第3章 第49話

「振り向いていい?」


「……。」


返事が無い。


「これ、本当にありがとう。

嬉しかったよ。」


私は振り向いて、嬉しいって表情を見せようとした。

でも……。

佐藤先輩が座り込んで号泣しているのを見て……もらい泣きした。


「なーんで、泣いてるの?」


「俺、どうしたら雪夏の事……。」


「ん?」


「お願いだ。

よりを戻してくれ。」


佐藤先輩が私の腕を掴む。


「ねぇ、佐藤先輩。」


「ん?」


「私達、酷かったね、色々と……。」


「うん……。」


「他の女と比べられるの嫌だな。

私も他の人もそれは同じでしょう?」


「そうだ……な。」


「もう、そういう事は駄目だよ。」


「うん……。」


「どうやったら、私、許せるのかな?」


「え?」


「他の女子と一緒にいるの見てムカついたり、ショックだった。」


「え?」


「自分が別れようって言ったのに。」


「雪夏?」


「別れなきゃ良かった……。」


「……。」


「別れようって、そんな事言う勇気、いらなかったのに。」


「雪夏……。」


言葉に詰まる。


「雪夏、マジでごめん。」


「うん。」


「どうしたらいい?」


「分からない。」


「じゃあ……俺の事、どう思ってるの。」


「大嫌い。」


「……。」


「大嫌いなのに、それ以上に大好きなの!

どうしたらいい?

大嫌いなのに!」


「……。」


佐藤先輩は黙って、私を抱きしめた。

私は、その手を振りほどけなかった。


「ちょっと、俺、混乱してる。」


「……。」


「雪夏……。」


「……。」


「大嫌いって言ってる時の顔が忘れられねぇよ。

そんな悲しそうな顔させて、マジでごめん。」


「……。」


「こういう時、一発殴ってもらえばいいの?

それとも土下座する?」


「殴れないよ……。」


「じゃあ、土下座……。」


「ちょ……。」


止めようとしたけど遅かった。


「本当にごめんなさい。

許してください。」


佐藤先輩が土下座している。


「ちょっと、やめて!」


「許してくれるまで、やめられねぇだろう?」


「分かった分かった。

許すから!」


「本当か?

俺の事も自分の事も許せるか?」


「え?」


「自分の事を責めるの、マジで見てて辛い。

俺はお前の事は怒ってないよ。」


「佐藤先輩……。」


「許すの?

許さないの?」


「許すから、もうやめて!」


「分かったよ。」


佐藤先輩が立ち上がる。

そして、見つめ合う。

沈黙が続いて……動けない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る