第3章 第31話

いざ、来たものの、チャイムを押す手が震える。


「あの……。

そちらに用事ですか?」


知らない女性に声をかけられる。


「はい……。」


「どのような関係なんですか?」


「え?」


「もう会えないって言われたんです。

貴女が新しい彼女ですか?」


「友人です……。」


「友人?

あっ、セフレって事?」


「いや、そういうのじゃないです。」


「嘘でしょ。

あの人、女ならすぐ抱いちゃうでしょ?

体の関係は?」


「無いです。」


無いわけないけど、そう言うしかない……。


「ほらー、早くチャイム押しなさいよ!」


「貴女が押したら良いんじゃないですか?

私は帰ります。」


「帰らないで!

話し合いましょ!」


女性がチャイムを連打する。


「何、連打してるんだよ?!」


佐藤先輩がドアを開けた。


「佐藤くーん!」


女性が佐藤先輩に抱きつく。


「ちょ……、お前、何でここに?」


「何でって、もう会えないって言うからぁ!」


「会えないじゃなくて、会わないだろ!」


「何で?

この女が新しい彼女?」


「違う。

こいつは友達。」


「なーんだ、やっぱセフレじゃん?」


「違う、そういうんじゃない。」


「え?

おかしくない?

あっ、この子が色気無いからかぁ?」


「おかしくないし、こいつに失礼な事を言うな。」


「えー?

失礼なの、そっちじゃん?

もう会えないとか、勝手に決めないで!」


「勝手じゃないだろ。

そもそも家を教えてないのに来るあたりが無理だろ?

ストーカーって言うんだよ、そういうの!」


「はぁ?

もうお前、許さない!」


「やめて!」


思わず、私は女性の腕を掴んだ。

首を締めようとしていたから。


「マジでこれ以上、何かしたら通報するからな!」


通報という言葉に反応して、女性の手の力がゆるんだ。


「ごめん、もう本当にお前と会わない。

俺は本当に好きな女がいるから、そういうのもうやめる。」


「……。」


「だから帰って。

お前を通報してもいいけど、犯罪者にしたくないんだ。」


「……。」


女性は何も言わずに帰って行った。


「セフレだったの?」


「ううん、アイツは肉体関係とかない。」


「え?」


「あぁ……。

こういう話は後にしない?

御近所さんが見てる。」


知らぬ間に野次馬が……。


「すみません。

お騒がせしました!」


そそくさと野次馬の皆さんに頭を下げて、佐藤先輩と一緒に部屋に入る。


「ごめん、巻き込んで。」


「ううん、慣れてる?」


「え?」


「付き合っても別れても、嫌味言われたりとか年中だったし。」


「マジか……。

何で言わなかった?」


「言ったら怒るでしょ?」


「怒るだろう?

普通。」


「好きな人に怒られたら辛いよ!」


「え?」


「気持ち分かるから!」


「え?

それは雪夏が俺を好きで、怒られたら辛いって事?」


「……。」


「そうか……。」


その後、佐藤先輩が黙ってしまった。

二人きりの部屋で沈黙したまま。

気まずい……。

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