新婚生活はやっぱり楽しい!~エイドリアン&メルシア新婚生活編~

※今回はエイドリアン視点です。



「エイドリアン、お帰りなさい。今日も1日お疲れ様でした」


新居の玄関先で待っていたメルシアは、俺を見つけると飛びついてきた。




3ヶ月前に貴族学院を卒業し、1ヶ月前に結婚式を挙げた俺たちは、今フィーサー公爵家の離れに屋敷を建て、2人で生活している。




「ただいま、メルシア」


俺は抱き着いているメルシアの頭をそっと撫でた。貴族学院を卒業してからというもの、第2騎士団長としての仕事はもちろん、次期公爵になる為に、父上から領地経営について学んでいる。




一刻も早く公爵を俺に譲りたい父上は、鬼の様なペースで俺に領地経営に関する知識を叩き込ませようと必死だ。






さらにいずれ義理弟となるカルロ殿下の右腕としても期待されており、目が回るような忙しさなのだ。そんな中、唯一の癒しが新妻でもあるメルシアだ。メルシアはとにかく明るく、嫌なことがあっても泣き言1つ言わない。




そんなメルシアを見ていると、俺ももっと頑張らないと!という気持ちになる。




「エイドリアン、疲れたでしょう。今日はね、あなたの好きなお料理を料理長に頼んで準備しておいたのよ。さあ、着替えたら食事にしましょう」




「それは楽しみだな。じゃあ俺は着替えてくるから、メルシアは先に食堂で待っていて」




「嫌よ!私もエイドリアンに付いて行くわ!だって私達新婚なのよ。家にいる間は、出来るだけ離れたくないもの」




少し頬を赤くするメルシア。やっぱりメルシアは可愛い!ギューッと抱きしめたい衝動に駆られたが、今は我慢だ。とにかく着替えよう。俺はメルシアの手を取り、自室へ向かうとすぐに着替えを済ます。




「お待たせ、メルシア。さあ、一緒に食堂に向かおうか」


俺が手を差し出すと、嬉しそうに手を取り、さらにギューッと腕にくっ付いて来るメルシア。メルシアは俺より2歳年上とは思えないほど、甘えん坊だ。




長い間遠距離恋愛をしていたこともあり、メルシアは俺との時間を特に大切にしてくれる。あの頃は限られた時間2人で過ごしていたからだろうか、結婚した今も基本的に俺から離れない。




食堂に着くと、いつもの様に2人向かい合わせに座る。メルシアは今日あったことを嬉しそうに話してくれる。俺も今日あったことを話す。この他愛もない時間も、俺たちにとっては大切な時間だ。




食事が終わり、お互い湯あみを済ませる。本来であれば、夫婦でティータイムでも楽しみたいのだが、俺にはやらなければいけない事が山ほどある。今日も自室で父上から押し付けられた領地に関する書類に目を通す。




ちなみに俺が仕事をしている間は、メルシアは俺たちの寝室で大人しく俺の事を待っている。あまりにも遅くなる時は先に寝ている様に言うのだが、メルシアは絶対に寝ないで待っている。




可愛いメルシアを寝不足にする訳には行かない。俺は必死に書類に目を通し、急いで寝室へと向かう。俺の姿を見つけたメルシアが、満面の笑みを浮かべてこっちに走ってきた。




俺はメルシアを受け止め、キューっと抱きしめる。温かくて柔らかいメルシア、毎回思うのだがいつもいい匂いをさせている。




「エイドリアン、お疲れ様!疲れたでしょう。さあ、一緒に寝ましょう」




こんな可愛いメルシアを、そのまま寝かせるなんてあり得ないだろう。そもそも俺たちは新婚なんだ。今日はまだ少し時間も早い。その日の夜は存分にメルシアを堪能したのであった。






翌日、俺の腕の中でぐっすり眠るメルシア。美しい水色の髪をそっと撫でる。このままずっとメルシアとこうしていたい、でも仕事に行かないと。俺はそっとベッドから出る。




「エイドリアン?もう仕事に行く時間?」


しまった、起してしまった。なぜか物凄く敏感なメルシアは、俺がベッドから出ると必ず起きる。




本人曰く「エイドリアンの温もりがないと寝られない」と言っている。




起してしまったものは仕方がない。2人で食事を済ませ、玄関まで見送ってくれるメルシアを抱きしめる。メルシアが笑顔で見送ってくれるから、俺は厳しい仕事も頑張れるのかもしれない。






何だかんだで楽しく新婚生活を送っていたある日、仕事から帰るとメルシアが夕食の後、大事な話があると言い出した。




あまりにも真剣な表情に、俺は固まってしまう。一体何の話だろう。もしかして、他に好きな男が出来たから別れて欲しいとか?いや、メルシアに限ってそんな事はない。そう言えば、最近体調が悪いようで、あまり食事も食べていなかったな。




もしかして、不治の病にかかったとかか?俺はつい悪い方へと考えてしまう。メルシアの話が気になって、食事処ではない。味なんて全く分からない食事を終わらせ、メルシアと一緒に居間に行き、向かい合わせに座った。




