第73話 やはり思い通りにはいかないものです

街を抜け森に入っていく。この道が一番洞窟への近道とのこと。


「エイリーン、スピードを上げるからしっかり捕まっていてね」


急にスピードを速めたカルロ様。ちんたら走っていては、中々洞窟にたどり着かないものね。


でも、早すぎやしませんか?前世含め馬に乗るのは初めての私、後ろにいるカルロ様にしがみついた。



「エイリーン、大丈夫かい?少しスピードを緩めようかい?」



「いいえ、大丈夫よ。慣れれば平気。それに私の為に遅れるのは避けたいわ。このまま進んで」



そう、慣れればね。でも、慣れるかしら…



1時間近く進んだところで一旦休憩を取る。慣れない乗馬にお尻が痛いわ…



それにしても1時間走ったのに魔族に1度も遭遇しないなんて、おかしいわね。


漫画の世界ではどうだったかしら?確か移動の場面は軽く流されていたから、よくわからないわ。私と同じことをカルロ様達も思っていたようで、副騎士団長含め男4人で何か話し合っている。しばらくすると、話が終わったのか戻ってきたわ。



「さあ、そろそろ洞窟へ向かおう」


そしてまた洞窟に向かう為、馬に乗った。さすがにスピードには慣れたが、やっぱりお尻が痛い。これは我慢するしかないわね。



その後も魔族は現れることはなく、洞窟の入り口近くまでやって来た。


その時だった。


おびただしい数の魔族が、一斉に襲い掛かってきた。



すぐに応戦する騎士団たち。



「カルロ殿下、フェルナンド殿下、カロイド、このまま洞窟へ進んでくれ。俺たちはここで魔族と戦う。今から俺が道を作るから、そのまま突っ切れ」



エイドリアンは攻撃魔法で一気に魔族を焼き尽くし、道を作ってくれた。



「今だ、急げ!」


エイドリアンの言葉でカルロ様とフェルナンド殿下、カロイド様と一部の騎士たちは一気に馬を走らせる。その間も魔族と騎士団たちの激しい戦いは繰り広げられている。



洞窟の入り口に着くと、馬から降り急いで洞窟内に向かう。



「エイドリアン、どうか無事でいて」



私はエイドリアンに向かって叫んだ。魔族と戦いながらも、私に向かって微笑んでくれたエイドリアン。絶対に生きてね!



洞窟内は思ったより静か。たしか漫画でも洞窟の手前の方は魔族はいなかったはず。そう、魔王が待つ一番奥の場所から少し手前の開けたところに、たくさんの魔族が控えているんだわ。



その場所で、カルロ様は命を落とした。



「それにしても、静かだな」


カルロ様も不審に思っている様で、辺りをキョロキョロと見渡している。



「さっきみたいにいきなり沢山の魔族が出てくるかもしれません。とにかく警戒して進みましょう」



先頭を歩くカロイド様が、周りを見ながら少しづつ進んでいく。しばらく進むと、開けた場所に出た。間違いない、この場所だわ。



その時、奥からたくさんの魔族が出てきた。やはりこの場所で私は戦うことになるようだ。


どんどん出てくる魔族たち。副騎士団長率いる騎士達が応戦するが、あっという間に囲まれてしまった。



それにしても凄い量ね…漫画より多くないかい?おっと、そんな事考えている場合じゃないわ。



私は近くにいるフェルナンド殿下とリリーに向かって話しかける。



「このままみんなで戦っても、時間と体力を使うだけ。私が道を作るから、フェルナンド殿下とリリーは魔王のところに行って!」



「エイリーン様を置いていくなんて出来ないわ」


すかさず反論するリリー。



「リリー、よく聞いて!あなたが魔王を封印しない限り、魔族は増え続け戦いは永遠に終わらない。もしかしたら、今も誰かが魔族に殺されているかもしれない。とにかく一刻も早く、魔王を封印することが大切よ。だから行って!私の為にも、エイドリアンの為にも、アレクサンドル王国の為にも!お願いよリリー」



