学生編:私たちをモデルにした演劇の公開初日を迎えました

※魔王討伐から半年後のお話です

番外編は、時期がバラバラです。

すみませんm(__)m






「ねえ、エイリーン様。今日予定はある?」


ニコニコ顔で聞いてきたのはリリーだ。


魔王討伐から半年がたち、私たちも3年生になった。魔王が現れたことで、学期末テストが受けられなかった為、今年に限りクラスはそのままで学年だけ上がった。



魔王を討伐した当初は、とにかく周りが騒がしく、恐ろしいほどのファンレターを貰ったりもした。前世を含め、人生初の最大のモテ期という奴だ。




もちろん、カルロ様によって徹底的に排除されたおかげか、今では比較的平和に過ごしている。




「リリー、演劇なら行かないわよ」




朝からお母様とメルシアお姉さまも演劇を見に行くと騒いでいた。リリーもきっと演劇へのお誘いだろう。リリーの考えていることなんて、お見通しよ!




「えぇぇぇ、せっかく聖女の権力を利用して4人分のチケット取ったのに~~!」




物凄く不満そうなリリー。そう、今日は私とカルロ様をモデルにした演劇の公開初日なのだ。




何度か中止できないか交渉したが、もみ消され、ついに恐れていた公開初日を迎えたのだ。それにしてもリリー、あなた今聖女の権力を利用してって言ったわよね。こんなくだらないことで、権力を利用するなんて何考えているのかしら…




「とにかく私は絶対に行かないからね!」


私はカバンを持ち、帰りの馬車へと向かったのだが、そこに立ちはだかったのはカルロ様だ。




「エイリーン、なぜ演劇を見に行かないなんて言うんだい?この演劇は僕たちの強い絆を描いたものなんだ。見に行かないなんてダメだよ!それにしてもニッチェル嬢、君の図々しさがこんなところで役に立つなんてね。チケットを手配してくれてありがとう」




「ちょっと!図々しいとは何よ!毎回毎回失礼ね!せっかくあなたの分もチケットを取ってあげたのに、もう譲ってあげないわよ!」




頬を膨らませて怒るリリー。まあ、ごもっともな意見ね。




「すまない。悪かった!ニッチェル嬢、そのチケット譲ってくれ。頼む!」


カルロ様が必死にリリーに謝っている。今のうちに、そ~っと、馬車に向かおうとするが…




「エイリーン嬢、どこに行くの?ほら、2人とも喧嘩はもうやめにしろ!早く行かないと間に合わなくなるぞ」




再び私の前に立ちはだかったのは、フェルナンド殿下だ。くそ、後少しで逃げられると思ったのに!!




「そうだね。早く行かないと!さ、エイリーンも行くよ!」


カルロ様にがっちり腕を掴まれ、引きずられるように劇場へと連れてこられた。




途中何度も「行かない!」と抵抗したが




「エイリーン、今日は随分と聞き分けが無いね。そんなこと言うなら、お姫様抱っこで連れて行くよ」




と、カルロ様に耳元でささやかれた。お姫様抱っこで劇場なんかに行ったら、余計皆に注目されるじゃない。仕方ない!ここは大人しく付いて行くことにした。




劇場に着くと私たちに気づいた人たちから、あつい視線が送られる。まあ、王太子とその婚約者、王子、聖女というVIPに近づいてくるものはいないけれどね。




「エイリーン様、こっちです」




リリーに案内されたのは、一般席ではなく、王族や上流貴族のみが入れる特等席だった。そこには、お母様、メルシアお姉さま、エイドリアン、王妃様、ソフィア王女もいた。




「あ、エイリーンおねえちゃまだ」


嬉しそうに走ってくるソフィア王女。




「エイリーンおねえちゃまと、フェルナンドおにいちゃまは、ソフィアのよこね」




満面の笑みでソフィア王女が席を指定してくる。相変わらず可愛いわね。




「ちょっと、我が儘王女!何であなたが勝手に席を決めるのよ!エイリーン様とフェルナンド様は私の横よ!」




「でたわね、いじわるせいじょ。あなたは、はしっこでじゅうぶんよ!」




「なんですって~~~!」




「おい、いい加減にしろ!リリー、ソフィアはまだ子供だ、今回は譲ってやってくれ!ほら、俺の隣が空いているからここに座るんだ」




フェルナンド殿下に促され、不満そうに殿下の隣に座るリリー。




「じゃあエイリーンの隣は僕が座るね!」


嬉しそうにカルロ様が隣に座った。ちなみに、私の左手はソフィア王女が、右手はカルロ様がしっかり握っている。




そしていよいよ演劇が始まった。今をときめく超人気俳優たちが演じている劇は、それはそれは見ごたえがあった。




名前も変えてもらっていたので、その点は良かったのだが…




“エイリリーン”に“カルオロ”て、ちょっと名前雑じゃないかしら。もうちょっとひねって欲しかったわ。




第2騎士団の話を忠実に再現している様で、かなり現実に起こったことと似せて作られているらしい。私が意識を失った後の状況も再現されており、必死に治癒魔法をかけるカルロ様や、私の為に聖女の力を使うリリーも再現されていた。




話には聞いていたけれど、演劇とはいえ実際の様子を見れたのは良かったわ。改めて、カルロ様やリリーにはお礼を言わなきゃね。




演劇が終わると、周りは号泣していた。




「エイリーン、あなた随分無理をしたのね。あなた、本当に素敵だわ!」


と、なぜかお母様、メルシアお姉さま、王妃様に次々と抱きしめられた。




「エイリーンおねえちゃま。とってもかっこよかったわ。カルロおにいちゃまも」


そう言って抱き付いてきたのは、ソフィア様だ。




そうだ、私もお礼を言わないと。




「カルロ様、リリー、あの時は私を助けてくれてありがとう」


2人に頭を下げた。



「エイリーン、そんなの当たり前だよ」



「そうです!それよりエイリーン様、本当に素敵でした!私増々エイリーン様のファンになってしまいましたわ」




ありがとう、2人共。それにしても、嫌だ嫌だと思っていた演劇だったけれど、今日見れて良かったわ。



そう思っていたのだが…





翌日


「「「きゃ~エイリーン様よ~~~」」」



「「「エイリーン様、これ受け取ってください!!!」」」



「エイリーン嬢、好きです。たとえ殿下の婚約者でも、この気持ちは誰にも負けません」



「エイリーン様、愛しています」




学院に着くなり、沢山の生徒に囲まれた。一緒に馬車から降りて来たエイドリアンは、秒殺ではじき出される。あまりの多さに呆然と立ち尽くす私…




「おい、君たち、エイリーンから離れろ」


カルロ様が慌てて助けに来てくれたが…




「殿下、独り占めはダメですよ。学院内では平等なのです。だから、エイリーン様はみんなのエイリーン様なんですよ!」




「「「「そうだ。そうだ」」」」




「ふざけるな、エイリーンは僕の婚約者だ。誰にも渡さないぞ!!」




怒り狂うカルロ様を無視し、私に押し寄せてくる人たち。


皆でやれば怖くない精神なのかしら…



どうやら、ここに集まっているのは、昨日演劇を見た人たちのようだ。



せっかく平穏な日々が続いていたのに、やっぱり演劇なんて大っ嫌いよ~~!

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