第2章 第19話

「やり直す気は無い?」


「……。」


ハッキリと『無いです』と言えない。

でも言わないといけない気がした。


「もしかして未練が?」


「な……無いです……。」


「無いの?」


「はい……残念ながら。」


「そうかぁ、残念。」


もう何かよく分からないけど、私は色んな意味で残念な気分。


「ところでさぁ、苑香とはどう?」


「あまり会えて無いですね。」


「ふーん。」


真綾さんは何か言いたそうで言わない。


「ここだけの話ね。」


「はい。」


「苑香と佐藤君、ちょっとあやしいかも?」


「ええっ?!」


驚いて、席から立ってしまった。


「嘘だよ。」


「はい?」


「どうして、そんなに驚いた?」


「だって、苑香は軽部先輩が……。」


「そうかぁ、そうだよね。

言わないけど、好きそうって思ってた。」


「あっ、言っちゃマズかったかも……。」


「ううん、最近交流も無かったから、知らなくて当然なのよ。」


何だかちょっぴり真綾さんは寂しそうに見えた。


「私、二十歳になったら結婚するのよ。」


「え?」


「婿を迎えるの。

うちの父は中々子宝に恵まれず、やっと生まれたのが私だったのね。

跡継ぎが欲しいから早く結婚しろって。」


「……。」


「そんな悲しそうな顔をしないで。

私は本気で彼を愛してるのよ。」


「そ……そうなんですね。」


「でも結婚したら、もっと苑香との交流も減るのかしらね。

それを考えたら悲しくなっちゃった。」


真綾さんは泣きそうにしている。


「平気ですよ、ネットで繋がれる時代ですよ。」


「そうね。」


「ちゃんと苑香に言ってあげて下さい。」


「え?」


「交流減ったら悲しいって。」


「……。」


「言ったら、マメに連絡くれるかもしれませんよ。」


その時、私は気配を感じて後ろを向いた。

苑香が立っていた。


「そ、苑香!」


「うん、おはよ。」


「おはよう。

って、どこから聞いてたの?」


「結婚するとかって所?」


「声かけてよー!」


「ごめん。」


苑香が困ったような表情をしてる。


「ちょっと、私、トイレ言って来るから。

苑香、真綾さんと話してて!」


私は慌ててトイレに向かうふりをして、胡桃のいるカウンターの中に隠れさせてもらった。

何を話してるか分からないけど、真綾さんと苑香が笑顔で話しているのが見えた。

しばらくして、席に戻ると、真綾さんが席を立つ。


「私、そろそろ行くわ。」


「はい。

ごちそうさまでした!」


「苑香の事、宜しくね。」


「はい。」


「佐藤君が何で貴女を選んだのか分かった気がするわ。」


「え?」


「フフッ、それじゃ、またね。」


「はい、ありがとうございました!」


真綾さんが帰って行くのを、私と苑香は見送った。

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