最終章 第20話

「ところで、ばあちゃんは?」


拓哉が思い出したかのように言った時、チャイムが鳴った。


「ばあちゃん、何か荷物持ってるな……。」


インターホンの映像を見た拓哉はブツブツ言いながら、玄関に向かった。


「ばあちゃん、何だよこれ、重いな。」


「明日の朝起きれないと嫌だから買い物してきちゃった。」


おばあさんが部屋に入って来た。


「え?

おばあちゃん?!」


「あれ?

雪夏ちゃん!

可愛い服着て、どうしたの?」


目の前にいるのは、店の常連のおばあちゃんだった。

仲良くなって、おばあちゃんって呼んでいるけれど名前は知らなかった。


「え?

ばあちゃん、何で雪夏を知ってるの?」


「いつも買い物に行くから。」


「え?

家の近くにも店はあるだろう?」


「だって、あっちの方が品揃え良いし、我儘聞いてくれるんだよ。」


「我儘言うなよ。」


「だってぇ……。」


確かに店に置いて欲しい商品をリクエストして来るけど……。

悪い事では無い!


「おばあちゃん、置いて欲しい物を言うくらいだから、大丈夫だよ。

うちの店、そういうの出来るだけ叶える店だから。」


「迷惑じゃないのかよ?」


「毎日のように来て、色々買って下さるから、迷惑じゃ無いよ。」


「そうか。

それなら良いけど。」


まさかの拓哉のおばあさんは、知っている人だった。

でも……認めてもらえるか?は分からない。


「拓哉、もしかして、雪夏ちゃんと結婚したいの?」


「そうだよ。」


「そっか。」


おばあちゃんはあまり語ろうとしない。

拓哉は何か言いたそう……。


「ばあちゃん、俺、雪夏以外は考えられないからな!」


「そっか。」


「何か俺にオススメしたい人がいるらしいけど?」


「うん、この子。」


「え?

この子?

はぁ?

え?

雪夏をオススメしようとしてた?」


「そうだよ。

この子が居るだけで店の雰囲気が明るくなる。

色々話してみて、こんな子が孫なら良いなって思ってたよ。

お前が暗い顔しながら滅茶苦茶な事をしてるから、この子が変えてくれたらいいなって思ってた。」


「……。」


「拓哉、雪夏ちゃんを大事にしないと、ばあちゃんが許さないよ。」


「言われなくても大切にするから。」


「それで、いつ結婚式?」


「いや、まだそれは……。」


「早くしないと取られちゃうだろう?」


「大丈夫。

離さないから。

彼女が成人するまで待ちたいんだ。」


拓哉がハッキリ言ってくれて嬉しい。


「拓哉がまともな事を言ってる……。」


「そうだね。」


「前の拓哉に戻ったね。」


「うん。」


拓哉のお母さんと裕美さんは、拓哉を見ながら泣いている。

拓哉がそんなに荒れてたのか……って思うと申し訳ない気持ちになる。

私のせいだよね。


「ほら、また暗い顔してる!

そんな雪夏にはネギトロだ!」


「え?

あっ、ちょっと待って!

いただきますって言ってない!」


「いいんだよ!」


「良くない!

ごちそうになるんだから!」


「分かったよ。」


また拓哉と言い合ってしまった。


「じゃあ、皆、揃ったし、食べよう!」


拓哉のお父さんが食べようと言ったとたん、皆がテーブルを囲む。


「いただきます!」


皆で言う、いただきます。

家族として迎えられた気がした。


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