最終章 第9話

抱きしめられて、数分後。

誰かがチャイムを鳴らす。


「出ないの?」


「いいよ、出なくて。」


出ないと決めた拓哉。

それなら居なくなるのを待てばいいか……。

すると、拓哉のスマホに着信が。


「もしもし。」


「拓哉?

アンタ、留守なの?

今日行くって言ったじゃん?」


「え?

知らねぇよ。」


「だって一昨日メッセージアプリで了解って返してくれたじゃん?」


「え?

マジ?」


「寝ぼけてたの?」


「分からん。

でもちょっと待って。

うーん、あと三十分後とか駄目?」


「あぁ!

アンタ、また女連れ込んで!

失恋したからって、そんな遊び過ぎでしょ!」


「違う違う、お取り込み中ではあるけど!」


「ほらぁ、やっぱり女じゃーん。」


「そういう言い方するな!

結婚を考えてる女性なんだ!」


「え?

アンタ、やっと本命見つけたの?」


「やっとと言うか何と言うか……。」


「分かった。

三十分後にまた来るわ。

アンタの好きなミニパフェ買ってくるわよ。」


「ごめん。

三十分後に宜しく。」


相手は誰か分からないけど、元カノではなさそう。


「ごめん、雪夏。

姉が来るって。

どうする?」


「え?」


「これで帰しちゃったら、会わせなかったって言われるか?」


「私、お姉さんに会うよ。」


「え?」


「でも、目が腫れてるかな?

苑香みたいになってない?」


「苑香ちゃんに失礼だろうが!

俺達の事で泣いてくれたんだぞ!」


「ごめんなさい。」


「それより、とりあえず目を冷やせ!」


「うん……。」


悪あがきかもしれない。

でも目を冷やしてみる。


「雪夏、姉ちゃんが大事な話があるって。」


「え?」


「メッセージアプリに書いてある。

ヤバイな、俺、返信してるわ。

寝ぼけてたな……完全に。」


「ちょっと、私がいて平気?」


「話によったら、席を外すって事でいいかな?」


「うん……。」


何か拓哉が緊張してるみたい。


「緊張してるの?」


「まぁな。

大事な話って言うのが初めてだからな。」


「そうなんだ?」


「俺を落ち着かせてくれない?」


「え?

どうやって?」


「分からないのかよ。」


拓哉がキスをしようとする。


「ちょ、お姉さんが……。」


「うるさい。

集中させろ!」


「そんな言い方……。」


「ごめん。

雪夏、お願い。

俺の言う通りにして。」


「分かった……。」


言う通りに……長いキスを……していたら、チャイムが鳴る。


「三十分後って、嘘だろ!」


そう文句を言いつつ、拓哉がドアを開ける。


「はい、お土産。」


「ありがとう。

ってか、轟さんも?」


お姉さんは轟さんを連れてきた。


「小豆沢さん、やはり佐藤さんとお付き合いを?」


「はい。」


「これは困りましたね。

私の同僚として招待すべきか、弟の婚約者として招待すべきか。」


「もしかして結婚を?」


「はい。」


「おめでとうございます!」


「ありがとうございます!」


轟さんが結婚をするって。

何か嬉しい。


「初めまして。

拓哉の姉の佐藤裕美さとうひろみです。」


「小豆沢雪夏です。」


「あれ?

もしかして、啓の言ってた、拓哉の元カノ?」


「そうかも……です。」


「そうなのね!

よりを戻してくれたの?」


「はい。」


「じゃあ、これからも宜しくね。」


「はい。」


お姉さんは凄く嬉しそうだ。


「拓哉君、お姉さんと結婚する事になりました。

御相談する事もありますので、またお会いした時に。」


「はい。

姉を宜しくお願い致します。」


「こちらこそ。

それでは失礼致します。」


お姉さんと轟さんは、すぐに帰って行った。



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