第3章 第40話

今日は遅番。

昨日は珈琲の飲み比べをした。

でも珈琲の味より、軽部先輩の言葉が記憶に残る。

何か落ち着かない。


「こんにちは。」


「……ちは。」


桝本さんは相変わらずだけど、話してくれるようになった。


「今日……調子悪そうですね。」


「そうね……寝不足なの。」


「気を付けて下さい。」


「ありがとう。」


桝本さんは愛想は無いけど、話してくれるようになって、本当に良かった。

でも亮太君を好きなんだっけ?

また、何か起きないといいけど。


「小豆沢さんの友達、彼と付き合ってるんですってね。」


「え?」


「彼から聞きました。」


亮太君が話してしまったらしい。


「心配しないで下さい。」


「え?」


「自分から告白した。

一目惚れだったって。

そういう気持ちにさせる女じゃなかったようです、私は。」


「え?」


「意地悪したりしません。」


「え?」


「前に、小豆沢さんに酷い事言いました。

すみません。」


「いえいえ……。」


突然、こんな風に謝られるとは……。

返す言葉が見つからない。


「あっ、桝本さん、こういう時……。」


「それは、こっちを押して下さい。」


「ありがとうございます……。」


丁寧では無いけど、きちんと教えてくれる。

助かる。


「小豆沢さん。」


「はい。」


「洋服売場なんですけど、男女に分けられないですか?」


「え?」


「下着とか選びづらいです。」


「ここで買ってるの?」


「はい。

ここは肌に優しい物が多いんです。」


「じゃあ、生理用品売場にも置こうか?

あまり男性来ないでしょう?」


「あっ、それ助かります。」


「売場作るの手伝ってもらえる?」


「はい!」


桝本さんが……初めて微笑んだ!

嬉しそうにしている。


「嘘……。」


優子さんが呟く。


「え?」


「あの子、微笑んだよ?」


「はい。」


「何で?」


「売場一緒に作ってくれるんですって。」


「え?

レジしかしないんじゃないの?」


「そうですよね?

でもやってくれるんですって。」


「へぇー。

雪夏ちゃんって、何か凄いね。」


「はい?」


「あの拓哉君も、桝本さんも、貴女に心を動かされるのよ?」


「え?」


「そういう所が好きなのかな。

自分がどんな風に人の心を動かすか分かってない所。」


私は誰かの心を動かすとか考えた事は無い。


「小豆沢さん、御客様の少ない内に行きましょう。

あと一時間すると混みます。」


「はい!」


桝本さんに呼ばれて、一緒に商品の並べ方について考えた。

ビックリするくらい、よく喋る……。


「こういうポップって言うんですか?

私、好きなんです。」


「通信講座で習えるらしいけど……。」


「それ高いですか?」


「分からない。

でもネットで調べたら分かるかも?」


「分かりました。

母に聞いてみます。」


桝本さんは慣れたら付き合いやすいかもしれない。





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