたな。いけない、ゾマー帝国の事は思い出さないようにしていたのに。今日はもう早く寝ましょう。




翌日、フェリア様に着替えを手伝ってもらい、髪をアップにしてもらった。


「フェリア様、今日はご用事があると聞いております。私の為に申し訳ございません」


私が謝ると

「気にしないでください。大した用じゃないので」

笑顔で答えてくれるフェリア様。本当にみんなが優しい。



朝食が終わると、いよいよピクニックだ。オルビア様に連れられ、王宮の門まで行くと、陛下とアルテミル様が既に待っていた。隣に大きな馬もいる。



「シャーロット嬢。今日はよろしくね。馬は大丈夫かい?乗っている時気になる事があったら、遠慮なく言ってもらって大丈夫だからね」


相変わらず優しい陛下。



「ありがとうございます。とりあえず、今回お世話になる子に挨拶をしてもよろしいですか?」


「別に構わないが…」


困惑する陛下をよそに、私は馬に近づく。


「今日はよろしくお願いします」


優しく鼻の上を撫でる。


“君初めて見る顔だね。僕はマックス、結構スピードを出す方だから、しっかり掴まっているんだよ”


「はい、わかりました。マックス、今日1日よろしくお願いしますね」


私はマックスに、にっこり微笑んだ。


「シャーロット、誰と話しているの?それに、なぜその馬がマックスって知っているの?」


不思議そうにこっちを見ているオルビア様。



「私達ゾマー帝国人は、ありとあらゆる人間の言葉や文字はもちろん、動物の言葉も理解することが出来るのです。今挨拶した時、マックスに直接名前を教えてもらいました」



どうやら魔力が関係している様で、どんな言葉も文字も理解できるのだ。だから、この国の人たちの言葉も最初から理解できた。


「そうなの!凄いわシャーロット!」


目を輝かせて私の手を握るオルビア様。私にとっては当たり前なんだけれど、やっぱりこの能力も珍しいのね。



「さあ、おしゃべりは後にして、出発しよう。シャーロット嬢、ここに足をかけて」


陛下の指示で、紐に足をかける。


「よし、一気にまたがるんだ」


言われた通り馬にまたがった。すぐに陛下もまたがる。


「シャーロット、馬には慣れているようだね。良かった」


ゾマー帝国に居た時も、良くお兄様や殿下に乗せてもらっていたからね。乗るだけなら大丈夫なのよ。操るのは無理だけれど。



どうやら、オルビア様も乗れないようで、アルテミル様と一緒に乗っている。2頭の馬は、森に向かって走り出した。風が気持ちいい。馬は森の中もどんどん走って進んでいく。しばらく進むと、奇麗な湖とお花畑の様な場所についた。


「ここが目的地だよ。さあ、おいで、シャーロット」


先に降りた陛下に私も降ろしてもらう。近い!陛下と近いわ。また私の心臓がうるさくなる。もう、ここ最近何なのよ、私の心臓は!



マックスにお礼を言い、辺りを見渡す。美しい花々が咲き誇り、湖には渡り鳥達もいる。


「素敵な場所ね!」


「そうでしょう?ここは王家御用達のピクニック場所なのよ」


オルビア様が私に向かってにっこり笑った。



せっかくだから花冠を作ろう。子供の頃、王妃様に教えてもらった。そう言えば、王妃様は大丈夫かしら?重い病気に掛かっていたけれど…


私の治癒魔法で治せたはずなのに、ご病気になった後は近づくことも許されなかった。



お母様の親友だった王妃様は、私を実の娘の様に可愛がってくれた。今回の事件も、皆が私から離れていく中、最後まで私をかばってくれた人…


どうか元気でいて欲しい…



いけない、またゾマー帝国の事を考えてしまったわ。さ、花冠を作りましょう。私は無心で花冠を作る。ゾマー帝国の事を、考えないようにするために…


「シャーロット嬢、上手だね。それは花冠かい?」


話しかけてきたのは、陛下だ。


「ええ、そうですわ。こことここを結べば完成ですわ」


私は完成した花冠を陛下の頭に乗せた。


「よくお似合いです。でも陛下は本物の冠の方が似合いますよね」


ちょっと調子に乗ってしまったかしら。



「いいや、嬉しいよ、ありがとう。シャーロット嬢。ずっと言おうと思っていたのだが、そろそろ陛下呼びも止めにしないかい?できれば名前で呼んで欲しいんだけれど」


頬を赤く染める陛下、じゃなくてアイラン様。


「無理にとは言えないが…」


そう呟いて下を向いてしまった。


「わかりましたわ、アイラン様。では私の事もシャーロットとお呼びください。その方が親しみがあって良いかと」


私の言葉に、ぱぁぁっと笑顔になるアイラン様。


「もちろんだ、シャーロット。そうだ、あっちに湖がある。見に行かないかい?」


私の手を取り、湖に2人で向かう。


温かい手、なんだかアイラン様と一緒に居るととても落ち着くし、ずっとこうしていたいと思うこの気持ちは、一体何?かつて婚約者だった殿下にも、こんな気持ち抱いたことなかったのに…


湖は思った以上に透明度があり、底まで見えるのではないかというくらい奇麗だった。せっかくだから、足を浸けたいわ。


私は靴を脱ぎ、ズボンを捲った。水に足を浸けると、ものすごく気持ちい!


「アイラン様もこっちにいらしたら?」


私の言葉に、アイラン様も靴を脱ぎズボンを捲ると、こちらにやって来た。


「シャーロット、あまり奥まで行くと危ないよ」


「大丈夫です…ワーー」


岩に足を滑らせ、転びそうになったところをアイラン様に受け止められた。毎度毎度、どうして私はこんなにどんくさいのかしら。


「シャーロット、大丈夫かい?だから言っただろう。さあ、もう上がろう」


アイラン様に手を引かれ、湖から出て足を拭いた。


もう少し遊びたかったけれど、仕方ないか…


しばらく遊んだ後は、皆でお昼だ。今日も見たことないお弁当が並ぶ。


「これは一体何という食べ物なのでしょうか?」


お米を三角に握られたものに、黒い何かがくっ付いている。初めて見る食べ物だ。


「シャーロット、これは“おにぎり”という食べ物よ。周りに巻いてある黒いものは“ノリ”。海の海藻から出来ているの」


なるほど、そんな食べ物があったのね。私は早速おにぎりを口に含む。うん、これ美味しいわ。食べ進めていくと、焼き魚が入っていた。この焼き魚の部分、特に美味しいわ。


食事も終わり、ティータイムを楽しんでいた時、1頭の鹿が私たちの方にやって来た。


どうしたのかしら?

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