最終章 第10話

「轟さんにバレて無いかな?」


「え?」


「目が腫れてるとか。」


「今更悩むな。

それよりも苑香ちゃんに連絡しなくていいか?」


「え?」


「ちゃんと報告していないだろう?」


「あっ、そうか……。」


そう言われてみれば、そうだった。


「電話するぞ。」


「うん。」


拓哉が軽部先輩に電話をかける。


「もしもし。」


「あっ、軽部?

苑香ちゃん、そばにいる?」


「うん。」


「じゃあ、スピーカーにして。」


「了解!」


拓哉が何をどう話すかドキドキする。


「二人とも、心配かけて申し訳なかった。」


「ううん、そんなの気にしないで下さい。

さっきはすみませんでした。」


拓哉と苑香の会話みたいになる。


「えっと。

俺達、結婚を前提に付き合う事にしました。」


「えー、どうしよう?

また泣きそう!」


「ごめんね、泣かせてばかりで。」


「大丈夫です。

でも、嬉し泣きがいいです!」


「そうだね。

ちゃんと大事にするから。」


「雪夏を幸せにして下さい。」


「勿論だよ。

苑香ちゃんも軽部の事、宜しくね。」


「はい!」


何か苑香が泣くのをこらえてるっていうのが分かる。


「拓哉。」


軽部先輩の穏やかな声がする。


「ん?」


「良かったな。」


「おう。」


「もう、雪夏ちゃんも俺達も悲しませるなよ。」


「分かってる。」


「それじゃ、またな。」


「うん、また。」


電話が切れた。


「雪夏、今日も本当に泊まるの?」


「どっちでもいい。」


「おいおい、そういう時は泊まるよって言わない?」


「言いませーん!」


「何だよ、その言い方!」


「いいじゃん、私らしくて。」


「お前なぁ!」


私達は笑いながら、まだまだ言い合う。

これが私達らしくて楽しい。


「何か疲れたな。」


「うん。」


「轟さん、頭を抱えてたな。」


「何でだっけ?」


「分からない。

あの人、声が小さいじゃん?」


「うん。

でも大きい声も出せるよ。」


「そうなの?」


「うん。

聞いた事ある。」


「へぇー。

俺より詳しいじゃん?」


拓哉が私の頭を撫でる。

わざと私の髪をぐちゃぐちゃにする。


「ちょっとぉ……。」


「髪が乱れてるって、何かセクシーだな。」


「もーう、そういう目で見ないで。」


「どういう目だよ?」


「エロ親父!」


「親父って言うな。

お兄さんだろ!」


「おじちゃーん!」


「コラ!」


私達はこうやって笑いながら言い合ってる時間が楽しい。


「雪夏、明日も休みでしょ?」


「うん。」


「俺、夜から仕事だもんな。

マジ帰したくない。

一緒に住まない?」


「うちの親、結婚するまで一緒に住ませないって言うよ?」


「そうだよな。

じゃあ、たまに泊まりに来てよ?」


「えーっ?」


「嫌なの?」


「嫌じゃないよ。

毎日でも!」


「うーん、そうだよな。

お金貯めないとな。」


「え?」


「御両親に納得してもらって結婚したいじゃん。」


「まぁ……そうだよね。」


「もう少し広い家に引っ越したいよな。

友達呼んだら狭いだろう?」


「そうだね。

でも無理しなくていいじゃん。」


「まぁ……末長く……いや、死ぬまで宜しくお願いします。」


「はい。」


私達は……もう大丈夫……だといいな。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る