第2章 第25話

「皆、ごめんね。

明日の午後には塾だから……。」


秋奈が部屋に着いたとたんに言う。


「そんなの分かってるよ。

さっさと寝よう?」


「うん、でも……。」


「でも?

どうした?」


「私、塾をサボって皆ともっといたいって思った……。」


「秋奈……マジで可愛いじゃん!」


秋奈に苑香が抱きついている。

すると、胡桃が秋奈に話しかける。


「秋奈、うちらの高三って長いようで短いんだよ。」


「うん……。」


「だから勉強頑張って遊びも頑張るの。

こうして四人でいられるのって、簡単に思えるけど、卒業したら難しいじゃない?」


「そうね。」


「だから、会える時はいっぱい話そう?!」


「うん。」


「だから、逆に明日はサボらないで。」


「うん。」


「ところで、苑香はいつまでくっついてるの?」


「暑いのにね……。」


秋奈と胡桃が苦笑いすると、苑香は秋奈から離れた。


「それでさー、雪夏は平気?」


胡桃が心配そうに私を見る。


「え?

私?

何が?」


「佐藤先輩の事。」


「うーん……何かもう分からないや。」


「そっか。

分からないか。

でも分からないって本音じゃん?

大丈夫って言われる方が心配。」


「大丈夫って、どんな時も言える魔法の言葉だよね。

本当に平気でもそうでなくても言うもんね?」


「そうだよね。

でも思ったより元気そうだね。」


「わりと元気かな?」


「何かあったら言ってね?」


「うん、ありがとう。」


すぐに寝るつもりの女子達の夜。

寝るつもりなだけで、夜遅くまで喋り続けた。

そして、勿論、睡眠不足のまま朝を迎える。


「おはよう!」


爽やかに秋奈の兄が起こしに来る。


「あぁ……もう朝なのね。

時間を止めたい……。

眠いわ……。

兄さん、もう少し寝かせてもらえない?」


「秋奈が寝不足?

珍しいじゃないか!」


「私、修学旅行だって真っ先に寝たのよ?

でも……真っ先に寝たくなかったのよ。」


「今日は休んだらどうだ?」


「ううん、休まない。

ちゃんと行くって約束したの。」


「じゃあ、送迎しようか?」


「うん、助かるわ。」


秋奈が秋奈の兄と話している声で、私と胡桃は目覚めた。


「あぁ……苑香、起きないわ。」


「起きないね。」


苑香は爆睡している。

結局、苑香が起きたのは、秋奈が塾に行く寸前だった。


「お邪魔しました!」


「皆、ありがとう!」


「またね!」


「うん、また。」


胡桃と苑香の家は私と反対方向にあるから、私も二人とはここでお別れ。


「一人で平気?」


「うん、ありがとう!

またね!」


「うん、また。」


私は一人で家に帰って……すぐに爆睡した。

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