第8話 ファミニア王国の収穫祭に参加します

ファミニア王国に来て、2ヶ月以上が経った。随分フェミニア王国にも慣れてきて、最近はフェアラ様に教えてもらいながら、1人で服も着られるようになってきた。


今日は王宮の庭で、紅茶を飲みながら本を読んでいる。今読んでいるのは、オルビア様から借りた恋愛小説だ。これが中々面白いのだ。


「シャーロット、ちょっといいかい?」


「アイラン様、どうかいたしましたか?」


私の隣に座るアイラン様。近い、近いわ!途端に私の心臓の音がうるさくなる。落ち着くのよ私。


「今度、わが国では年に一度の収穫祭がある。基本的に平民の祭りだが、貴族や王族も参加することが出来る。もしよかったら…俺と一緒に行ってくれないだろうか?」



そう言えば、近々収穫祭があるって、フェアラ様が言っていたわ。それを私なんかと行ってくれると言うの?アイラン様が?


「私なんかと行ってよろしいのですか?」


「もちろんだ、俺はシャーロットと行きたい」


今、私と行きたいって言ってくれたわよね。


「私も行きたいです。ぜひお願いします」


私は深々と頭を下げた。


「よかった!それじゃあ、当日よろしくね」


そう言うと、アイラン様は去って行った。


やったわ!どんな理由で誘ってくれたのかわからないけれど、アイラン様と一緒にお祭りに行けるなんて夢みたい。



こうしちゃいられないわ。収穫祭の事、フェアラ様とオルビア様に詳しく聞かなくっちゃ!


早速オルビア様を掴まえ、収穫祭について詳しく聞く。



収穫祭は、王都の街で行われる祭りで、屋台という物も出るらしい。そして、最後には花火という物も打ちあがるとのこと。服装は、基本的に仮装をしていくみたいだ。仮装なら何でもよくて、仮面をかぶってくる人もいるとのこと。



ちなみにこの収穫祭はあるジンクスがあり、ある職人が作るネックレスを付けた2人は永遠に離れることなくずっと一緒に居られるという物らしい。



そのため、沢山のカップルがそのネックレスを購入する為、街に繰り出すとのこと。ただ、そのネックレスは1つのお店で売られている訳ではなく、沢山のお店の沢山の商品に紛れており、中々見つけ出すのは困難なんだとか!


「そのジンクス、なんだか素敵ですね」


「そうでしょう?私とアルテミルも毎年探しているのだけれど、全然見つからないの。本当に売っているのかしら?」


頬を膨らませるオルビア様。


「それにしても随分収穫祭に興味があるみたいね。シャーロット。もしかして、お兄様に誘われたとか?」


痛いところを突かれ、真っ赤になる私。


「図星か!そっか。あのお兄様がね。シャーロット、思う存分楽しんでくるのよ」


私の肩をしっかり掴み、なぜか真剣な表情をするオルビア様。なんだか意味深な感じがするのだけれど…




そして、待ちに待った収穫祭当日。今日はフェアラ様もオルビア様もそれぞれ恋人と一緒に収穫祭に参加するとのこと。



私は悩みに悩んだ末、妖精の衣装にした。まあ、妖精と言ってもピンクのフワフワなワンピースに羽根と頭にピンクのリボンを付けただけだけれど。ちなみにフェアラ様とオルビア様と3人色違いのお揃いだ。フェアラ様は黄色、オルビア様は青色のワンピースを着ている。


私は何度も自分の姿を確認する。変じゃないよね。



コンコン

「シャーロット準備は…」


迎えに来てくれたアイラン様、なぜか固まってしまった。


「アイラン様?」


私は心配になってアイラン様に駆け寄る。


「ごめん、あまりにも可愛くて…」


「アイラン様?何か言いました?」


何か言った気がしたが、声が小さすぎて聞こえなかったわ


「いいや、何でもない。さあ行こうか」


アイラン様から差し出された手の上に、自分の手を重ねた。やっぱり、手を握るのは慣れないわ。



今日のアイラン様は黒いタキシードに黒い帽子、仮面にマントを付けている。よくわからないけれど、とてもカッコいい。



今日はお祭りということもあり、馬車で街の近くまで行き、そこからは歩いて街まで行く。お祭りは夜に行われるということで、辺りは既に薄暗い。でも、あちこちに人がいるわ。皆仮装をしている。悪魔や天使、食べ物の着ぐるみを着ている人もいる。


なんだかおもしろいお祭りね。


「シャーロット、君は本当の妖精の様に美しい。連れ去られたら大変だ。いいかい?俺の手を絶対離したらダメだからね」



アイラン様に真顔で念押しされた。そんなに見つめられると恥ずかしいわ。それに、もう子供じゃないのだから、連れ去られたりはしないと思うんだけれどな。



そもそも私の魔力量半端ないから、どんな相手でも秒殺で倒せる自信あるし…


そう思いながらも、素直にうなずいた。



そして再び手を繋いで街まで歩く。が、待って!この手の指と指の間に絡ませて繋ぐ手の繋ぎ方、確か恋人繋ぎというものよね。



確かにこれなら人にぶつかっても手がほどける心配はないけれど、これじゃあまるで本当の恋人同士みたいじゃない。



一気に顔が赤くなるのがわかる。そうこうしているうちに、街の中心部へとやって来た。オルビア様達が話していた通り、街には沢山の屋台が並んでいる。自慢ではないが、私は基本的に箱入り娘だった。だから、屋台というのを見るのも初めてだ。


「シャーロットは屋台を見るのは初めてかい?」


私があまりにも目を輝かせていたからか、アイラン様に笑われてしまったわ。恥ずかしい。


「ええ、初めてです。だからとても楽しみで」


正直に答えてみた。完全に子供だと思われたかしら?


