大好きなエイドリアンの家族に会いました~メルシア&エイドリアン馴れ初め編~

「すみません、王女。もう稽古に行く時間なので、これで失礼します!よろしければ今日のお昼、一緒にご飯を食べましょう」



エイドリアン様はそう言うと、稽古場の方に向かって走って行った。あの後ろ姿も素敵。そして何より、エイドリアン様が私の事を愛おしいと言ってくれたわ。もう幸せすぎる!




本当ならばすぐに王宮に戻り、お父様に報告したいところだけれど、ここは我慢ね。それにしても、お昼が楽しみだわ。




私は再び稽古場に向かうと、愛しのエイドリアン様を見つめ続けた。やっぱり、カッコいい!!




そして待ちに待ったお昼だ。エイドリアン様に誘われて、稽古場の外のお庭で食べる。




「実は今日、妹のエイリーンが卵サンドを作ってくれたんです。良かったら食べませんか?」


妹?そうか、私エイドリアン様の事何も知らなかったわ。いつも自分の事ばかり話していて、エイドリアン様から話すことはほとんどなかったものね。




「エイドリアン様は妹がいるのね。それにしても、兄の為に昼食を作ってくれるなんて、優しい妹なのね」




とは言ったものの、もしもお兄ちゃんは渡さないわ!タイプだったらどうしようかしら?エイドリアン様の妹と争うのは避けたいわ。出来れば仲良くしたい。




「今日俺がメルシア王女に気持ちを伝えることを妹に話したら、頑張れのエールを込めて作ってくれたんです。試合とか俺の大一番の時は、いつも作ってくれるので」




そうだったの!優しい妹さんね。ん?今私に気持ちを伝えるって言った?という事は、今日元々エイドリアン様は私に気持ちを伝えてくれるつもりだったのね!嬉しいわ。それにしても、エイドリアン様の言葉使い、気になるわね。




「エイドリアン様。私たちはこれから婚約する身です。どうか、私の事はメルシアと呼び捨てで。後、敬語も無しで!それと、エイドリアン様の家族の事、もっと詳しく教えてください!」




私はエイドリアン様の事、何も知らない。もっと詳しく知りたいわ。




「わかったよ、メルシア。じゃあ俺の事も呼び捨てで大丈夫だよ。俺の家族は父と母、双子の妹のエイリーンだよ」


あら、妹って双子の妹なのね。エイリーン?どこかで聞いたことがあるような?気のせいかしら。




「そう言えばメルシアは明日シュメリー王国に帰ってしまうんだよね。出来れば、メルシアを家族に会わせたいんだけれど、今日とか大丈夫かな?」




えっ、今日急にエイドリアンの家族と会うの!それは緊張するわね。




「エイドリアン、急に会いに行っても良いのかしら?そもそも婚約者として認めてもらえるのかしら?」




「大丈夫だよ。昨日のうちに両親やエイリーンには話してあるし。皆君に会えるのを楽しみにしているよ。特にエイリーンなんて、“私にお姉さまが出来るかもしれないのね”て、はしゃいでいたし」






”お姉さま”だなんて、照れるわ!




「わかったわ、エイドリアン。お父様を連れて必ず行くわ」




その後もエイドリアンの妹、エイリーンちゃんが作った卵サンドを食べながら、楽しく会話をした。いつも一方的に話しているのに、今日はエイドリアンも積極的に話してくれるのが嬉しくてたまらない。




それにしてもこの卵サンド、とても美味しいわ。エイドリアンの妹は公爵令嬢なのに料理も出来るのね。凄いわ!私も見習わなくっちゃ!




お昼休憩が終わると、エイドリアンはまた稽古へと戻っていった。こうしちゃいられないわ。エイドリアンと婚約すること、お父様に報告しないと。




私は急いで王宮に戻り、お父様の元へと向かう。




「お父様!大切なお話があります!」


私の勢いに、若干引き気味のお父様。




「どうしたんだい、そんなに鼻息を荒くして」


レディーに向かって鼻息は無いでしょ。失礼なお父様ね。まあいいわ!




「お父様、私フィーサー公爵家のエイドリアンと婚約することにしたの。今日の夜、エイドリアンの家に行くから、一緒に来てくださいね!」




「そうか、わかったよ。それにしても、お前の様なお転婆を貰ってくれるなんて、エイドリアン公爵令息も物好きだな」




ニヤニヤしているお父様。感じが悪い事この上ない。でも今私が反撃してお父様の機嫌を損ね、行かないなんて言い出したら面倒だ。ここはそっとしておこう。






そうだ、急いで準備をしないとね。私は早速湯あみをし、今回持ってきたドレスの中で、一番のお気に入りに着替える。髪をハーフアップにしてもらえば完成だ。




さあ、そろそろエイドリアンの家に向かう時間だわ。私は王宮の門まで行くと、既にお父様が待っていた。なぜか、カルロ殿下も一緒に。




「メルシア、さすがに他国の王族だけでフィーサー公爵家にお邪魔するのは良くないだろうから、今回はカルロ殿下も一緒に来てくれることになったよ」




ああ、そう言う事ね。でも意外ね。こういった面倒な事には極力首を突っ込まなさそうなカルロ殿下が付いて来てくれるなんて。まさか、冷やかしじゃないでしょうね。




不審に思いつつも、3人で馬車に乗り込む。しばらく走ると、立派なお屋敷が見えてきた。どうやらあそこがフィーサー公爵家の様だ。




馬車を降りると、エイドリアンの両親と思われる男性と女性、エイドリアン、そしてエイドリアンにそっくりな女の子が出迎えてくれた。あの子がきっと妹のエイリーンちゃんね。それにしても、そっくりね。




「よくぞおいでくださいました。シュメリー王国の国王陛下。メルシア王女。カルロ殿下。さあ、中へどうぞ」




エイドリアンのお父様に促され、中に入る。ふとカルロ殿下の方を見ると、嬉しそうにエイドリアンの妹の腰に手を回して、何やら話をしている。思い出したわ!エイリーンと言えば、カルロ殿下の婚約者の名前だ。そうか、だからカルロ殿下が一緒に付いて来たのね。最愛の婚約者に会いたくて!