「あのね、エイドリアン。実はね、私のお腹に赤ちゃんがいるの。今3ヶ月ですって」




え?赤ちゃん?3ヶ月?俺は頭がついていかず、ポカーンと口を開けたまま固まってしまった。




「エイドリアン、大丈夫?」


俺がずっと固まって動かないせいか、メルシアが俺の方に近づいてきた。メルシアが俺の子供を妊娠した。やっと頭で理解できた時、不安げに俺を覗き込んでいるメルシアをおもいっきり抱きしめた。




「メルシア、それは本当かい?俺たちの子供が君のお腹に居るんだね」


俺は嬉しくて嬉しくて、ついきつくメルシアを抱きしめる。そうだ、こうしてはいられない。




「メルシア、とにかく今日はもう休むんだ。俺が寝室まで運ぼう」


メルシアを抱えると、寝室へと向かう。明日早速父上や母上、エイリーンに報告しないと。そうだ、シュメリー王国に居るメルシアの両親にも報告しないと。




寝室に着くと、メルシアをゆっくりベッドに寝かせる。そう言えば、最近メルシアの食欲がなかったのは妊娠したせいか。明日早速母上の元に行って、妊娠中の食べやすい食べ物を聞いて来よう。




それにしても、俺が父親になるのか!なんだかまだ実感がないな。この日、エイドリアンは興奮してあまり眠れなかった。








そして月日は流れ、臨月を迎えたメルシア。もういつ産まれてもおかしくない。




「ねえ、エイドリアン」


朝方急に話しかけてきたメルシア。外はまだ薄暗い。俺は寝ぼけまなこに返事をする。




「どうしたんだい?まだ起きるには随分早いぞ」




「実はね。さっきから定期的にお腹が痛くて、もしかしたら陣痛が来たかもしれない」




陣痛だって!俺は飛び起きた。




「メルシア、大丈夫かい?今すぐ医者を呼ぶから待っていてくれ」


すぐに部屋を出て、執事に医者を呼ぶように指示を出す。とにかく、メルシアが心配だ。急いで部屋に戻ると、お腹を押さえてうずくまっているメルシアが目に入った。




「メルシア、大丈夫か?」


俺の掛け声に、既に余裕がないのか汗を流しながら苦しそうに頷くメルシア。




「おい、医者はまだか」


廊下に向かって叫ぶと、すぐにメイドたちが飛んできた。しばらくすると、医者がやって来た。医者の話では、確かに陣痛は付いているが、まだ産れるのは先な様だ。


ただ、今日中には産れるとのこと。俺はすぐに本家に向かい、メルシアが産気づいたこと。今日は仕事を休む事を両親に話す。




「父上、申し訳ございませんが、今日はよろしくお願いします」




「わかった、こっちの事は任せておけ。とにかく、今はメルシアに付いていてやれ」


話が終わるとすぐにメルシアの元に向かう。




メルシアは定期的に来る痛みに必死に耐えている。どれくらい痛みに耐えているのだろう。いつの間にか空は明るくなり、太陽は随分と昇ってきた。時間が経つにつれ、メルシアがもがき苦しむ時間も増えてきた。




「まだ子供は生まれないのか?このままではメルシアの体が心配だ!」


つい先生に詰め寄ってしまった。




「いつも冷静なエイドリアン様が取り乱すなんて、珍しいですね。今お腹の赤ちゃんは出てくる準備をしているのです。もう少し、待ってあげてくださいね」


医者はそう言うが、メルシアの苦しみ様は半端ではない。俺はメルシアの腰を必死にさする。




そして太陽が沈みかかった頃、ついに子供が産れた。元気な男の子だ。




「メルシア、よく頑張ったね。元気な男の子だよ」


産れたばかりの子供は、メルシアの横に寝かされている。赤い髪にオレンジの瞳をしている。髪は俺から、瞳はメルシアからそれぞれ受け継いだようだ。




「エイドリアン、この子を抱いてあげて。あなたと私の子よ」


嬉しそうに笑うメルシア。恐る恐る子供を抱き上げた。柔らかくて小さくて、今にも壊れてしまいそうだ。




「メルシア、この子の名前だけれど、アランはどうかな?」


ずっと考えていた名前をメルシアに提案した。




「アラン、素敵な名前ね」


メルシアはそう言うとにっこり微笑んだ。




「それじゃあ、今日からお前はアランだ」


俺は腕の中のアランに声を掛ける。不思議そうに俺を見つめるアランが、たまらなく愛おしい。




メルシア、アランを産んでくれてありがとう。これから家族3人で、もっともっと幸せな家庭を築いていこうね。




~あとがき~

しっかり者のエイドリアンですが、実はメルシアにデレデレです。


アランも産まれ、3人家族になりました。


実はこの2年後、第二子となる女の子、ソアラが誕生します。水色の髪にエメラルドグリーンの瞳をした可愛らしい女の子です。

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