第2章 第20話

「すみません。」


真綾さんを見送ってすぐに苑香と私に声をかけて来た男性がいる。

この人、カフェの常連さんって胡桃が言ってた。


「はい。」


「ちょっと一緒にお話させてもらえますか?」


「はい?」


「あっ、すみません。

やっぱ、いいです……」


男性が慌てて去ろうとする。


「別にいいじゃん、話すくらい。」


苑香が呟く。


「え?

本当ですか?」


「いいですよ。」


「じゃあ、あの隅の席で。」


「え?」


「すみません。

ちょっと、彼女に聞かれたくないので。」


男性がチラッと胡桃を見た。


「え?

何で?

ん?

もしかして……。

うん、隅っこでいい!」


苑香の頭に色んな事が過ったらしい。


「御二人は飲み物とかスイーツとか召し上がります?」


「え?」


「僕、御馳走しますけど。」


「あっ、じゃあ……レモンスカッシュ飲みたいです!」


「あぁ、ここのレモンスカッシュ美味しいですよね!

マスターの絶妙な加減がたまらないです!」


「詳しいですね……。

確かに胡桃パパの絶妙な加減がたまらないんだけど。」


苑香と男性が盛り上がってる。


「そちらのお嬢さんは、どうしますか?」


そちらのお嬢さん……って?!

わ、私か……!


「私も同じ物で。」


「じゃあ、皆、同じ物にしましょう!

僕、注文して来ますから、席で待ってて下さい!」


男性は嬉しそうにマスターこと胡桃のパパに注文しに行った。

私と苑香は奥の席に座った。


「すぐにお持ちしますって!」


男性は小走りで席までやって来た。

そんな走らなくてもいいのに……。


「あの、飲み物来たら話しますね。」


「はい。」


レモンスカッシュが運ばれるまでの沈黙している時間が長く感じる。


「お待たせしました!」


アルバイトの女性がレモンスカッシュを運んで来た。

やっと喋れる!って思ってしまった。


「いただきまーす!」


私と苑香は同時に言った。


「どうぞ!

おかわりもしていいですからね!」


「え?

本当ですか?」


苑香が目を輝かせている。

そんなに喉が渇いてるの?


「あの、私、学校の講習の帰りで喉カラカラなんですよ。」


「そうなんですね、お疲れ様です!」


苑香は喉が渇いていたらしい。

私はさっき飲んだばかりだから、少しずつ飲めばいい。


「それで、何のお話……。

あっ、天然水かき氷も注文していいです?」


「どうぞ!」


苑香は追加注文までしているけど、図々しくないか?と心配になった。

そして、かき氷運ばれると、


「それで、何のお話でしたっけ?」


苑香がかき氷を食べながら、やっと話す気分になったらしい……。


「いきなりなんですが……胡桃さんはあの彼氏さんと別れたって本当ですか?」


「うん、終わった。」


「そうですか……。」


「貴方、胡桃の事が好きなんですか?」


「……。」


男性が顔を真っ赤にしている。


「苑香、率直すぎる!」


「え?

遠回しより良いじゃん?」


苑香の率直な所、羨ましいけど、たまにヒヤヒヤさせられる。


「あの……。」


男性は助けを求めるような目で私を見る。


「すみません。

率直すぎますよね。」


「いえ、大丈夫です……。

お察しの通りなので……。」


男性の顔は更に赤くなったような……。


「それで、私達にはどのような話を?」


「僕……前から彼女の事が好きなんです。」


「そ……そうなんですね。」


「とても可愛くて話し上手で気配り上手の看板娘で、僕みたいな者がお近づきになっていいものかと。」


男性は寂しそうにしている。


「僕みたいなって思ってちゃダメじゃないの?

僕だからって思わないと!」


苑香がイラついている。


「すみません……。」


「もう面倒くさいから、胡桃と話したら?

私、呼んでくるから。」


「え?」


苑香が胡桃を呼びに行った。

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