最終章 第14話

毎日、配送で拓哉が来ていた。

轟さんのおかげで少し話す時間が作れた。

でも今日は拓哉が休みで来なかったし、轟さんも休みで寂しい。


「伝票お願いしまーす!」


「はい。」


何回か見た事があるお兄さん。

名前は知らないけど、今日の配送はこの人か……ってガッカリした。


「小豆沢さん?」


店長が心配そうに声をかけてきた。


「はい。

どうしました?」


「元気無いですね。

今日は彼がお休みだからですか?」


「元気ですよ!」


元気だけど、元気じゃない。

たった一日会えないだけなのに。


「そういえば、轟さん、店を辞めるって知ってます?」


「はい。

本社に行くとか?」


「もう聞いてるんですね。」


「はい。」


「新しい人を育てないといけないですね。

小豆沢さん、夜勤増やしても良いですか?」


「大丈夫です。」


私は夜勤が多い方が嬉しい。

拓哉と会いやすいから。


「小豆沢さんも春には本社に戻るんですよね。」


「はい。」


「あぁ……新しい人をもっと増やさないといけませんね。」


「また新入社員が来ますよ。」


「新入社員が少ないから、毎年は来ないですよ。」


「そうなんですか?」


「うん。

今年は小豆沢さんのおかげで店の雰囲気が変わったと言われますし、女性社員の目線って違うものですね。」


「そうですか?」


「最近会えてないでしょうけど、社長が時々来たりで、ほめていますよ。。」


「そうなんですか。」


自覚はしてない。

でも……。


「最近、桝本さんが売場作るのに興味持ってくれてて一緒にやってくれるんです。」


「そうなの?」


「女子高生目線の売場がじわじわ増えていますよ。」


「なるほど。

あの女性の下着を動かしたのも?」


「男性がいたら選びづらいって言うんで、男性の少なそうな売場に置く事を提案しました。」


「そうか。

じわじわ売上上がっているから驚いてて。」


「そうなんですか?」


「ここは洋服屋じゃないのに。」


「そうですよね。」


笑ってはいけないのに笑ってしまう。


「小豆沢さんって、本社でどんな事をされたいんですか?」


「いつか友人の開発した薬をうちの店で売りたいんです。」


「え?」


「でも何年先でしょうかね。」


「寿退社されないんですか?」


「しません。」


私は秋奈との夢を諦めない。


「意志が強いんですね。」


「そうですかね?」


「はい。

いいと思いますよ。」


「ありがとうございます。」


私はやると決めたらやる!

そう思って、この会社に入った。


「それで、佐藤さんとはどうなんですか?」


「え?」


「配送の……。」


「えっと……。」


「付き合えたんですか?

いや違うな。

元サヤですか?」


「あの……何から何までを……?」


「だって、貴女達、帰りに手を繋いで、この店に来てましたよね?」


「学生時代……ですか?」


「そう。」


「知ってたんですか?」


「うん。

だから、夜勤で会わせない方がいいかなとも思ったんだけど、社員は必ず通る道だからね。」


「すみません、気を遣って下さって。」


「夜勤を増やしても良いって事は……上手く行ったんですよね?」


「はい……。」


「そうですか。

お似合いなので、嬉しいですね。」


「え?」


「自分も高校生に戻りたいなって思って見てました。

いつも二人が言い合いしながら笑ってて、楽しそうで。」


「うるさかったですか?」


「ううん。

何かホッコリしたよ。」


店長の言葉で私もホッコリした。

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