第3章 第23話

今日から憂鬱な遅番。

一昨日は胡桃の家に泊まって、昨日帰宅するまでは、遅番について考えていなかったんだけど……。


「こんにちは。」


恐る恐る桝本さんに声をかけた。


「……ちは。」


小さい声で何を言ってるか分からないけど、多分挨拶してくれたと思う。


「今朝、配達のお兄ちゃん、御迷惑おかけしましたって、お菓子持って来たわよ。」


良子さんがお菓子を渡してくれた。

これは……私の好きなパウンドケーキ……。


「小豆沢さんにも宜しくお伝え下さいって言ってたわよ。

貴女達、連絡先知らないの?」


「知らないです……。」


知らないじゃなくて、消しちゃって分からないんだけど。


「あっ、ゆっきなちゃーん!

ひっさしぶりー!」


「優子さん!」


「拓哉君、過労だって?」


「え?」


「何か真綾が言ってた。

軽部君に聞いたみたい。」


「あぁ……。」


「雪夏ちゃんが助けたんだって?」


「そんな……助けるって程の事は……。」


「そうなの?」


「たいした事はしてないです……。」


私はたまたま具合の悪い御客様を助けただけ。

そういう事にしておきたい。

そりゃ、すぐ風邪ひいて熱を出すのも知ってるけど……。


「そうそう、それよりも今日は私がレジ教えるけど、明日は桝本さんが教えるって。

知ってた?」


「そうなんですか?」


「私は明日休みだもん。

困ったら良子さんいるから頼って?」


「分かりました。」


今日のうちに必要最低限の事を教わりたい。


「御客様少ない内にボタンの位置とか覚えちゃいなよ?

遅いんですけどって桝本さんに怒られるからね!」


「はい!」


そうは言われても、商品券とかクレジットカードとかチャージとか……。

難しいな、これ。


「分からない時は聞いて良いからね。

分からないままにするのはダメ。

忘れても怒らないから。

桝本さんは、そんな事も分からないんですか?って言うけど、しょうがないじゃん?」


しょうがないんだけど……ね。


「あとね、クレジットカードだとポイントカードのポイントたまらないとか、そういうのも気を付けてね。

言わないとうるさい人いるし。

言ってもうるさい人はいるけど。」


「はぁ……。

レジって大変ですね。」


「そうだね。

でも毎日やれば慣れるよ。」


「そうですか?」


「でもさぁ、雪夏ちゃん、どっちのタイプ?

店長目指すの?

それとも会社の中の人?」


「開発と仕入れに興味があります。」


「あぁ……。

そういえば婿が言ってたね。

新商品の開発、新商品の入荷なんかを強化したいって。」


「あぁ……そうなんですね?」


「雪夏ちゃんが店長ならいいのにな。

オッサンよりお姉ちゃんの方が店内明るくなりそうじゃん?」


オッサンと言った瞬間に優子さんの背後に店長が……。


「優子さん、後ろ……。」


「え?」


優子さんが振り向く。


「あっ、店長。

もう用事済んだんですか?」


「オッサンって?」


「あっ、気のせいかと?」


「そう?」


店長の目が怖かった。


「雪夏ちゃーん、お仕事しよっかぁ?」


「はい……。」


優子さんが誤魔化してるけど、無駄っぽい。


「オッサンって言われたくないなら、若々しくシャキッとしなさいよ!」


良子さんが店長にそう言う。

店長は苦笑いしながら、どこかに行ってしまった。

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