体調がよくありません
「エイリーン、今日の結婚式は本当によかったね」
今私は、夫婦の寝室のベッドの中で、今日の出来事をカルロ様と話している。そう、今日はリリーとフェルナンド殿下の結婚式があったのだ。聖女と王子の結婚ということで、沢山の人に祝福されながら結婚式を挙げた二人は、本当に幸せそうだった。
「はい!特にリリーの花嫁姿、本当に奇麗だったわ!これからリリーも王宮で暮らすのね。楽しみだわ!」
「そうだね…」
物凄く嫌そうな顔をしているカルロ様…。そんなにリリーが王宮で暮らすことが嫌なのかしら。
「カルロ様、リリーたちは離宮で暮らす予定だから、そこまで深い関りは無いかと」
リリーは聖女だ。フェルナンド殿下との結婚を機に、王宮で暮らすことが決まっている。そしてフェルナンド殿下は王族から公爵になることも決まり、王都に近い領地も与えられることになった。いわゆる、臣籍降下というやつだ。
本来であれば王都内に自分の敷地を持つのだが、妻が聖女ということで、以前住んでいた離宮で暮らすことが決まったのだ。
「それでも、あの図々しいニッチェル嬢の事だ、絶対エイリーンに毎日会いに来る!」
「カルロ様。もうニッチェル嬢ではありませんよ!今はグレーソン公爵夫人ですわ」
そうそう、フェルナンド殿下は公爵になる際、母の性でもあるグレーソンを名乗ることにしたようだ。フェルナンド殿下のお母様が、異国出身の方だったのね。知らなかったわ!
それにしても、今日は疲れたわ。もう眠くてたまらない。最近なぜか物凄い眠気に襲われることがよくある。どうしたのかしら、私の体。
「エイリーン、随分眠そうだね。今日は疲れているんだろう。ゆっくりお休み」
カルロ様は優しく頭を撫でてくれた。それが物凄く気持ちよくて、もう起きているなんて無理ね。私は秒殺で眠ってしまった。
「王太子妃様、起きてください。今何時だと思っているんですか?」
う~ん、もうちょっと…
布団に潜り込むが、あっさりはがされてしまった。
「王太子妃様、いい加減起きてください!」
ゆっくり目を開けると、目の前にはアンナの姿が。後ろには他のメイドも控えている。窓の外を見ると、太陽が随分上の方まで上がってきているように感じるんだけれど
「アンナ、今は何時頃かしら?」
「正午でございます!」
「私そんなに眠っていたの?」
「そうでございますよ。王太子殿下が寝かしておいてやれっておっしゃるから、起きるのを待っていたのですが、いつまでたっても起きていらっしゃらないので、起こさせていただきました」
「そうだったの、ごめんなさい」
急いで起き上がったのだけれど、あれ、なんだか気持ち悪い。昨日食べ過ぎたかしら?それとも、朝ごはん食べていないから?とにかく、お昼ご飯を食べなきゃね。
アンナ達に手伝ってもらい、着替えを済ますと食堂へと向かった。カルロ様はお仕事なので、一人でお昼を食べている。たまに王妃様やソフィア王女と食べることもあるけれどね。
私の目の前には、豪華な食事が並ぶ。まあ、なんて美味しそう…
ダメだ、気持ち悪い!