私の真剣な表情に、静かにうなずくリリー。



「フェルナンド殿下、リリーをお願いします」


私はそう言うと、攻撃魔法で一気に炎を出した。



「今よ。早く行って」



私の言葉に、フェルナンド殿下がリリーの手を引いて走っていく。フェルナンド殿下やリリーを目掛けて魔族が襲い掛かるが、私の攻撃魔法で次々に魔族を倒していく。




私の隣では、カルロ様もフェルナンド殿下とリリーが奥に進める様、手助けをしてくれている。無事奥までたどり着いたフェルナンド殿下とリリー。



良かったわ。とりあえず一安心ね。



ふと周りを見渡すと、奥の方にコブラの様な巨大な大蛇が3匹もいる…


ちょっと、3匹もいるなんて聞いていないんだけれど。見れば見るほど気持ち悪いわ。最初に焼き尽くそうかしら。でも距離があるわね…



「クスクス、エイリーン、あそこに大蛇がいるね。先に倒してしまうか?」


カルロ様は、攻撃魔法で一気に大蛇を焼き尽くした。



「カルロ様、ありがとう」



「エイリーンは蛇が苦手だもんね。これで気にせず戦えるね」


カルロ様がにっこり笑う。この洞窟でカルロ様の笑顔が見れるなんて、なんか嬉しいわ。





その後も私たちは魔族を次々と倒していくが、倒しても倒しても減っていかない。一体どれくらいいるの?



「皆、バラバラに戦っていてはダメだ。1カ所に集まろう」


カルロ様の呼びかけで、皆が洞窟の端へと集まり集中的に魔力を放つ。それにしても、漫画ではこんなに魔族がいたかしら?と思うくらい多い。



次第に魔力が尽きた騎士たちが次々と倒れていく。残るは私とカルロ様、カロイド様の3人だ。カロイド様も大分魔力が尽きている様で、少しふらついている。さすがにこのまま戦っては、カロイド様の命に係わるわ。



「カロイド様、一度後ろにお下がりください。もうかなり魔力が尽きているように見えます。このまま戦っては命が持ちませんよ」



私の言葉に「しかし…」と反論するカロイド様。



「大丈夫です。私とカルロ様で何とかしますので、とりあえずお下がりください。そこの騎士さん、カロイド様をお願い!」



私の言葉に騎士がすぐにやって来て、カロイド様を連れて下がっていった。もう立っていられないほど魔力が尽きていたようで、倒れこんでしまったカロイド様。



大丈夫かしら?



さすがにこの量を2人だけで戦うのは正直キツイ…このまま行くと、最悪共倒れの可能性もある。


カルロ様もだいぶ息が上がってきているわ。でも、漫画ではカルロ様1人で戦っていたのに対し、今回は2人、きっと大丈夫よ!




私は自分に言い聞かせるように戦い続ける。と、次の瞬間!


魔族からの攻撃をもろに受けてしまったカルロ様は、後ろに吹き飛ばされてしまった。



「カルロ様!!!」


私はとっさに叫ぶ




「大丈夫だ、すぐに戻るから待っていてくれ」



私、何をしているのだろう。いつの間にかカルロ様の為に命を懸けて戦うと言う気持ちから、自分も生き残りたいと言う気持ちに変わっていた。



そう、私は本来の目的を忘れかけていたわ…



「いいえ、カルロ様。こちらに戻らなくても大丈夫よ」


私はそう言うと、カルロ様や騎士たちに被害が及ばないよう、バリア魔法をかける。



「エイリーン、何をするんだ!」


カルロ様がこちらに来ようとするが、バリア魔法がかかっているので来ることは出来ない。



私は左腕に付いている、マリアからもらったブレスレットを触った。マリア、今からあなたの元へ行くわ。待っていてね。お父様お母様、アンナ、生きて帰ると言う約束、守れなくてごめんなさい。




「カルロ様、一目見た時からあなたを好きになりました。婚約者になり、あなたと過ごせた日々は、私にとってかけがえのない宝物です。あなたを心より愛しております。私がいなくなってもどうかお幸せに。さようなら、カルロ様!」




私は自分の持つすべての魔力を開放する。“我が内に秘める全ての魔力よ、今ここに開放せよ”そう、このセリフは漫画の世界でカルロ様が唱えた言葉だ。




「エイリーン、頼む!止めてくれ!お願いだ!!」




次の瞬間、私の持つ全ての魔力が手から解放され、ものすごい光に包まれる。



”パリーン”



「エイリーーーーーーーン!!!」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る