第2章 第30話

文化祭二日目。


「これは……何だか笑いがじわりじわりと込み上げる作品ね。」


秋奈がボソッと言う。

私達は体育館で演劇部の劇を観ていた。

昨日の事はすっかり昔の事のように思えている。


「この次は軽音部だっけ?」


「そうそう。

軽音部でギターやってるのが友達の彼氏で、ベースやってるのが友達。」


「カップルなの?」


「うん。

ドラムとボーカルもカップルね。

キーボードの子は恋愛興味無いって人だから、カップルいても気にならないんだって。」


「へぇー、そうなんだ。」


軽音部の事は知らなかった。

胡桃がいなかったら、内部事情が分からないまま聴いてた。

分からないままでも良い情報だけど……。


「始まったわ。

生演奏って凄いわね。

ドラム叩きたいわ。」


「ドラム出来るの?」


「やった事は無いわ。

でもキーボードは出来るのよ。

ピアノ習ってたから、指は動くのよ。」


そういえば、秋奈がピアノコンクールで賞をとった事があるのは知っている。


「あっ、今、ベース間違えたのかな。」


「え?」


「ちょっと変な音がしたわ。

目立たないから誤魔化せたかな?」


そういえば、秋奈は絶対音感があるんだとか……。

秋奈の発言を無視してるかのように苑香はキャーキャー言っている。


「苑香はあのキーボードのファンなの。

恋愛感情とかじゃないけど。」


胡桃がそう教えてくれたけど、確かに軽部先輩とは違うタイプだった。


「そういえば、伊納君もバンドやってて、これから出るんだって?」


「え?

そうなの?」


あの地味な伊納君がバンドをしてるだなんて……。


「ほら、あそこにいるじゃん?」


「え?

暗くて見えない。」


「伊納君はベーシストなの。」


「へぇー。」


昨日と今日の二日間、やたらと伊納君の情報が入って来る。

だからと言って、お世話になった人と言うだけで、恋愛感情は生まれていない。


「ほら、伊納君達のバンド始まるよ!」


「え?

何か凄い人気あるじゃん?」


「そうだね。」


「でも伊納君はいないよ?」


「いるよ、あのベース!」


「えぇー?!」


伊納君は眼鏡を外しただけで、めちゃくちゃイケメンに見えた!

別人かと思った……。

胡桃がいなかったら、気付いていないかも?


「うん、変わってないわね。」


秋奈がボソッと呟く。


「え?」


「伊納君は私と同じ音楽教室で色んな楽器をやってたのよ。

私はピアノだけで、彼は昔から弦楽器が気に入ってたようで。」


「そうなんだ?」


「上手いわよ。

人気あるのも分かるわね。」


秋奈は真面目に聴いている。


「え?

あの人って伊納君なの?」


苑香が今更質問して来る。

さっきの話は聞いてなかったみたい。


「伊納君だよ。」


「別人かと思った。

イケメンじゃん?」


「だよね。」


この文化祭は同級生の意外な一面を見る為のものだったのか?と思った。






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