第3章 第2話

つい先日までの通学路。

それが私の通勤路になる。


「はい。」


「おはようございます。

今日からこちらで御世話になる小豆沢です……。」


「お待ち下さい。」


教わった裏口のインターホンで話す。

私の研修先のドラッグストアは24時間営業。

働いている全員に挨拶するまで時間がかかりそう。


「どうぞ。」


裏口を開けてくれたのは、よく見かける店員だった。


「あれ?

貴女、そこの高校の生徒だった?」


「はい……。」


「いつも歌いながらスポーツドリンクとか買ってたわよね?」


「聞いてました?」


「聞こえちゃいました。」


「すみません。」


「いいのよ。

元気だなって思って見てただけ。」


恥ずかしかった……。

小さい声で歌ってたつもりが聞こえていたなんて……。


「あっ、ちょっと、そこ避けて!」


「あっ、すみません。」


段ボール箱を潰したのを沢山抱えて来た店員がいる。


「はぁ……。

今日の入荷数は多すぎるよね。」


「店長がいっぱい発注したんでしょう?」


「え?

僕のせい?」


「そうでしょ?」


「え?

そうなの?」


「もう少しマメに在庫管理しなさいって、婿に言われたじゃないの!」


「アハハ……。」


「アハハじゃないよ。

新入社員の前でだらしない。」


「え?」


店長が私を見てキョトンとしている。


「万引きじゃないのか。」


「違うわよ!」


「そうだよな、いつも歌ってる子だもんな。

悪い子に思えない。」


「悪い子じゃないよ、むしろ良い子!」


「だよな。

社長助けたんだっけ?」


「え?

例の助けた新入社員、この子なの?」


「社長の恩人が行くから頼むって、婿に言われた。」


「あぁ……婿に。」


私がいるのに、いないみたいに会話が続く。


「えっと、新入社員ちゃん、名前は?」


「小豆沢雪夏です。」


「小豆沢ちゃん……長いな。

雪夏ちゃんでいい?」


「はい……。」


「うちの店舗は、こんな感じでアットホームね。

私は店長の椚田巌くぬぎだいわおです。」


失礼だけど、巌って名前が似合わない店長。


「巌って顔じゃないって思うでしょ?」


すかさず店員がツッコミ入れるものだから、顔に出さないように……。


「雪夏ちゃん、貴女、顔に出てるわよ?」


「す、すみません。」


「御客様の前では気を付けて。」


「はい。」


「それで私は椚田良子くぬぎだよしこ

店長の親戚ね。

血縁関係は無いけど。

良子ちゃんとか良子さんって呼んで。」


「じゃあ、良子さんで……。」


随分、店長になれなれしいと思ったら、店長の親戚だった。


「それで、私が何で奥にいるかって言うと、持病のヘルニアが悪化してね。

裏方してるのよ。」


「そうなんですか。

出勤も大変ですね。」


「そうなのよ。

そのスーツ姿で店内で仕事するのもアレだから、今日は私がここで色々教えるわね。」


「はい。

宜しくお願いします!」


「こちらこそ。」


今日から、この店で働く。

店長も良子さんも優しくて良かった。


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