第3章 第26話
無事に遅番終了して。
「お疲れ様でした!」
店を出た。
「あれ?
今、帰り?」
「はい。」
「そっかぁ。
これから予定は?」
「無いです。」
「じゃあ、ご飯一緒にどう?
おごるから。」
「……。」
えっと、この人はイケメン美容師さん……。
名前は分からない。
「今日は家でご飯用意してもらっているんで……。」
「いいじゃん、あのさ、俺、一目惚れしちゃったんだよね?」
「え?」
「俺と付き合わない?
あっ、彼氏いる?」
「すみません。
彼氏いないけど、ごめんなさい。」
「え?
何で?
試しに付き合ってみたら?」
「無理です……。」
何か怖い……。
体が震えている……。
「え?
何?
震えてるじゃん、可愛い!
もしかして付き合った事ない?」
「……。」
「とりあえず、ご飯だけ行こう?」
腕を掴まれる。
「ごめんなさい、離して下さい。」
「別にいいじゃん。」
「やめて下さい。」
手をふりほどけない。
どうしよう……。
「何やってんの?
そいつ俺の女なんだけど?」
「え?」
聞き覚えのある声がした。
「え?
この子、拓哉の女?」
「そうだよ。
何、勝手に触ってんの?」
「いや、別に……。」
「離せって。」
「あっ、ごめん、用事思い出したから。」
イケメン美容師がダサい美容師になって去って行った。
「雪夏、大丈夫?」
「……。」
「お前、震えてるじゃん。
マジ、平気か?
具合悪いのか?」
「怖かった……。」
「……。」
「前も何かこんなふうに腕を掴まれて……。」
「え?」
「佐藤が俺の女取ったからとか何とか……。」
「あぁ……。
何かあったな……そういう話。」
「もうやだ……。
怖い……。」
私はその場に座り込んでしまった。
「苑香ちゃん呼ぼうか?」
「苑香に迷惑かけたくない。」
気付いたら、涙が溢れそうになっていた……。
「お前、そんな顔して帰ったら、親が心配するだろう?」
「……。」
「うちに来い。」
「……。」
「襲ったりしないから。」
「……。」
「ほら、そんな所に座ってると、お前の嫌いな虫がいるぞ!」
「え?!」
私は思わず立ち上がった。
「雪夏は俺が怖い?」
私は首を横に振った。
「手を繋いでいいか?」
「うん……。」
私の手を佐藤先輩が握る。
前よりも手がガッチリしている気がする。
「あの……。」
「ん?」
「今、何でここに来てたの?」
「あぁ……。
良子さんが雪夏が今日遅番最終日って教えてくれた。
仕事中じゃない時にお礼を言いに来たかったんだ。」
「わざわざ来なくて良かったのに。
まだ具合悪いんでしょう?」
「やっと自宅に戻れた。
熱が下がるまで実家にいろって親がうるさくてさ。」
「でも手が熱い……。」
「あっ、それは熱のせいじゃないぞ。
片思いの女子と手を繋いでるんだから。」
「……。」
ドキっとした。
でもそのおかげで震えが徐々におさまっていく。
佐藤先輩……ありがとう。
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