第2章 第39話

私は毎年地元の秋祭りに行っている。

秋奈に秋祭りの事を話したら、迷いもせずに一緒に行くと言ってくれた。

そんなわけで、私達は秋祭りの会場にいる。


「本当はさぁ……軽部先輩と行きたかったんでしょう?」


秋奈が苑香に言った。


「軽部先輩も仕事だし、高校最後の秋祭りの思い出作っておいでって言われた。」


「ほーんと、いい彼氏よね。」


「え?」


「文化祭の時だって、皆で楽しんだ方がいいって言ってたでしょう?」


「そうだね。」


「何か彼女に対して、友達を大切にしなさいって言う男は三人しか知らないわ。」


「え?」


「うちの兄、軽部先輩……。」


「あとは?」


「佐藤先輩……。」


「あぁ……確かにね、そういう所あるね。」


苑香が納得している。


「ねぇねぇ、雪夏って出店で何を買うタイプ?」


胡桃が目を輝かせながら聞いてくる。


「うーん、わたあめ?」


「わたあめ?」


「うん、昔から大好きなんだ。」


「そっか。」


「でも一人じゃ食べきれないよね。」


「一緒に食べよう!

私、しばらく食べてないから食べたい!」


私は胡桃と、わたあめを買う。


「あぁ……これこれ、美味しーい!」


胡桃が嬉しそうに食べている。


「私にもちょうだい!」


「私も!」


秋奈も苑香も一緒に食べる。


「あぁ……どうしよ?

髪について、ベッタベタ。」


私はいつもわたあめを食べると髪についてしまって、ベタベタになる。


「あそこにトイレあるし、洗って来たら?」


「うん。」


私は急いでトイレに行く……と。


「ちょっと、雪夏!」


聞き覚えのある声がする。


「さ……佐藤先輩……。」


佐藤先輩がちょうどトイレから出て来た所だった。


「お前、またわたあめを食ったのか?

髪に付いてるぞ!

ほら……。」


「あっ……ありがとう……。」


佐藤先輩がわたあめを取ってくれた。

でも気まずい……。


「雪夏さぁ……。」


佐藤先輩が何か言いかけた時、


「拓哉、早く!」


誰か女性が呼んでいる。


「ごめん、行くわ。」


「うん、ありがとう。」


佐藤先輩が走って行った。

見た事の無い女性と歩く姿を見て、あぁ……また彼女変わったんだ……って思った。

でもそこまで悲しくも無かった。

私は急いでトイレの洗面台でベタベタしている部分を洗って、皆の所へ戻った。


「ねぇ?

佐藤先輩に話しかけられてたでしょう?」


胡桃が言う。


「うん。」


「また新しい人を連れてたね?」


「うん。」


「大丈夫?」


「うん。」


今回は涙が出なかった。



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