第3章 第8話

仕事中に桝本さんがいると、ついビクビクしてしまう。

桝本さんがレジにいるから、私は店の隅で品出しをしているフリをしている。


「ほらぁ、そういう態度だから、なめられるの!

貴女は社員、向こうはバイト。

ちゃんと思ってる事は言いなさい!」


良子さんが言ってくれるのは嬉しい。

でも仕事が出来る人にキツく言って、辞められたら困るのも理解しているつもりで……。


「辞められた困るって?

そんなの知らないわよ。

でもさ、いくら作業早くても客ともめるんだもん、イメージダウンよ?」


「そんなにもめてるんですか?」


「うん。

でも仕事が出来るからみたいなので、店長は強く言えないのよ。

雪夏ちゃん、社長とか専務と話して来たらどうなの?」


「え?」


社長とか専務に話すような事だろうか?


「呼びましたか?」


誰かの気配がして、聞き覚えのある声が聞こえた。


「せ……専務!」


「小豆沢さん、奥で話しましょうか?」


専務と話すことになってしまった。

それはそれで緊張する。


「小豆沢さん、率直に聞きますが、特定の店員と上手く行っていないというのは本当ですか?」


「はい……。」


「そうですか。

その店員というのは、桝本さんでしょうか?」


「え?

名前まで?」


「はい。

彼女はちょっと拘りが強いと言いますか、凄く真面目で一直線なので、周りの空気を読むとか気配りをするのが苦手だそうです。」


何で専務がそこまで知っているのだろう……。


「彼女の御両親は迷惑をかけるようでしたら、辞めさせて下さいと言っています。

貴女はどう思いますか。」


「そうですね。

レジ係という作業は向いていますが、接客はめちゃくちゃだと思います。

作業する事でとても役に立ちますが、御客様の批判的な意見に逆ギレしてしまうのは良くないですね。」


「その悪い部分を店長が指導出来ていないと思われますか?」


「出来ていません。

彼女が辞めたら困るからって。」


「そうですか。

それでは、彼女が辞めてもいいので、彼女を指導してみませんか?」


「え?

私が……ですか?

まだ仕事も習っているのに。」


「じゃあ、彼女を貴女の指導係にしましょう。

レジは教えて貰えるでしょう?」


「……。」


「まぁ、そう嫌な顔なさらずに。」


とんでもない提案をされた気がする。

私……このまま働けるのだろうか。

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