最終章 第19話

「あっ、お父さん、電車に乗るって。

拓哉、迎えに行ってくれる?」


「うん。

雪夏、どうする?」


「えっと……。」


このまま家に残るか迎えに行くか悩む。


「雪夏ちゃん、一緒に待ちましょう?!」


拓哉のお母さんがそう言った。

断れないから……。


「はい、待ちます。」


そう言ったけど、不安だった。

拓哉が家を出た後。


「はぁ……。

何か拍子抜けしちゃったわ。」


「え?

お母さん、泣いてるの?」


突然、拓哉のお母さんが泣き出す。

裕美さんはオロオロしている。


「あの、良かったら……。

って、私の物じゃないですけど。」


私は目の前にあった箱ティッシュを差し出した。


「ありがとう。

何か知らないユキナさんが来ると思ってたから緊張してたのよ。」


「……。」


「拓哉は別人みたいに暗い顔ばかりでね。

初めは受験に失敗したせいかと思ってたのよ。」


「……。」


「でも軽部君がね、雪夏ちゃんとフラれたからだって言ってて。」


「……。」


「よりを戻してくれたらって思ってたのよ。

だけど、貴女に理由があって別れたわけでしょう?」


「はい……。」


「もう別れたりしない?」


「大丈夫です。

ちゃんと話し合いました。」


「そうなのね!

本当に本当にありがとう!」


拓哉のお母さんが泣きながら私の手を握っ

た。

その手は柔らかくて、とても熱かった。


「お互いにちゃんと気持ちを伝えるのが怖くて、本音を言えないまま別れてしまったんです。

聞きたいことも聞けぬまま、勝手に思い込んだりもして。

もうそういう事が無いように気を付けます!

不器用な二人なので、迷惑かけると思うんです。

沢山お世話になると思います。

宜しくお願いします。」


「こちらこそ、お願いします……。」


私は拓哉のお父さんが帰る前に挨拶をしてしまった。

やっちまった……とは言えない。

そして、拓哉のお母さんにつられて、私も泣いた。

裕美さんは?って思ったら、私や拓哉のお母さん以上に泣いている。

どうしたらいいのか分からない。


「ただいま!

え?

何?

何で三人で泣いてるの?」


帰って来た拓哉がオロオロしている。


「雪夏、大丈夫か?」


「うん……。」


拓哉が私の頭を撫でる。

いつもなら抱きしめてくれたと思う。

さすがに家族の前では無理か。


「お父さん、雪夏ちゃんがお願いしますって……。」


「それで嬉しくて泣いてるの?」


「そうなの……。」


拓哉のお父さんが、拓哉のお母さんの背中を擦っている。


「お父さん、何か、雪夏ちゃん、凄いしっかりしててカッコ良いの……。」


「そうか。

裕美も雪夏ちゃんを支えるお姉さんにならないとな。」


「うん、頑張る……。」


拓哉のお父さんは裕美さんの肩をポンポンと優しく叩く。


「雪夏ちゃん、初めまして。

拓哉の父です。」


「初めまして。

小豆沢雪夏です。」


「こんな家族ですが、宜しくお願い致しま

す。」


「こちらこそ、宜しくお願い致します。」


拓哉のお父さんが冷静に対応してくれて助かった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る