第2章 第32話

「ちょっと、大丈夫なの?」


軽部先輩が帰ってすぐに、秋奈と胡桃が校庭に来た。


「苑香、自分で言う?」


「言えない……ふえーん……。」


苑香が私の腕にしがみついて泣いている。


「私が言う?」


「うん……。」


ちょっと荷が重い……って思ったけど、私が言うと決めた。


「苑香、軽部先輩に告白されたって。」


「えぇー?!」


胡桃が大きな声を出して、ちょっと恥ずかしい。


「えーっ、苑香、良かったじゃん。」


胡桃が苑香抱きしめた。

すると、


「軽部先輩、中々やるわね。

文化祭の日に告白されて付き合ったら別れないって言うわよね?」


秋奈が呟くように言って、何だかおかしくて笑ってしまった。


「雪夏は泣いたり笑ったり忙しいね。」


「アハハ、何で私まで泣いちゃったんだろうね?」


「嬉しいからでしょ。

ずっと見守って来た恋だもの。」


「うん。」


凄く凄く嬉しい。

だから、後夜祭なんてどうでもいいんだけど……。


「軽部先輩が気遣って、後夜祭に出られるように帰ったんでしょう?

もうそろそろ体育館に行こう?」


秋奈が時計を見ながら言った。


「そうだけど、苑香、顔が真っ赤……。」


「大丈夫だよ。

体育館暗いもん。」


「そうだ、ステージだけ明るいんだった。

じゃあ、バレないかな。

タオルで冷やしながら行けばいいよ。」


「そうだね。

暑いから汗を拭いてるフリをすればいいじゃん!」


私達は皆で体育館に向かった。


「苑香の好きな軽音部も出るよ。

前に行く?」


「ううん、前には行かない。」


「じゃあ、後ろの方でのんびりしようか?」


「うん。」


私達は後夜祭どころじゃなく、カップル誕生祭をしたい。

でも、今日の文化祭で何組のカップルが生まれたか知らない。

だけど、毎年文化祭の後は廊下にカップルが増えたりするのも事実。


「はぁ……大好きなリックン見ても、ときめかない。」


「え?

リックン?」


「ほら、あの人!」


苑香がさっき、キャーキャー言いながら観ていたキーボードの人がリックンというらしい。


「キーボード?」


「うん。

でもさ……。」


「ん?」


「私が軽部先輩と付き合ったら、雪夏は佐藤先輩を思い出して辛くない?」


「アハハ、そんなの関係ないよ!」


「そう?」


「うん。

佐藤先輩だって新しいパートナーと前を見ているはずだし。」


「うーん。

何かさ、また彼女変わったみたいだよ?」


「ふーん……。」


元彼の彼女が変わっても関係ない。

関係ないけど、何で続かないのか不思議。

やっぱり、何か隠してるのかな?


「あっ、何か皆で歌うって!」


胡桃がそう言った瞬間に、軽音部の演奏で、皆が歌い出す。

私達もつられるように歌い出す。

合唱コンクールの時よりも強い一体感。

何か、凄く楽しい!

こういうのを軽部先輩は楽しんで欲しかったのかな?って思った。







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