第3章 第33話

昨日は佐藤先輩の家から帰る時に苑香に会った。

苑香は急いでいたから、ゆっくり話せなかった。


「そろそろ、やり直したら?」


そう言われた。


「もうやり直さないって決めてたから、やり直すの怖いよ。」


「あの人とやり直すのって、雪夏の人生にも私の人生にも、良い事だと思うんだけど?」


「え?」


「よく考えてからにしたらいいよ。」


「うん、ありがとう」


そんな感じで話が終わった。

その後からずっと考えていて、寝不足のままの夜勤。

あれ……夜勤って佐藤先輩が配送で来る?


「今日は寝不足ですか?

顔色悪いですよ?」


轟さんが言った。


「今日は洋服売場をどうこうって店長が言ってました。」


「ぐちゃぐちゃだから整頓するんでしたっけ?」


「そんな感じかな。

でも具合悪そうだから無理しないで!」


轟さんは鋭い。


「あぁ……今日はもう一人いるんだった。」


「え?

もう一人?」


店の隅の棚を整頓してるらしき人がいる。


「あの人は?」


「僕のイトコの遠藤翔えんどうしょうです。

通信制の大学生です。」


「そうなんですか。」


「真面目なんですけど、ちょっとワケアリでして。」


「え?」


「ちょっと分からないと思いますが、左手の指が少ないんです。」


「他は何も無いですか?」


「はい。

本人は気にしているので、バイトもしていなかったんですけど、進学を機にバイトする事になりました。」


「そうなんですね。」


「ご迷惑おかけするかもしれませんが、宜しくお願いします。」


「こちらこそ迷惑かけるかも?なので。」


言われると気になる。

でもジロジロ見るのも良くない。


「兄さん、掃除終わった。」


遠藤君がダルそうに歩いて来た。


「ありがとう。

お客様がいる時は名字でね。」


「うん。」


「こちらは社員の小豆沢雪夏さん。」


「うん、知ってる。

佐藤先輩の元カノでしょ?」


「え?」


「同じ高校だったんだけど、クラス違ったから知らないよね?」


残念ながら知らない。


「佐藤先輩、配送で来るんでしょ?

もしかして、元サヤに戻った?」


「戻ってない……。」


「ふーん。

じゃあ、俺が伝票もらってあげる。

気まずいでしょ?」


「……。」


遠藤君……本当に真面目なの?


「あとね、兄さんから聞いたかも?だけど、指の事。

生まれつきだし普通に働けるから何でも言って。

社員だから指示出したりするんでしょう?」


「……。」


「困ったような顔しないで。

かわいそうって思われるのも、うんざりだから。」


私は何て答えたら良いか分からなかった。


「翔、やめなさい。」


「はーい。」


「あそこの洋服売場の整頓して。」


「分かった。」


遠藤君はちょっと不満そうだった。


「ごめんね、あんな態度で。」


「いえ、大丈夫です。」


「指の事で何も出来ないと思われるのが嫌いみたいでね。」


轟さんは心配そう。

私も何か嫌な予感がした。






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