第2章 第31話

文化祭が終わった……とは言え、後夜祭というものがある。


「あっ、ごめん、ちょっと出てくる。」


苑香が荷物も持たずにいなくなった。

私は秋奈と胡桃と一緒に窓際で涼んでいた。


「夏って、いつまでだっけ?」


「制服の衣替えは十月だよね?」


「じゃあ、まだ夏かぁ……。

あっついね!」


私達はしっとり汗をかいている。


「ちょっと、あれ、苑香じゃん?」


「あっ、本当だ!」


胡桃が校庭の真ん中にいる苑香を見つけた。


「え?

誰か来るじゃん?」


「ん?」


「あっ、軽部先輩じゃん?」


「え?

あっ、本当だ……。」


苑香に軽部先輩が近付いて何か話している。

何を話しているか聞こえないんだけど……。


「え?

苑香、座り込んで何してるの?」


「ん?

泣いてる?」


「は?

泣かされた?

行った方がいいのかな?」


三人でオロオロしていると、私のスマホにメッセージが届いた。

それは、軽部先輩からだった。


『ごめん、雪夏ちゃん。

苑香ちゃんを校庭まで迎えに来て。』


これは行かなくちゃ……。


「ちょっと行ってくる!」


私は一人で教室を飛び出した。

校庭まで一生懸命走って行った。

そして、苑香と軽部先輩の近くに辿り着いた。


「ごめんね、来てもらって。」


軽部先輩が申し訳なさそうに言う。


「はい……。」


「ちょっと苑香ちゃん泣いてるから、俺から話すんだけど……。」


軽部先輩がいつもと違う雰囲気だなって思った。


「雪夏ちゃんは、うちの学校の言い伝え知ってる?」


「言い伝え?」


「文化祭の……。」


「あぁ……文化祭の日に告白されて付き合ったら別れないってヤツですか?」


「うん。」


苑香が『文化祭の日に告白されたい』とずっと言っていた気がする。


「俺、今日の昼間来るつもりが寝過ごしちゃってさ。」


「昨日も来てたけど……。」


「うん。

でも昨日は拓哉が暴走しちゃってさ。」


「あぁ……私のせいですね……。」


「まぁ、それはいいんだ。

本当は昨日、苑香ちゃんと話したかったんだけど話せなくて。

昨日は夜中まで拓哉に付き合ってたから、すっかり寝坊して。

起きてすぐここに来たんだ。」


「それはお疲れ様です。」


何かちょっぴり罪悪感が芽生えて来た……。


「苑香ちゃん、文化祭の日に告白されたいって言ってたからさ。」


「え?

それって……。」


「うん。

俺と付き合って下さいって言った。」


「……。」


「ごめん、びっくりしたよね?」


「はい……。」


びっくりしすぎて涙が溢れて来た。


「あの……、苑香、返事したんですか?」


「うん、宜しくお願いしますって。」


「そうですか……。

何か私まで泣いちゃって……ごめんなさい。」


「ううん、何か俺も泣きそう。」


泣きそうって言いつつ、ちょっと涙ぐんでいる軽部先輩。

やっぱり、いい人だなって思った。


「高校最後の後夜祭、友達といた方がいいと思って。

だから、雪夏ちゃんに迎えに来てもらった。」


「軽部先輩……やっぱ、いい人だね。」


「あはは、それ良い意味だよね?」


「はい。」


「彼女の事、宜しくね。」


「はい。」


軽部先輩が笑っている。


「ほら、後夜祭に行っておいで!」


「……。」


苑香は軽部先輩に立たせてもらった。


「苑香ちゃん、またね。」


「はい……。

先輩……。」


苑香が軽部先輩に何か言いたそうだ。


「ん?」


「好きです……。」


「ハハッ、ありがとう。

じゃあね!」


軽部先輩は笑いながら去って行った。




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