第3章 第50話

「雪夏、ちょっと来て。」


沈黙を破ったのは佐藤先輩だった。


「え?」


佐藤先輩に手を引かれて、砂浜に辿り着く。


「雪夏。」


「はい。」


「遠回りさせてごめん。」


「こちらこそ……ごめんなさい。」


その時、佐藤先輩が……。

片膝ついて……。

これって、もしかして……。


「俺と結婚して下さい。」


目の前で小さな箱をパカッと開く。


「え?」


「付き合っていないのに、こんな事を言ってごめん。

でも、お前じゃないとダメなんだ。

すぐに……という訳じゃない。

二人で決めた日に結婚しよう?」


「……。」


私は佐藤先輩に、月あかりの下でひざまずいてプロポーズされるの憧れるって言った事があった。

まさに、これ。

何て答えたら良いか分からない。

でも……無言で左手を佐藤先輩の前に差し出した。


「雪夏……いいのか?」


「うん……。」


佐藤先輩は私の指に指輪をはめてくれた。


「絶対に幸せにするから。」


「……。」


「ありがとう。」


「違う。」


「え?」


「一緒に幸せになるんだよ?」


「あっ……そうか。

そうだよな。

ごめん。

この格好しんどいから、立つよ。

手を貸して。」


「あっ、はい。」


佐藤先輩を立たせてあげる。

ちょっとフラフラしてる。

無理させちゃったかな……。


「何を考えてた?」


「え?」


「また何か考えてたでしょ?」


「ううん。」


「嘘ついたら……。」


佐藤先輩が喋る口を塞ぐように……私からキスをした。


「ちょ、お前……。」


「アハハ、嘘ついたら、チューするんでしょ?」


「マジか、それ?」


「だって、自分が言ったんでしょ?」


「そうだけどさ……。」


「嫌?」


「嫌じゃねぇよ。

とりあえずさ、この砂まみれの服をどうにかしたい。」


「あっ、ごめん。」


佐藤先輩の服は本当に砂まみれで……。

パタパタ払ってみたけど……。


「理想と現実は違うだろう?」


「え?」


「望みを叶えたら、こうなるっつう事。

まぁ、出来る事なら何だってしてやるけどな。」


「ごめんなさい。」


「謝るな。

それでお前が幸せならいいんだよ。」


「でも……。」


「お前の幸せは俺の幸せだよ。」


「……。」


「それでなんだけど……。」


「そこに入るか、うち帰るか。

どっちがいい?」


そこって……ホテル?!

でもネックレスに指輪にお金を使わせてしまったから……。


「家に……。」


「どっちの家?

自宅帰る?

俺ん家に来るの?」


「……。」


「まぁいいや、帰りながら考えて。」


二人で車に戻る。


「音楽流すか?」


車が走ると同時に流れた曲は……。


「これは……。」


「最近ハマってる曲。

知ってる?」


「私もハマってる……。」


「マジか。」


佐藤先輩と私はハマる物が同じだったりする。

そういう所が嬉しい。


「それで、どうするよ?

もうすぐ、お前の家。」


「い……。」


「い?」


「一緒にいたい……です。」


「了解。」


佐藤先輩のアパートに向かう。

アパートに近付くにつれて、緊張で喋れなくなる。

望んで来たのに……。

どうなるかなんて、予想ついてるのに……。




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