私達が案内されたのは、広い応接室だ。さすがアレクサンドル王国一の貴族。めちゃくちゃ立派ね。




席はソファータイプで、2人ずつ座れるようになっている。そのため、エイドリアンのお父様とお母様、その向かいに私とお父様、斜めにエイドリアン、エイドリアンの向かいに妹のエイリーンちゃんとカルロ殿下が座った。




エイドリアンが1人なんて可哀そうだわ。私は席を立つと、エイドリアの隣に座る。




「コラ、メルシア。お前は何を考えているんだ!」


お父様は私が移動したことに対して怒っているが、そんな事知ったこっちゃない。




「お父様、良く周りをよくご覧ください。みんなパートナーと一緒に座っていますわ。だから、私はエイドリアンの隣に座るのが普通です。今回お母様が不在なので、お父様が1人なのは仕方がない事ですわ」




私はお父様に向かってにっこり笑う。お父様はなんだかブツブツ言っているが、無視しておこう。




今回は急だったこともあり、お互いの家族を簡単に紹介するだけで終わった。半月後、エイドリアンのご両親とエイドリアンがシュメリー王国に来てくれる事になったので、その時詳しい事を決めると言うことになった。




ちなみにエイリーンちゃんは王妃教育があるのと、カルロ殿下の“エイリーンと何週間も会えないなんて無理だ!”の一言で、シュメリー王国には来ないことになった。まあ、これからいつでも来られる機会はあるものね。




それにしても、あの王太子、ずっとエイリーンちゃんにベタベタくっついて、気持ち悪いわ!それなのに、エイリーンちゃんは嬉しそうな顔をしている。全く理解できないわね。




そうだわ、まだエイリーンちゃんに直接挨拶をしていなかった。私は、エイリーンちゃんに向かって話しかけた。






「あなたがエイリーンちゃんね!本当エイドリアンによく似ているわ!私はメルシアよ。私たち姉妹になるんだから、私の事はお姉ちゃんって呼んでね」




私がにっこり微笑むと、一瞬目を見開いたエイリーンちゃん。




「ありがとうございます。メルシアお姉さま!私の事はエイリーンと呼び捨てで呼んでください。メルシアお姉さまの様な素敵なお姉さまが出来て嬉しいです。これから仲良くしてください」




そう言うと、にっこり微笑んだ。なんて可愛い子なのかしら。




「こちらこそ、仲良くしてね」


私は思いっきりエイリーンを抱きしめた。本当にこの子可愛いわ。でも次の瞬間、カルロ殿下によって引き離される。




「メルシア王女。エイリーンは私の婚約者だ!いくら同性でも気安く触らないでもらいたい」




何なのこの男!嫉妬深い事この上ないわね!でも、エイリーンは嬉しそうにカルロ殿下を見つめている。やっぱり理解できないわ。




「では、我々はこの辺りで失礼いたします。今日は急にお邪魔して申し訳ございませんでした。今後ともどうかよろしくお願いします」


お父様の言葉で、この日はお開きとなった。






そして翌日、今日はシュメリー王国に帰国する日。ご丁寧にエイドリアンのお母様とエイリーンまで私たちを見送りに来てくれた。でも…このまま帰るなんて嫌だわ。せっかくエイドリアンとの婚約が決まったんだもの。もっと、一緒に居たい。






「お父様、私帰りたくないわ。幸い今は学院もお休みだし、ここに残っても問題ないわよね」


私はそう言うと、エイドリアンの腕にしがみついた。




「メルシア、また我が儘を言って!そんな事許される訳ないだろう。半月後にはフィーサー公爵家の方達もシュメリー王国に来てくれるんだ。そうすれば、またエイドリアン君には会えるだろう!さあ、帰るぞ!」




お父様が私の腕をつかみ、エイドリアンから引き離そうとする。私は必死にエイドリアンにしがみつく。




「国王陛下、もしよろしければ、メルシアは我がフィーサー家でお預かりします。そして、シュメリー王国にお邪魔する際に、メルシアと共に向かうというのはいかがでしょうか」




エイドリアンはそれとなく私を抱きしめると、そんな提案をしてくれた。




「しかし…それではフィーサー家にご迷惑を掛けてしまいます」


申し訳なさそうに言うお父様。




「迷惑だなんて、我が家は大歓迎ですわよ」




「そうね、メルシアお姉さまの事もっと知りたいし、私も居て欲しいな」




エイドリアンのお母様とエイリーンが援護射撃をしてくれた。




「お父様、お願い!絶対迷惑かけないから!」


私の渾身のお願いに、ため息を付くお父様。




「仕方ない…フィーサー夫人、エイドリアン君、エイリーン嬢、どうか娘をよろしくお願いします」




やったー!これでしばらくエイドリアンと一緒に居られるわ。嬉しくてエイドリアンに思いっきり抱き着いた。エイドリアンも、抱きしめ返してくれた。




こうして私は、しばらくの間フィーサー家で楽しい時間を過ごしたのであった。

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