第3章 第32話

「ところで、雪夏、何か買ってきたの?」


「え?

あぁ……差し入れ的な?」


やっと口を開いてくれた佐藤先輩。

私もすっかりスポーツドリンクを忘れてた。


「これ、お前が好きなスポーツドリンクじゃん?」


「佐藤先輩、これ、好きじゃないの?」


「好きだよ。」


スポーツドリンクが好きって事なのに、ドキッとしてしまった……。


「ん?

何これ、精力増強?」


「え?」


「ほら、何か付箋付いてる。

ファイト!……だって。

お前、そういうつもりで来たの?」


「違う!

それは優子さんが勝手に……。」


「優子さんって、真綾の先輩の?」


「うん。」


「あぁ……あの人ならやるか。」


「やりそうでしょう?」


「妊娠したくないなら避妊しなさいよって、真綾に言ってた。」


「あぁ……。」


「他には渡されてないのか。」


「はい?」


「ゴムとか。」


「いりません!

使わないんで!」


「使わないでするのがいいと?」


「違います!」


「ハハハ、ごめんごめん。

顔真っ赤で可愛いわ。

優子さんもそう思ったんだろうな?」


「え?」


佐藤先輩が私の頭を撫でる。

心臓が口から飛び出しそう。

付き合ってる時はこんな事……あったかな?


「ねぇ。

本当の事言っていい?」


「え?」


「うーん、やっぱ、やーめた。」


「はい?」


「気になる?」


「気になるでしょ!」


「また今度にするわ。

なーんか眠くなっちゃった。

ごめんね。」


「……。」


「帰ってもいいし、いてもいいよ。」


「……。」


「今度さぁ、マジでデートしよう?」


「え?」


「お前、もうすぐ誕生日だろう?」


「あぁ……。」


「誕生日は仕事?

予定ある?」


「休みだけど……。」


「そうか。

じゃあ、また連絡するよ。」


「分かった。」


眠い時の佐藤先輩は抱きついて来たりする。

だから、もう帰ろう。

心臓がもたない!


「じゃあ、また!」


「うん、ありがとう!」


帰らないでって言われなくて、ちょっとへこんでる自分がいる。


「はぁ……。」


ため息を吐いてから、歩き出す。

少し歩いたところで……。


「雪夏!」


「あっ、苑香。」


苑香に会った。


「また来てたの?」


「……。」


「どうしたの?」


「何か、心臓がバクバクしてる!」


「え?」


「佐藤先輩と話すと心臓が口から飛び出しそう!」


「え?

何を初恋みたいな事を……。」


「そうだよね?

何だろう?

前も私って、こんなだった?」


「ううん。

緊張して吐きそうって言ってた。」


「え?」


「ねぇ?

佐藤先輩に付き合いたいって言われたんじゃないの?」


「言われたけど……。」


「答えは?」


「ごめんって言った。」


「嫌いなら、もう来ない方がいい。

でも好きなら好きって言いなよ?

佐藤先輩もかわいそうだし、雪夏も何か辛そう。」


「……。」


何か自分で自分の気持ちが分からない。


「ちゃんと色々あった事も言ったんでしょ?」


「うん。」


「それで雪夏はどんな気持ちなのよ?」


「モヤモヤしてる。」


「え?」


「本当の事を言おうか?って言われたけど、何も教えてくれなかったし。」


「え?」


「もーう、よくわからない!」


通りすがりの苑香に愚痴ってしまった。

苑香、ごめん。

苑香、ありがとう。

私、やっぱり自分の気持ちがまだ分からない。

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