「じゃあ今日は目いっぱい楽しもう。シャーロット、あそこに飴細工が売っているよ。あっちには焼き飯もある。何が食べたい?」


う~ん、お店が多すぎて迷ってしまうわ。


「シャーロット、そんなに真剣に悩まなくていいんだよ。そうだ、目に付いたものを片っ端から買っていこう」


アイラン様は宣言通り、色々なお店の食べ物を片っ端から買っていく。



「アイラン様。さすがにそんなに食べられませんわ」


目の前には沢山の食べ物たちが並ぶ。



「確かに買いすぎちゃったね。でもせっかくだから食べよう」


私たちは、2人で仲良く半分こしながら食べた。こうしていると、まるで本当の恋人同士みたいね。


「シャーロット、ほっぺたにクリームが付いているよ」


クスクス笑いながらも、アイラン様がクリームを取ってくれた。ヤバい、私本当に子供みたいね。恥ずかしいわ。



何とか食べ物を食べた後は、せっかくなので他のお店も見て回る。珊瑚や真珠はもちろん、貝殻を使ったアクセサリーも売っている。どれも本当に可愛い。



するとふと対になっているネックレスを見つけた。青色の奇麗な宝石をあしらったタイプのネックレスだ。これ素敵だわ。そうだわ、今日のお礼にこのネックレスの片方を、アイラン様にプレゼントしよう。



今日は、オルビア様から少しお小遣いを貰って来たから、そのお金で買おう。私は会計をするため、アイラン様にバレないようこっそりとレジに持っていく。



「お、お姉ちゃん良いもの見つけたね。これ、例のジンクスのネックレスなんだよ。ちなみに青珊瑚は強い浄化作用があるんだ。だから過去の悪い物を振り払い、新しい人生を踏み出せるという意味が込められているんだよ」



やっぱりこれが例のネックレスだったんだわ。それに新しい人生を踏み出せるだなんて、まさに私にぴったりね。本当にいい買い物が出来たわ。後は、アイラン様に渡すだけね。


「シャーロット、何を買ったんだい?」


アイラン様に聞かれたが、サプライズで渡したい。だから「内緒」と答えておいた。


「シャーロット、もうすぐ花火が始まるよ。あの丘の上が良く見えるんだ」


アイラン様に手を引かれ、丘の上に向かった。既に何組かの恋人たちが、花火が打ちあがるのを待っている。



ちなみに私は、花火という物を初めて見る。オルビア様とフェアラ様の話では、めちゃくちゃ奇麗なのだとか。



「ほら、シャーロット。空を見上げていてご覧。もうすぐ打ち上がるから」


アイラン様に言われ、空を見上げた瞬間。


「ドーーン」


夜空一面に美しい花の様な光が打ち上がった。次から次へと色とりどりの花火が打ち上がっていく。


「なんて奇麗なのかしら」


こんなに美しいものは初めて見た。海も美しいが、この花火はまた格別に美しい。フェミニア王国には本当に美しいものがたくさんあるのね。なんて素敵な国なのかしら。この国でずっと暮らしたいわ。


できれば、アイラン様と一緒に…


美しい花火はあっという間に終わってしまった。


「シャーロット、花火も終わったしそろそろ帰ろうか?」


アイラン様が私の手を取って歩き出そうとした。


そうだわ!私、アイラン様に渡さなきゃいけないものがあるんだった!


「アイラン様、お待ちください」



不思議そうな顔で立ち止まるライアン様。私は意を決して、今日買ったネックレスの片方を取り出す。



「アイラン様、今日は収穫祭に連れて来ていただき、ありがとうございました。これ、お礼です」


「これは?」


アイラン様が私から受け取ったネックレスを見つめている。



「さっきのお店で買いました。対になっているネックレスです。どうか受け取ってください」



「シャーロット。このネックレスの意味は分かっているのかい?このネックレスは…」



「存じております。オルビア様から教えていただきましたので。だからこそ、アイラン様に受け取っていただきたいのです」



もうこれは事実上の告白だ。ものすごく恥ずかしい。それでも、どうしても伝えたかった。それくらい、私の中でアイラン様への気持ちは大きくなっていたのだ。



「シャーロット、君の気持は嬉しいが…悪いがこれは受け取れない…」


アイラン様はそう言うと、私の手にネックレスを戻したのであった。

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