第72話 魔王討伐当日の朝を迎えました

朝早くに目を覚ました私。意外と図太いようで、昨日の夜はぐっすり眠れた。今日はあいにくの曇り空。まあ、雨が降っていないだけましか。



まだ早いせいか、アンナは起こしに来ない。暇なので、自分で顔を洗い、急遽準備したズボンを履く。ちなみに今回の衣装は、女性騎士団のものだ。鏡に映る自分をチェックする。



うん、中々似合っているじゃない。髪はアンナに結んでもらおう。それにしても、アンナ遅いわね。



しばらく待っていると、アンナが入ってきた。



「アンナ、どうしたの?あなたが遅れるなんて珍しいじゃない?」



「お嬢様、申し訳ございません。私が起こさなければお嬢様は討伐に間に合わず、行かなくて済むのではないかと思って…」




アンナ、さすがにそれは無いかと思うわよ…



「やはりどうしても魔王討伐に行くのですか?お嬢様にもしものことがあったらと、心配で…」


泣き出してしまったアンナ。




「アンナ、ありがとう。でも私はどうしても討伐に行くわ。必ず生きて戻るから。ねえ、髪の毛結んでくれない?やっぱりアンナが結んでくれないとね」




まだ心配なのか、「でも…」と言いかけたアンナだったが、さすがメイド。今は仕事をしないといけないと気付いたのか、私の髪を丁寧にとかし、結んでくれた。



「ありがとう、アンナ」



私がお礼を言うと、泣きながらも笑顔を見せてくれたアンナ。




朝食を取る為、食堂へと向かう。出発前、家族と取る最後の食事だ。昨日の夜と同様、今日も私とエイドリアンの好物が並ぶ。



そしていよいよ出発の時。



「2人とも気を付けてね。無事を祈っているわ」


既に泣きそうな顔のお母様。後ろではアンナが号泣している。




「ありがとうございます、母上」


エイドリアンを抱きしめるお母様。




「お母様、行ってくるわ。必ず帰ってくるから待っていてね。アンナも、あまり泣かないで。しっかりご飯食べてね」


私もお母様と抱き合う。そして、アンナの元に行き、抱きしめた。




「お嬢様、ご無事を祈っております…」




アンナはついに泣き崩れてしまった。お母様もつられて泣き出す。




「それじゃあ、行ってきます」


私とエイドリアンは、お父様が待つ馬車へと乗り込む。ちなみにお父様は総騎士団長として、陛下と一緒に王宮で指令を出す役割だ。




王宮に着くと一旦お父様とは別れる。エイドリアンと一緒に、王宮の居間に向かうと、既にカルロ様とフェルナンド殿下がいた。2人とも騎士の姿をしている。この姿、漫画で見たわ。カルロ様、なんてかっこいいのかしら!



つい見とれてしまった。



「カルロ様、今日の恰好もとても素敵ね。見とれてしまいましたわ」


私がそう言うと、少し照れ臭そうに笑うカルロ様。



「エイリーンも、とても似合っているよ。本当に女騎士みたいだ」



私たちの甘い雰囲気に、若干引き気味のフェルナンド殿下とエイドリアン。まあ、別に気にしないけれどね。



しばらくすると、リリーがやって来た。聖女らしく、白い衣装を着ている。



全員揃ったところで、魔王討伐の最終確認を行う。魔王がいる洞窟までは、馬で約2時間。もちろん、魔族を倒しながらになる為、もっと時間がかかることが予想される。魔族の数にもよるが、洞窟にはリリーとフェルナンド殿下、カルロ様と私、騎士団数名と副団長で向かう。




きっと洞窟内に入らせまいとして、多数の魔族が洞窟の周りに集まっていると予想される。騎士団長のエイドリアンは指揮を取る為、残りの騎士達と共に洞窟の周りの魔族と戦う予定とのこと。




大体の流れが説明されたところで、私が皆に声をかける。




「皆、大事な話があるの。5人で話したいから人払いをお願い」


私の言葉に少し不審な顔をしつつも、カルロ様が人払いをしてくれた。




私は袋から魔石を取り出す。


「これはね、私が作った魔石なの。私の魔力の約8割が入っているわ」




「魔石だって。エイリーン、いつの間にこんなものを作ったんだい?」




「2年生になってからよ」




カルロ様の質問に私が答えると、エイドリアンが何かを思い出したかのように、手を叩いた。




「そうか、カルデゥース侯爵令息と協力して作っていると言っていたのは、この魔石の事だったのか!!」




エイドリアンの言葉に、カルロ様は明らかに不機嫌そうな顔をする。エイドリアンも、しまったと言わんばかりに口を押さえている。



「エイリーン、あれだけ見張りを付けていたのに、どうやってフィーリップに会っていたんだい?」



カルロ様に詰め寄られる。エイドリアンの方を見ると、ごめんのポーズをしているわ。エイドリアンめ。



「会っていたわけではないのよ。通信型の魔道具を使って、やり取りをしていたの。ごめんなさい。お叱りは後で受けるわ。とにかく魔石の説明をさせて!」




私の言葉に、一旦落ち着くカルロ様。ものすごく不機嫌な顔はしているが…




「この魔石は、怪我をした時や魔力が足りなくなった時に補ってくれるわ。基本的に治癒魔法を優先してかけるようにしてあるから、怪我をしても勝手に治るようになっているの。どうしても魔力が足りない時も、補ってくれるわ。ただし、水晶に込められている魔力が減ってくるとヒビが入り、完全に無くなると割れてしまうの」



「なるほど、良く出来ているね、でもエイリーン嬢、今水晶と言ったけれど、なぜ水晶が赤いんだい?普通は透明のはずだよね」



さすがフェルナンド殿下!



