第3章 第42話

遅番最終日が終わろうとしている時。


「雪夏ちゃん、今日、少し時間ある?」


優子さんが声をかけて来た。


「はい。」


「じゃあさ、ちょっと付き合って?」


「はい。」


何だか分からないけど、付き合う事に。


「お疲れ様でーす!」


「はい。

お疲れ様、気を付けて。」


夜勤の轟さんと挨拶をしてから店を出る。


「さーて、お姉さんお金出してあげるよ。

何か食べよう!」


「今日はお子さん平気なんですか?」


「今日は旦那と子供は実家にいるのよ。

私、一人だからさ、御飯付き合って欲しかったんだ。」


「そうなんですね。」


優子さんと近くのファミレスに入った。


「何にする?」


「うーん、これ食べたいです。」


「え?

それ一番安いヤツ……。」


「昔から好きなんです。」


「そうなんだ?

あとさ、身分証明書持ってる?」


「保険証なら……。」


「うん、それ、必要だからね。」


店員が来たから、好物のドリアを注文した。

安いし、量も少なめだけど、ちょうどいい。


「あと、これ、身分証明書。」


「あっ、はい。

かしこまりました。」


優子さんが私の保険証を店員に見せた。


「はーい、これ、もう財布に戻していいよ。」


「はい。」


何で保険証が必要?

お酒頼んでないけど?


「それでさぁ、今日は一人だからさぁ。

一緒にいてくれてありがとねー!」


「はい……。」


優子さんがビールを飲みながら、ベラベラ話している。

相槌を打ちながら食べるドリアは、ちょうど良い感じに冷めていた。


「雪夏ちゃんさぁ、何歳?」


「18です。」


「明日は?」


「19……です。」


「おめでと!」


「ありがとうございます……。

でも、何で?」


「お誕生日連休って書いてあったよ?」


「え?」


慌てて勤務表を取り出すと、小さな文字で『お誕生日連休』と書かれていた。

何故か明日から三連休で不思議だと思ってた。


「オヤツはベツバラだよね?」


「え?

まぁ……そうですけど。」


「ほら、オヤツ来るよ。」


店員がケーキを運んで来てくれた。


「お誕生日おめでとうございます。」


「ありがとうございます。」


この店の名物、ケーキプレート。

そのケーキプレートに『HAPPYBIRTHDAY!』と書かれたクッキーが付いている。

こんなの初めて見た。


「これ、貰えるって知ってた?」


「知らないです。」


「身分証明書出せば貰えるのよ。

誕生日の前後一週間。」


「そうなんですか?」


「うん。

知らない人、多いよ。」


「私も知らなかったです。

ありがとうございます。」


早速、ケーキを食べてみる。


「うーん、おいしーい!」


「そっか、良かった。」


「はい!」


本当に美味しい。

本当に嬉しい。


「幸せそうに食べるね。」


「え?」


「ほら、クリーム付いてる!

この紙ナフキンで拭きなさーい!」


「ハハハ、すみません!」


「ハハッ、謝らなくていいよ。」


優子さんにお祝いしてもらえて、楽しくて嬉しかった!







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