第3章 第27話

初めて来るアパート。


「どうぞ。」


「お邪魔します。」


随分キレイに片付いている。


「キレイにしてるんだね。」


「別に女を連れ込む為じゃねーよ?」


「そんな事言ってない……。」


「アパートの壁って薄いって言うじゃん?

毎日色んな女連れてきて、うるさーい!って言われそうだろう?」


「色んな女連れてたんだ?」


「まぁな。

信じてた女にフラれて、もうどうでも良くなったんだろうんな?」


信じてた女って……私?


「お前、好きな人とはどうなったんだよ?

苑香ちゃんに聞いたら、本人に聞けって言うし。」


「好きな人なんて……。」


「え?」


そうだ。

好きな人が出来たから別れようって言ったんだっけ。

嘘なのに……。

真実を伝えたら追い出されちゃうかな?


「ごめんなさい……。」


「え?」


「好きな人なんて……出来てない。」


「は?

じゃあ、何で?!」


「だって、佐藤先輩が……。」


泣きそうになる。

これ以上言うと泣く……。


「俺がどうした?

そんな顔してんだから、理由があるだろう?」


「……。」


「雪夏。

怒らないから話してよ。」


真っ直ぐ見つめられると、自分が悪い気がしてくる。

私が悪いの?


「何で……。」


「ん?」


「大学落ちたの言わなかったの?」


「……。」


「何で私はその事を佐藤先輩以外から聞かされたの?」


「……。」


「私じゃ支えになれなかった?」


「……。」


「それとも、どっちにしても会えないから別れたかった?」


「……。」


佐藤先輩が何も言わなくなってしまった。


「ごめん、私、やっぱ、帰る……。」


「待て……。」


佐藤先輩に腕を掴まれる。


「離れたらフラれると思ってたんだ。」


「え?」


「だからお前の気持ち探るように、もし大学行ったらどうする?って聞いた。

凄い悲しそうにしてたよな。」


「……。」


「それと……。

カッコ悪い所を見せたくなかった。

ちゃんと次を決めて、堂々と伝えたかった。」


「見せてくれていいのに。」


「え?」


「パートナーって、ずっとカッコ良いままじゃいられないでしょう?

カッコ悪い所も見せてくれていいのに。」


「だって、すぐ風邪ひくとか、もうすでに俺ってカッコ悪いだろう?

もっとカッコ悪いとか、さすがに見せたくない。」


「でも、見せてくれてたら、別れようって言わなかったよ。」


「え?」


「大好きだから、隠されてるのが辛くて別れたんだよ?

大好きなのに何で私は随分と後に聞かされたんだろう……って落ち込んだ。」


もう私の涙腺崩壊した。

止められない大粒の涙がボタボタと落ちる。


「雪夏……。

ごめん……。」


佐藤先輩が私を強く抱きしめた。

佐藤先輩も泣いてるみたいだった。



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