「実は魔力と一緒に私の血が混ざっているの。血を混ぜることで、より多くの魔力を水晶に込めることが出来たのよ。そのせいで、赤くなっちゃったけれどね」



「血だって!エイリーン、自分の体を傷付けたのかい?そこまでして魔石を作るなんて!」


またもやカルロ様が私に詰め寄る。



「血と言ってもほんの少しよ。体を傷つけるなんて大げさなものじゃないの。とにかく、今回の魔王討伐にはたくさんの魔力が必要なはず。必ずこの魔石が役に立つと思うから、肌身離さず持っていて。


服の上からでも大丈夫だから、首からぶら下げてくれたらいいわ。そうね、赤は私の髪の色だから、小さな私がくっついているって思ってもらえたら嬉しいな」




「エイリーン様がくっついているか。なんか素敵ね。ありがとう、エイリーン様。私なんだか魔王に勝てそうな気がしてきた」



ずっと硬い表情をしていたリリーが、今日初めて笑った。



「小さなエイリーン、確かに素敵だ。僕も大事にするよ」



カルロ様の言葉に、フェルナンド殿下とエイドリアンも頷く。




「でも、魔石を作るなんて相当大変だったんじゃないのかい。それをわざわざ人数分作っているなんて!それに、魔王が誕生しニッチェル嬢が体調を崩した時も、いち早く魔王誕生を口にしたのもエイリーンだったね。一体君は…」



「お取込み中失礼します!そろそろ出発のお時間でございます」



カルロ様の言葉を遮るように、騎士団の1人が私たちを呼びに来た。



「いよいよだな!さあ、行こうか!」


カルロ様の言葉で、私たちは王宮の門へと向かう。


門にはお父様や国王陛下、王妃様、ソフィア様が待っていた。




「エイドリアン、エイリーン、気を付けるんだぞ。私はここで指揮を取らないといけないけれど、2人の無事を祈っている」




「任せてください父上」




「お父様ありがとう、行ってくるわ」


3人で抱き合う。




「エイリーンちゃん、まさかあなたまで討伐に参加するなんて…」


「エイリーンおねえちゃま、きをつけてね」




王妃様とソフィア様も挨拶に来てくれた。




「さあ、馬に乗ろうか」


カルロ様に言われ、私はあることに気づいた。そう、私は馬に乗れない。どうしよう、無理やりついていくと言ったのに、戦では基本中の基本の馬に乗れないなんて、恥ずかしすぎて言えないわ!




「エイリーンは僕と一緒に馬に乗るから大丈夫だよ」


私が真っ青な顔をしているのに気が付いたカルロ様が、笑顔でそう言ってくれる。




エイドリアンは第2騎士団長として、先陣を切って進む。騎士団たちが護衛する中、カルロ様と私、フェルナンド殿下とリリーの順で進み、一番後ろには第2副騎士団長のカロイド様がいる。




ちなみにカロイド様は私たちより2歳年上の男爵令息で、エイドリアンの親友らしい。




王宮を出て王都の街に入ると、たくさんの人たちが見に来ていた。私、何で乗馬を練習しなかったのかしら。カルロ様に乗せてもらっているなんて、なんだか格好悪いわ。ここは1人で格好よく馬を乗りこなしたかったな…




まあ、リリーもフェルナンド殿下に乗せてもらっているけれど、そもそもリリーは聖女だし。私とは違うもんね。




若干落ち込んでいると、カルロ様が話しかけてきた。




「ほら、あそこに君の母上とメイドのアンナがいるよ。その隣には同じクラスの伯爵令嬢3人組だ」




カルロ様が指をさす方を見ると、確かにお母様とアンナ、令嬢3人が手を振っている。あっちには同じクラスの令息たちもいるわ。私も手を振りかえす。本当にたくさんの人たちが、私たちの為に集まってくれているのね。






私何くだらないことを考えているのかしら。きっと私が馬に乗れないなんて、誰もこれっぽっちも気にしていないわよね。




私は所かまわず手を振った。そうだ、この人たちの為にも、頑張らないと!






~あとがき~

ー魔王復活後すぐに開かれた総騎士団長と騎士団長の会議にてー


総騎士団長「皆も知っているかと思うが、魔王が復活し、大量の魔族が国に現れ甚大な被害が出始めている。そのため、一刻も早く魔王を封印しなければならない。そこで、聖女や王子たちと一緒に、魔王討伐に参加してくれる部隊を決めたいのだが、名乗り出てくれるのもはいないか?」



騎士団長たち「…」


エイドリアン「その役目、我ら第2騎士団に任せては貰えませんでしょうか。聖女のリリー嬢や王子たちは私の友達でもあります。彼らの手助けになりたいと考えております」


総騎士団長「第2騎士団長の気持ちは分かった。しかし、魔王討伐は非常に危険だ。お前はまだ騎士団長になって日も浅い。お前にこの重い任務をやり遂げられるのか?」



第3騎士団長「お言葉ですが総騎士団長!エイドリアンは人望も厚く、人を扱うのもうまい。私はエイドリアンが適任だと思います」



第1騎士団長「私もそう思います」



その他騎士団長達「「「「私もそう思います」」」」



総騎士団長「わかった、では魔王討伐部隊には、第2騎士団にお願いしよう」



騎士団長一同「「「「(やったぜ~~)」」」」



こうして第2騎士団が魔王討伐に参加することになりました。補足ですが魔王討伐はとても危険だが、報酬は高いです。そのため、他の騎士団でも魔王討伐に参加したい人は参加可能、逆に第2騎士団でも行きたくない人は行かなくてもいいと言うシステムを採用したようです。


ちなみに、副騎士団長始め、第2騎士団のほとんどが討伐に参加すると表明したとか

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