料理のにおいをかいだ瞬間、強い吐き気に襲われその場にうずくまってしまった。ヤバい、吐きそう…
「王太子妃様!!」
近くにいた使用人たちが、一斉に私の方へとやってくる。
「大丈夫よ。ちょっと気持ち悪くて吐き気がするの。少し部屋で休むわ」
そうは言ったものの、気持ち悪くて動けないわ。どうしましょう。
「王太子妃様、失礼いたします」
動けない私を見て、男性の使用人の1人が私を寝室まで運んでくれた。そう言えば、ご飯が食べられなかったこと、前にもあったな。あの時は、マリアの事で精神面からくる食欲不振だった。
でも、今回は特に悩みもないし。ただの食あたりか何かかしら。とにかく、寝ていれば治るわよね。寝よう。そう思って目を閉じた時だった。
バーン
「エイリーン、体調が悪いと聞いた!大丈夫なのか?」
カルロ様が物凄い勢いで寝室に入ってきた。
「カルロ様、お仕事は?」
「そんな事どうでもいい、エイリーン、食事が取れなかったと聞いたぞ。今医者を呼んだから、もう少しの辛抱だ!」
カルロ様が私の手をギューッと握ってくれる。でもカルロ様、仕事は大切よ。
コンコン
「王太子殿下、医者をお呼びいたしました」
カルロ様が手配した医者がやって来た。いつも私の体調が悪い時に診てくれる女医さんだ。カルロ様が、たとえ医者でも男はダメだ!と言った為、女医さんに診てもらっている。
「さあ、早速診せていただきますね。王太子殿下、ご退室をお願いいたします」
「毎回思うのだが、僕はエイリーンの夫だ。なぜ退室しなければいけないのだ!」
「たとえ夫でも女性の診察を見るのはよくありませんと、毎回申しておりますでしょう!さあ、早くご退室を!」
カルロ様は私が少しでも体調がすぐれないと、すぐに医者を呼ぶ。そして毎回このやり取りを行っているのだ。さすがに見飽きた。
護衛騎士たちに連れられ、外に出されるカルロ様。ものすごく不満げな顔をしている。
「さあ、邪魔者も居なくなりました。王太子妃様、吐き気があるとお伺いしたのですが、他に症状はございますか?吐き気はいつからですか?」
「吐き気は今日からです。後、症状というほどの事ではないのですが、少し前から酷い眠気に襲われることがあります」
「なるほど。わかりました。では、早速診察をさせていただきますね」
先生は私に向かって手をかざす。すると、温かい光に包まれた。お医者様は患者の体に自分の魔力を流すことで、患者の悪いところを見つけられるらしい。
「王太子妃様、失礼ですが最後に月の物が来たのは、いつですか?」
「月の物?そう言えば、ここ2ヶ月近く来ていないわ」
「やはりそうですか!王太子妃様、おめでとうございます。ご懐妊されていますよ。それもどうやら双子の様ですね」
懐妊ですって!
そっとお腹を触る。ここに、カルロ様と私の赤ちゃんがいるの!それも双子ですって!
「おそらく今は妊娠3ヶ月といったところでしょう。吐き気や眠気は悪阻ですね。しばらくは続くと思いますので、食べられるものを食べたいだけ食べていただいて大丈夫です」
そう言うと、先生はにっこり笑った。
ドンドン
「おい、エイリーンの具合はどうなんだ!早くここを開けないか!!」
どうやら扉の向こうで待っていたカルロ様が、待ちきれずに扉を叩いて叫んでいる。
「本当に王太子殿下には困ったものですね」
呆れ顔で先生が扉を開けた。
「おい、エイリーンはどうだったんだ!」
先生に詰め寄るカルロ様。
「特に異常はありませんよ。詳しくは王太子妃様にお聞きください。それでは私はこれで。王太子妃様、1週間後にまた来ますね」
「先生、ありがとうございました」
私が叫ぶと、軽く頭を下げて先生は出て行った。
「何なんだあいつは!それよりエイリーン、体はどうだったんだい?」
真剣な表情のカルロ様。赤ちゃんが出来た事、言わないとね。
「あのね、カルロ様!どうやら赤ちゃんが出来たみたいなの、それも双子だそうよ」
「えっ、赤ちゃん?」
あれ、カルロ様、固まっちゃった?
「カルロ様!大丈夫ですか?」
心配になって声をかけたその時
カルロ様にギューッと抱きしめられた。
「エイリーンのお腹に僕たちの子供が居るんだね。それも双子だなんて!今日はなんて素晴らしい日なんだ。早速父上や母上に知らせないと。そうだ、エイリーン、無理はいけないよ、しばらくは部屋から出ない方がいいな。食事も部屋に運ばせよう。僕もしばらく部屋で食事を取ることにするよ。
後、ニッチェル嬢には会わない方がいい。あの女は胎教に悪いからな!それにしても、僕が父親になるのか」
物凄い勢いで話すカルロ様。満面の笑みを浮かべながら、「そうか、僕もついに父親になるのか!そうか」と言いながら、部屋中をウロウロしている。
そんなカルロ様を、微笑ましい気持ちで見つめるエイリーンであった。
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