第2章 第26話

「とうとう、夏休みも終わるのね。」


「終わるね。」


胡桃と私はカフェでダラダラしていた。

カフェには新しいアルバイトの主婦が入って、胡桃の仕事はあまり無くなっていた。


「このカフェも胡桃のおかげで御客様増えたね?」


「え?」


「胡桃の接客が好きって人が多いってヤスダさんが言ってた。

そういえばヤスダさんのヤスダって、どう書くの?」


「漢字の事?

安いって言う字に、田んぼの田だよ。」


「へーっ、その文字で安田さんなんだ。

うちの近所のヤスダさんは、保健体育の保っていう字だからさ。」


「あぁ……そういうヤスダさんもいるよね。」


「最近、安田さんを見ないね?」


「来てるのよ。

でも夜が多いかな。」


「胡桃は夜も手伝ってるの?」


「接客しないけどね。

こっそり奥で洗い物とかしてる。」


「そうなんだ、偉いね。」


胡桃はちゃんと家業を手伝って、継ぐつもりだから凄い。

そう思ってたら、苑香がフラフラ歩いてきた。


「あぁ……もう寝不足だよ。

聞いて、昨日の夜、部屋に蚊がいたの。」


「捕まえられなかった?」


「うん、プーンって耳元にやって来るし、あれって嫌がらせ?」


「知るわけないでしょうが!」


「あぁ……ちょっと寝る。

ここ気持ちいいわ。」


「長く寝ないでよ?

寝言多いから。」


「言わないよ、寝言。」


苑香がパタンと寝てしまった。


「え?

苑香、寝てるの?」


秋奈が疲れたような表情でやって来た。


「寝てるよ。

うちの店、快適な温度だから良いらしい!」


「アハハ……。

まぁ居心地良い温度に保たれてるけど、苑香、寝言言うもんね。」


「言うよ。

大きな声で言われると御客様がビックリするよね。」


「うん、分かるわ。」


秋奈が呆れたような表情で苑香を見ている。


「それにしても秋奈は疲れてない?」


「うーん、そうかな?」


「風邪とか夏バテとか熱中症とかダメよ?」


「うん、気を付けてる。

でも、今、アレだからさ、ちょっと貧血気味?」


「あぁ……アレか。」


「生理痛キツい……。」


「アレって言ったくせに生理痛って言うの?」


「あっ、言っちゃった。」


「アハハ、ちょっと秋奈、調子悪すぎない?

ちょっと温かい物を飲んだ方がいいよ。

何か持って来ようか?」


「あっ、じゃあ、スープ飲みたい。

コンソメスープ。

勿論、お金は払うよ!」


「うん、分かった。

準備して来るね。」


胡桃が席を立つ。


「はぁ……夏休み、今日までだね。」


「うん。」


「でも、楽しかったね。」


「うん。」


凄く楽しくて充実した夏休みだった。

ちょっぴり切ないけど……。





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