第3章 第39話

今日は休み。

カフェに来ている。


「ごめんね、呼び出して。」


また胡桃に呼び出された。


「どうした?」


「安田さんの珈琲とパパの珈琲を飲み比べて欲しいの。」


「え?」


「お客様が違うって思ったらアウトだもん。」


「あぁ……。」


この店の珈琲が美味しいと遠方から来るお客さんもいると聞いた事がある。


「もうすぐ軽部先輩も来るから。」


「え?」


「苑香は仕事忙しいからって、代わりに。」


「そうなんだ?」


何故か軽部先輩二人でお茶をするみたいな事になった。


「ゴメン、ちょっと遅かった?」


「いえいえ、遅くないですよ。」


「いやぁ、本当に参っちゃってさ。」


「何があったんです?」


「同僚が事故でね。

同僚は元気なんだけど、トラック一台修理に出ちゃったからさぁ。」


「でも人が元気で良かったです。」


「まぁな。

拓哉も具合悪くて大変そうだったよな。」


「もう元気そうですけどね。」


「そりゃ、誰かさんに友達になってもらったから、他の女に会う必要無いからでしょ。」


誰かさんって、私だよね。


「お待たせしました。

こちらがいつもの珈琲、こちらが私の珈琲です。

帰る時に感想お願いします。」


「分かりました。

いただきます。」


安田さんが珈琲を運んで来た。


「雪夏ちゃん、ブラック飲めるの?」


「飲めないです。」


「でも一口はブラックで行ってみた方がいいよ。

もしかしたら飲めるかも?だよ。」


「分かりました。」


言われるがまま飲んでみる。


「うーん、俺はパパさんの方が好みかな。」


「私、安田さんのならブラックで平気です。」


「安田さんのは確かに苦味と酸味は抑えられてるから、飲みやすさはあるかも。

でも珈琲ってこういうのだよね?っていうのは、パパさんの方だね。」


私達のこの感想は後で報告しよう。


「それでさ、何で友達なの?

もう付き合いたいとか無いの?」


突然、軽部先輩が呟くように言った。

ちょっとだけ、何で?って考えた。


「繋がっていたいけど、引っかかるんです。」


「何が?」


「色んな人と遊んでいたっていうのがです。」


「あぁ……それな。

アイツ、そういうヤツじゃないんだけどな。

何かおかしいよな。」


「まぁ、確かに。」


「ちゃんと言った方がいいよ?

引っかかるんですって。」


「え?」


「本音聞いたらどうよ?

雪夏ちゃんになら言うよ、アイツは。」


「聞くのが怖いんです。」


「え?」


何か泣きそう……。


「私はあの人のいない未来を思い描いて、今の仕事に就きました。

そういう人生を楽しもうって決めて。

だから、自分の気持ちを揺さぶるかもしれない事を聞くのが怖い。」


「揺さぶられたら、人生楽しめない?」


「分からないです。

また、本音を言えず聞けずで、同じことを繰り返すかもしれない。

あんな気持ちはもううんざり。」


「一回失敗してるんだから、学習しただろう?

二人はそんなに馬鹿じゃないだろう?」


「……。」


「俺だって失敗したからこそ、彼女を愛せる。

二人もそうじゃないのかな。」


失敗したからこそ愛せる……か。









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